悪ふざけ架空戦記2   暦新島上陸作戦




第91回〜第100回









「今のところ、優劣不明といった状況のようですね」

「まあ、確かにそのようです。いくら装甲車輌であっても、市街戦ではその実力を完全に発揮はできません。建物を利用した応戦が、いくらでもできますからね。突然陰から投げ付けられる、手榴弾や火炎瓶を完全阻止できる訳もありませんし。擲弾筒による攻撃も可能です」

「しかし、敵はまだ九官鳥街路には到達していないのでしょうか。高射砲部隊からの報告がまだ・・・」

 可口可楽大佐がそう言いかけたところで、その高射砲部隊からの報告が入ってくる。

「高射砲部隊は、九官鳥街路に侵入した敵戦車五両を撃破!なお、敵は残骸を放置したまま、九官鳥街路からは退却した模様。味方の損害はなし!」

 この報告を聞いて、里将軍は笑みを浮かべた。

「上手くいったようですね。九官鳥街路に出る道には、敢えて地雷を埋めずにいたのですが、敵は罠とは気付かなかったようです。大佐の作戦は成功しました」

 これを聞いて、可口可楽大佐も、嬉しそうに笑う。

「やりましたね。やはり、我が方の地の利は大きいと思います。敵は、九官鳥街路の危険性に、気付かなかったのでしょう。却って、対戦車砲に効果がなかったことが、煙幕として利いたのかも」

 里将軍と可口可楽大佐の配置は絶妙で、装甲車輌が地雷や抵抗の激しい拠点を避けて進むと、嫌でも九官鳥街路に出るようになっている。狭い道から、広い大通りに出ることにもなるので、図体の大きい戦車などにとっては、歓迎すべきことのように見える。この心理的間隙を突くのが、里将軍の作戦だった訳だ。
(第91回終了)




「大通りに出たところで、射程の長い対戦車砲に撃たれて、戦車五両を損失。なお、それによって道路が塞がれた為、現在進撃を見合わせているところ」

「プロパ・ブンヤ」連隊からの報告に、ルドルフ将軍は歯ぎしりした。

「畜生!イカサマ将軍野郎め、やってくれましたな。道理で、酉京市中央の大路への進出が、簡単に行くはずです。対戦車砲の威力が僅少だったから、すっかり油断していました」

 悔しがる将軍である。

「しかし、敵の対戦車砲は、威力が小さかったのではないでしょうか?今になって急に、強力な対戦車砲が出てくるというのも、不合理な気がしますが」

 スカイラーク中佐が疑問を呈した。

「インチキ野郎でも、アハト・アハト(ドイツの88mm高射砲のこと)の事例は知っていたんでしょうな。徹甲弾があれば、対戦車用に転用できる、ということを。奴が使ったのは、高射砲です」

 なお、俗説でよく言われる、「フランス戦で使用されたのが、88mm高射砲の対戦車用使用の始まり」ということは、実は違うのだそうだ。その前の、スペイン内戦に派遣されたドイツ軍が高射砲を対戦車用に転用した、ということが事の始まりで、フランス戦の時は以前の経験があったので、転用は簡単に出来た、のだそうである。

「高射砲ですか・・・・まあ確かに、それなら。そこら辺の対戦車砲より、余程威力があるでしょう」

 スカイラーク中佐も、ルドルフ将軍の推測に納得した。

「それで、中央通り方面はどうしますか?兵力を撤退させたままでいいんでしょうか」

 中佐の続けての問いに、ルドルフ将軍は不承不承といった様子だ。

「やむを得ませんネ。それに、道自体、こちらの戦車の残骸で塞がれてしまっているのでは、これ以上どうしようもアリマセン。中央の大通りは避けるように、全部隊に命令を出しましょう」

 不満そうなルドルフ将軍であるが、見通しの良い大通りに、長射程の高射砲を対戦車用に配置されてしまったのでは、手の打ちようがない。ここは、諦めて他の方向からの攻めを考えるしかない。

「ところで、このまま攻勢を続けますか?そろそろ、日も落ちかけているのですが・・・・」

 スカイラーク中佐は、ルドルフ将軍に質問した。朝から戦い続けているだけに、そろそろ将兵にも疲労が溜まってくるところだ。また、夜間戦闘に入ると、地の利がある敵の方が断然有利になる。

「いや、日が落ちたところで、攻勢は中止させ、防御態勢を取らせましょう。夜間戦闘では、敵の方が有利ですからネ」

 さすがに、ルドルフ将軍は敵の地の利を弁えている。無理に攻勢を継続させるつもりはないようだ。

「しかし、交替で不寝番を立てて、厳重に警戒するように。イカサマ野郎が、夜襲を掛けてくる可能性は大です。いや、やってこない訳はアリマセン」

 ここは、ルドルフ将軍としても確信があるところだ。敵が装甲車輌のない不利を覆すには、地の利を十分に生かせる夜襲を連続的に行うしかない。
(第92回終了)




「間もなく日没ですが・・・・」

 対処を伺う可口可楽大佐に、里将軍は反問した。

「敵の様子はどうでしょう?」

「前線からの報告では、攻勢を中断し、防戦体勢を整えているようですね。夜間戦闘を行うつもりはないようです」

 可口可楽大佐のまとめに、里将軍は頷いた。

「なるほど、敵としてはしては、それはそれで当然の対処かも知れませんね。しかし、こちらがそれに付き合う必要はありません。夜襲を仕掛けて、更なる損害を与えてやらねば」

 将軍は意気込んだ。

「それで、その方法は?」

「小部隊多数を編成し、同時多発的に、前線で戦闘状態を発生させます。もちろんこれは陽動で、本攻撃は迂回して敵の後方から浸透する訳ですね。メインは、下水道を通っての浸透戦術です。いきなり敵中に姿を現す事ができますから、効果は抜群でしょう」

 下水道を使っての浸透戦術は、スターリングラードのソ連軍式のやり方である。地の利を生かし、下水道を通っていきなり後方に現れ、銃弾を浴びせ手榴弾を投げ付けてくるやり口に、ドイツ軍は悩まされた。

「なるほど。それなら、市内の地理を詳細に知っている、我が軍が圧倒的に有利です。敵に大損害を与えるには、それしかありませんね」

 可口可楽大佐は、里将軍の案に頷き、早速下水道浸透作戦部隊の選抜を始める。作戦名は「闇夜の鴉」、あくまで、どこかに鳥の名前を付けることが、作戦名の命名基準になっているが為であった。



 夜に入って、ちゃちゃちゃ軍支配地域の後方地区に、続々と酉国歩兵が現れ、浸透してくるようになる。各所で遭遇戦が頻発し、ちゃちゃちゃ軍には被害が続出した。

 何しろ、酉京市内の地理については、酉国兵に一日の長がある。下水道を使用し、警戒の薄い敵の後方に姿を現して、自由自在に攻撃を行うのだ。これには、ルドルフ将軍も激怒した。

何たることです!あれほど、『夜襲には気を付けろ』と全部隊に厳命しておいたというのに!!あまりにブザマではないですか!!!」

 そこら中の部隊から、救援要請が入る羽目に陥ってしまっているのでは、完全に敗勢である。

「しかし、警戒を命じていたのに、この体たらくはどうしたことなんでしょうか?」

 スカイラーク中佐の疑問に、ルドルフ将軍は即答した。

「スターリングラードのロスケの戦法を使ったんですよ、インチキ将軍は。下水道です。あのイカサマ野郎、つまらん小手先の戦術ばかりは、やるようですネ」

 さすがに、古今東西の戦史に明るいルドルフ将軍は、直ぐに里将軍の使った手を見破ったようだ。しかし、下水道を経由されるのでは、対策のやりようがない。酉京市内の下水道の地図までは、ちゃちゃちゃ国軍には用意できていないからだ。もちろん、存在することが分かりきっているマンホールを警戒することは不可能ではないだろうが、占領した地区の全てについて、マンホールの位置を探るまでには、それなりに時間がかかる。日没間際まで戦闘を継続していたのでは、そういうことに気が回っていなくても、仕方のないことだ。
(第93回終了)




「やむを得マセン。全軍に市外への後退命令を。このままでは、被害が嵩むばかりデス」

 ルドルフ将軍は、一時後退を命令した。このまま戦闘を継続しても、自軍の混乱が続くばかりで、敵を利するだけでしかない。

 ルドルフ将軍の命令が発せられると、ちゃちゃちゃ国軍は酉京市内の占領地区を放棄し、後退を開始した。せっかく、一日かけて市内に進攻したのに、これでは元の木阿弥であるが仕方がない。一晩中ゲリラ戦に悩まされるよりは、遙かにましな選択だ。

「おにょれおにょれ。イカサマ将軍野郎、このまま済むと思うんぢゃないぞ!」

 ルドルフ将軍は捨て台詞を吐くと、司令官用のsdkfz251に乗り込んだ。直ぐに後退しないと、ここもいつまで安全かどうか分かったものではない。今すぐにでも、闇の中から手榴弾が飛んできても、おかしくないのである。



「敵軍、後退中!市外に逃げ出すようです!!」

 里在三将軍のもとに、夜襲部隊からの報告が届いた。

「ふふふふふ、戦車で力押しすれば必ず勝てるというものではない、ということをさぞ思い知ったことでしょう。戦いというものは、そのように単純なものではありません」

 将軍は笑みを浮かべ、可口可楽大佐に語りかけた。大佐も「してやったり!」という表情をしている。

「しかし、このまま黙って逃げさせてやる訳には行きませんね。敵が市外に逃げ切る前に、可能な限りの損害を与えてやらねば!」

「当然です。徹底的に追撃するよう、指示を出して下さい。しかし、市外には出ないように。深追いすると危険ですので」

 勝勢になったからといって、里将軍は「イケイケドンドン」とばかりに、気分を高揚させるタイプの将帥ではない。この点は、やたらと調子に乗りやすい、ルドルフ将軍とは対照的である。猛将対智将、いい勝負となっているようだ。
(第94回終了)




 ルドルフ将軍の部隊が酉京市外に退避したところで、里将軍は歩兵部隊の追撃を中止し、兵を退かせた。そして、代わって工兵隊を前線に出すと、地雷やブービートラップ、障害物の設置を行わせる。

「敵は、市街戦を甘く見ています。いくら機甲部隊があるからといって、市街戦で有利とは限らない、ということが分かっていないようですね。これなら、当分の間、出血を強いることが可能でしょう」

 里将軍は、今後の作戦展開に、自信を持ったようである。


「コン畜生!里在三の卑怯者のインチキ野郎め!!便衣兵戦ばかりに徹するとは、いかにも奴らしいイカサマぶりです。これでは、根本的に、考え方を改めねばなりませんネ」

 部隊が市外に脱出したところで、ルドルフ将軍は陣型を組み直させ、麾下の兵を休息させる。いずれにしても、しばらくは作戦展開はできない。昼間の戦闘と夜襲の連続で、兵は疲れ切っているのである。もっとも、相手にもそれは言えることだから、更に攻撃を受ける恐れはあまりないだろう。



 翌朝、ちゃちゃちゃ国軍の攻撃は、艦載機による空襲から始まった。ルドルフ将軍が、夜のうちに要請していたのである。

おーっほっほっほっほっほっほっほっ、またまたあたいの出番だわさ。皆の衆、行っくわよ〜ん!」

 スター・プラスチック少佐は、いつもの通りでやたらと調子に乗っていた。

「どうでもいいですけど、爆撃する場所には注意して下さいよ。前線近くなので、間違って味方を誤爆したら最悪ですから」

 後席の偵察員、ギーモン中尉が釘を刺す。

「ホントにもぉ〜、ギーモンちゃんは余計な心配ばかりするのね〜。あたいの腕を信じなさい、って何度言ったらわかるのよ〜」

 スター・プラスチック少佐はそれでもケラケラと笑っている。


 そうこうしている内に、ルドルフ将軍が指定した、酉京市の外れの上空に、「スタプラ一家」の各機はさしかかった。何しろ、暦新島の近くを遊弋しているちゃちゃちゃ艦隊の空母からは、10分も経たない内に到着するような距離だ。飛行機にとっては目と鼻の先である。

「ドンピシャだわさ。皆の衆、爆撃開始っ〜!!

 先頭のスター・プラスチック少佐機から、無造作に爆弾が切り離されると、後続機も次々と爆弾を投下してゆく。急降下爆撃ではなく、編隊を保ったまま水平爆撃を敢行しているのだ。
(第95回終了)




 着弾すると、大音響とともに建物の残骸が破壊され、瓦礫を撒き散らして行く。すでに、昨日の戦闘で、かなりの破壊を受けていた街並みが、更地に変わって行った。結局、ルドルフ将軍は、市境付近の建物を完全に破壊してしまうつもりだ、ということである。すでに、昨日の戦闘で、市境付近からは非戦闘員はあらかた退避している。無人になったエリアならば、完全破壊しても構わないだろう、ということがルドルフ将軍の考えである。更地にしてしまえば、歩兵が建物を利用して装甲車輌に対抗することは困難になる。

 空母艦載機隊の爆撃が終わると、続いて150mm榴弾砲による攻撃が続いた。雨霰と撃ち込まれた砲弾が、爆撃と同様に市境エリアの構造物を破壊してゆく。

ギャハハハハハー。これでイカサマ野郎も、思い知ったことでしょう(キッパリ!)。つまらん小手先の小細工など、このワタクシに通用する筈もないので〜す!」

 sdkfz251指揮装甲車の上から身を乗り出し、カール・ツァイス社製の双眼鏡でこの光景を眺め、ルドルフ将軍は呵々大笑した。

「それで、この後はどうするので?」

 スカイラーク中佐が一応質問した。

「まだまだ、こんな甘いもんぢゃアリマセン(キッパリ!)。ルフト・ヴァッフェに、もう一度爆撃を行わせてから、突入ですネ」

 ルドルフ将軍は楽しそうに答えた。



 市境付近が絨毯爆撃されている、という報を受け取り、里将軍は目を吊り上げ、肩を怒らせた。

「あの外道ども、酉京市を破壊してしまうつもりですか!絶対に許せません!!

 怒りの声を上げる里将軍に、可口可楽大佐も同調する。

「無差別絨毯爆撃を行うなど、外道も外道、大外道の仕業です。ここは一つ、奴らにしたたかな教訓を与えてやらねば!!」

 怒りに燃える二人だが、差し当たっては何もやりようがない。榴弾砲を隠匿場所から引き出して、遠距離攻撃を掛けるという方法はあるが、弾着観測ができないと命中しないし、空爆中にそれを行ってしまった場合は、隠匿場所が露呈してしまう。数発撃った程度で榴弾砲を爆撃で潰されてしまうのでは、意味がないのだ。

「奴らは、それでも市境部だけしか、爆撃するつもりはないようです。今の内に、中心部に更なる防戦準備を行わせて下さい。地雷とトラップ、障害物を増やすのです!」

 里将軍は、あとしばらくはちゃちゃちゃ軍の酉京市侵入はないと読んで、更なる防御の準備を行わせることにした。
(第96回終了)




「全軍、突入を開始してクダサイ!」

 二度目の艦載機隊による空爆が終わると、ルドルフ将軍は麾下の軍の市内への突入を命じた。すでに、目の前の酉京市市境エリアは、爆撃と砲撃で破壊され、瓦礫の山となっている。建物らしいものは、何一つ残されてはいない。それなりに、広い空間が確保されていた。

 パンター戦車と装甲車を中心とした装甲車輌部隊が先頭を進み、歩兵がその後に続く。里将軍麾下の工兵部隊が仕掛けた地雷やトラップなどは、空爆と砲撃によって全て爆砕されてしまい、何も残ってはいない。進撃を続けるちゃちゃちゃ国軍を、阻むものは存在しなかった。

ギャハハハハハー、さすがのイカサマ野郎も、手も足も出ないようですネ。待っていなサイ、このワタクシがオマエの便衣兵集団を、最後の一兵まで瓦礫の下敷きにしてやりましょう(キッパリ!)」

 ルドルフ将軍は上機嫌である。しかし、その頭上には、あらかさまに怪しい代物が、迫っていたのである。ルドルフ将軍は、未だそれに気付いていない。



むおっふぉっふぉっふぉっふぉっふぉっふぉっふぉ、ひょーっほっほっほっほっほっほっほっほっ。我がマッドライフ犬柳田研究所の新作秘密兵器、メカジラコの威力を思い知るがいい!」

「空野田M−99」のコックピットで、マッドライフ犬柳田博士は、相変わらず怪しい笑い声をあげている。ようやく、酉京市上空に到達した「空野田M−99」は、またまた下に向けて怪しい光を放っていた。「ジラコ」を出現させた時と同様に、転送機を使用しているのだ。



「あ、あれは一体何なのでしょう?」

 グラス・スカイラーク中佐は、「空野田M−99」を指差して、驚きの声をあげた。それを聞いて、ルドルフ将軍も、ようやく事態の急変に気付く。

「な、何ですと!いつの間に、あのようなモノが・・・・・」

 ルドルフ将軍は絶句し、「空野田M−99」の下に、巨大な物体が現れるのを、呆然と眺めていた。そして、それが実体化し始めると、慌てて命令を下す。

ぜ、全軍退却!可及的速やかに酉京市から脱出し、揚陸地点まで戻ってクダサイ!そのまま、海上に撤退します!マッドライフ犬柳田博士のお出ましでは、このまま、ここに居た場合は、ロクなことになる訳がアリマセン!」

「メカジラコ」の姿が完全に現れる前に、ルドルフ将軍は撤退を決意した。さすがに、ルドルフ将軍は、マッドライフ犬柳田博士とその研究所が、怪しい「傑作秘密兵器群」を作っていることを知っている。それが出てきた以上、ろくでもない結末を迎えるのは必至、と覚っての決断である。

「えっ?それはまた、あまりに性急過ぎやしませんか?せっかくここまで侵攻作戦を進めたのに・・・・・」

 抗議めいた口調のスカイラーク中佐の物言いを、ルドルフ将軍はどやしつけた。

「文句は後で聞きます。今は、一刻も早く撤退を!」

 有無を言わさぬルドルフ将軍の迫力に、さすがのスカイラーク中佐も黙って、素直に命令を伝達させた。将軍の命令が伝わると、酉京市内に侵入していた、ルドルフ・ナンバーSS装甲擲弾兵師団の全車両がUターンし、市外に去って行く。ルドルフ将軍の慌てぶりが伝わったのか、いかにもバタバタしたような退却となってしまった。
(第97回終了)




 里在三将軍も、いきなり出現した「空野田M−99」と「メカジラコ」に、目を白黒させていた。

「何なのでしょう・・・・あれは・・・?」

 里将軍は、目の前で何が行われているのか、全く理解できなかった。訳の分からない円盤状の飛行物体がやってきたと思ったら、その直下に何やら妙な物体が現れ始めている。事態の急変に、里将軍の頭が付いていかなかったところで、不思議ということはないだろう。得意のゲリラ戦とはいえ、それでも里将軍は「真面目に戦争」をやっていた。そこに、突然巨大機械怪獣が現れては、驚くなと言う方が無理な話だ。何だか前に、どこかで似たようなことを、聞いたような気がしないでもないが。

「さあ・・・・・・・・・何なのでしょうね・・・・・・・」

 可口可楽大佐も唖然呆然としている。何がどうなっているのか全く分かっていないようだ。



ひょーっほっほっほっほっほっほっほっ、行け!『メカジラコ』よ!お前に逆らう者たちを、焼き尽くし踏み潰してしまうんじゃ!!」

「空野田M−99」のコクピットでは、マッドライフ犬柳田博士が相変わらず怪しい笑い声をあげている。「メカジラコ」に対する指示は、マイクを通して「メカジラコ」の人工頭脳につながるようにはなっている。しかし、この「メカジラコ」の人工頭脳は、コンピュータープログラムの「人工無能」よりはマシかなぁ、という程度のシロモノであるので、どこまでマッドライフ犬柳田博士の言っていることを、理解しているのかは誰にも分からない。


「あんぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜!」


 マッドライフ犬柳田博士の指示が聞こえたのか聞こえなかったのかは不明だが、「メカジラコ」は金属的な鳴き声を発し、続いて大きく開け放たれた口から、猛烈な炎を吐き出す。たちまち、「メカジラコ」の前の建物群が、オレンジの炎に包まれた。更に、「メカジラコ」は首を360°回転させ始める。当然、「メカジラコ」が吐き続けている炎は、周囲全てに撒き散らされていった。回転しながら火を吐くのでは、ねずみ花火みたいなものであるが、さすがにサイズがでかすぎるので、そんなに可愛いものの訳がない。

「ふぉっふぉっふぉっふぉっふぉっふぉっふぉっふぉっ、見たか!メカジラコ必殺の『ローリング・ヒートブレス』を!」

 マッドライフ犬柳田博士は、激しく炎上する「メカジラコ」の周囲を見下ろし、得意満面である。

「ちょっとちょっと、いいんですか?無差別の放火なんかやらかして」

 ブラッド主任がツッコむが、マッドライフ犬柳田博士は、全く気にしていないようだ。

「ぜ〜んぜん構わんよ。無差別攻撃やらかしているのは、ワシじゃなくて『メカジラコ』じゃもん。抗議が来たら、文句は本人に言えと交わすんじゃ」

 いつもの通り、全くもって無責任な博士であった。さすがのブラッド主任も頭を抱える。

「あのですねぇ・・・・・・・そんな言い訳、通ると思っているんですか?」

「通るのではない、通すのじゃ!精神一到何事か成らざらん、苔の一念岩をも通す、とも言うじゃろうが」

「要するに、無理が通れば道理が引っ込む、と言いたいんですか。無理すぎますがな、この場合は」

 しかし、マッドライフ犬柳田博士は、ニタニタと笑っているだけである。ブラッド主任はため息をついた。
(第98回終了)




「ところで、『ローリング・ヒートブレス』はまあいい、というかいいったって単にガソリンを使った火炎放射器で、首をぐるぐる回すことができるように作っただけですが、今度は先代の『ジラコ』とは違って、動けるんでしょうね?」

「ブラッド君、嘘をついてはいかん。嘘つきはオカダが許さないんだぞ、と昔の人も言っておる!」

 訳の解らない一言を付け加える博士だが、ブラッド主任はそれを無視した。

「はぁ?、一体何が嘘だと言いたいのですか?」

「ジラコは動けなかったのではない!時速5cmで、立派に動けたではないか!」

 詭弁もいいところである。『ジラコ』は重すぎて、時速5cmでしか移動することはできなかったのだが、それを「動いていた」と主張するのであるから、詭弁にも程があるだろう。

「あのですね、それはすでに『動いていた』とは言えるレベルじゃないでしょうに」

「いかんな、ブラッド君。キミも科学者の端くれである以上、科学的かつ正確な表現を心がけねばならんのだ。『時速5cm』と『止まっている』との間には、天地の開きがあるのじゃぞ!」

 あくまで「自分が正しい」と言い張る、マッドライフ犬柳田博士であった。

「はいはいはい、もうわたしゃ知りませんよ。博士の好きに解釈して下さい。んで、やっぱり今度も移動速度は時速5cmなんですか?」

 遂に、ブラッド主任も匙を投げたようだ。

「ブラッド君、わしを甘く見てはいかん!何と、『メカジラコ』は、時速6cmで移動できるのじゃ!以前に比べて、20%も性能が向上しておる!!

「・・・・・・・・・・・」

 さすがのブラッド主任も、もうツッコミを入れる意欲が失せていた。黙って博士の言い分を聞き流している。時速5cmから時速6cmへ、性能が20%も向上したとは、いくら「物は言いよう」とは云っても、限度というものがあろう。



 里在三将軍は、「メカジラコ」の盛大な火炎放射を目にして、当然怒り心頭に発している。

あの外道ども、酉京市を焼き尽くしてしまうつもりですか!!」

 里将軍は血走った目を「メカジラコ」に向けた。

「早く反撃しないと。榴弾砲と高射砲で攻撃を加えましょう。それで構いませんね?」

 可口可楽大佐が、里将軍に同意を求めた。いくら何でも、目の前の巨大機械怪獣に、歩兵で攻撃を加える訳にはいかない。そんなことを仮にやっても効果は薄そうだし、それ以前の問題として、「メカジラコ」の周囲は火の海となっており、到底歩兵が取り付けるような状況ではない。

「よろしいでしょう。直ぐに反撃を開始して下さい!」

 里将軍が命令を下すと、直ちに榴弾砲と高射砲が隠蔽場所から引き出され、「メカジラコ」に向けて砲撃を開始した。
(第99回終了)




「ドン、ドン、ドン」

 酉国砲兵隊の砲撃は正確無比で、榴弾砲3門、高射砲2門から発射された砲弾は、狙い違わず「メカジラコ」に全弾が命中した。使った砲の数はかなり少ないが、もともと里将軍の麾下には、さほど多く砲が配備されている訳ではない。5門でも、動員した方である。

「メカジラコ」に砲弾が命中すると、轟音とともに爆煙があたりに広がり、一瞬「メカジラコ」の姿が見えなくなる。しばらくして煙が晴れると、そこには何ら変わりのない「メカジラコ」の姿があった。里将軍の大砲では、「メカジラコ」の分厚い表面装甲を破ることはできなかったようだ。しかし、一点だけ変化があった。今まで青白く光っていた「メカジラコ」の目が、に変わっているのである。

「ひょぉほほほほほほぉー、怒っておる怒っておる!」

 マッドライフ犬柳田博士は、「メカジラコ」の目の色が通常時の青から、攻撃色の赤に変わったことを見て取ると、奇天烈な嬌声をあげた。

「そんなに喜ぶようなことですかね。で、怒るとどうなるんですか?」

「決まっているじゃろ、王蟲の怒りじゃよ、王蟲の。見よ、大気が怒りに満ちておる!もう、誰にも止められないのじゃ!!

 訳の解らないことを言い始める博士だが、ブラッド主任は冷たく突き放す。

「はいはい。それはビデオでも借りて見て下さいね。後で個人的に」

「何じゃいブラッド君、ノリが悪いのぉ〜。『巨神兵を出せ』か何か言ってくれんと、つまらんではないか」

 マッドライフ犬柳田博士は不満そうである。

「あーたはいつまで、そういうオタッキーな会話ばかり繰り返せば気が済むんですか?そこまで一々付き合ってはいられませんわ。んで、目の色が赤になるとどうなるんです?プログラムは全部博士が作ったんだから、わたしゃ知りませんぜ」

「くぉほぉほぉほぉほぉほぉ、決まっとるではないか。怒った以上、攻撃モードになって、更に激しく暴れるのじゃ。もう誰にも止められはせんぞい」

「と言ったって、時速6cmでしか動けないんでしょ。攻撃してきた大砲は、かなり距離があったようですし。『ローリング・ヒートブレス』も届かないんじゃありませんか?」

「くわははははは、わしの傑作『メカジラコ』を甘く見るではない!『ローリング・ヒートブレス』しかできない訳じゃないのじゃ。行け!『メカジラコ』よ!!」

 博士の声が聞こえたのか聞こえなかったのか、「メカジラコ」の反撃が始まった。何と、周囲に落ちていた、何百キロもあるコンクリートの塊を、手を伸ばして拾い上げると素晴らしいスピードとコントロールで、いきなり投げつけたのである。これには、さすがのブラッド主任も驚いた。

「何ですか、ありゃ。あんなことも出来るんですか・・・・・・」

「メカジラコ」が投げつけた瓦礫は、狙い違わず高射砲の一門を押し潰した。次弾が装填されていたのか、命中と同時に爆発を起こす。高射砲を操作していた兵は、全員ぺちゃんこになったあとに、爆風に吹き飛ばされたことであろう。

 更に、「メカジラコ」は瓦礫を拾って投げる行為を繰り返し、あっという間に撃ってきた榴弾砲と高射砲の全てを叩き潰してしまった。

「はぁ。なんちゅうことをやるんですかねぇ〜」

 ブラッド主任は驚き半分、呆れ半分で呟いている。あまりに身も蓋もない攻撃なので、どちらかというと「呆れた」の度合いが大きかったのは事実ではあるが。
(第100回終了)











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