「ちょ!ちょお待って!!ちょい止まっといて!」


彼が私に触れる、運命の瞬間・・・。




私だけのクラフティーボーイ☆
 〜第二章〜





「な、なに!?」

いきなり立ち上がって、すごい剣幕で私を制す忍足君に、私はびっくりして思わず身を引いた。

「動いたらあかん!」

何が起こっているのだろう。
とりあえず今は彼の言うとおり、身を屈めたままで静止するしかない。

「な、なに・・・?」

ゆっくり近づいてくる忍足君。
その真剣そのものの目は、私の頭上に注がれていた。
心配で私はもう一度、今度はおそるおそる尋ねてみた。



彼がゆっくり手を伸ばす。


ドキッとしないわけない。
私は最近、彼のことしか考えられない。
あのランチの日から、私の心は彼でいっぱいなのだ。


目の前には彼の整った顔があった。


「もう・・・ちょい・・・」


忍足君が唇を動かさずに出した声は、低くて、セクシーで・・・。
耳元で囁かれているようで、心臓が爆発しそうだった。

顔が赤面していくのが分かる。


だめ・・・ドキドキが聞こえちゃう・・!
早く離れて・・・!




「ふう。やっと捕まえたわ。自分この辺で見いひんなあ〜。地元には仰山おるけどな」


誰と・・・話してるの?

「お、忍足君・・・」
「あ、千佳。こいつ自分の頭についててん。
こっち来てからあんま見かけんかったんやけど、お手柄やで!」


そういって彼が自慢げに見せたのは小さなコガネムシだった。
お手柄?こんなのどこにでもいるんじゃ・・・?


「え?こ、これ?」
「これな、ツルルンいうねん。ほら、この光沢具合、たまらんやろ?」
「え!?ツ、ツルルン!?」
「かわええなあ、ほんま。でもな、俺のうちじゃもう飼えへんねん・・・。そら、自由におなり!」


忍足君は近くの窓を開けると手のひらを空にかざした。
私の頭についてたコガネムシは少しの躊躇のあと、青い空へと飛び立っていった。



私は目頭が熱くなった。
胸が締め付けられる思いがしたのだ。



虫にこんなに優しい人、初めてだ・・・。
虫は私の友達。
日々人間の業により失われていく友の命・・・。

忍足君って私の唯一の理解者かもしれない。
私もう、この人を失ったらきっと本当の自分も失ってしまう!





コガネムシが飛んでいく空を見つめる私の横に立った忍足君は、
優しく肩に手を置いて微笑んでくれた。


私も微笑み返すと、二人してどこまでも続く青空を
いつまでも、いつまでも見上げていた。










                                           つづく。