Kanon小説 秋子さんの憂鬱
第一話 記憶のある場所
「ね、祐一、最近あゆちゃん見ないね」
「捜し物が見つかったからこの街を出るっていってたからな」
「月宮あゆちゃんですね」
「あれ? お母さん会ったことあるの?」
「言わなかったか?」
つきみやあゆ・・・
この名前を聞くとなぜかものすごく辛い・・・
原因はわかっているの・・・でも
祐一さんに話すべきなのかしら?
「秋子さん?」
「どうしたの?お母さん」
「何でもないわよ、少し考え事をしてただけ」
いつのまにか癖になってる困ったわねポーズで(頬に手を当てるポーズ)
考え込んでしまっていた。
「あゆちゃんてかわいい子だったよね?祐一」
「そうか?」
「・・・・・わたしとどっちがかわいかったのかな?」
「馬鹿なこと言ってないで早く食え」
何気ない夕飯のたわいもない会話。
そこには重く苦しい閉ざされた過去があるのに・・・
知ってることの苦しみと黙っていることへの罪悪感。
本当にどうしたらいいの?
ずっと考えてるのに答えはでないの・・・どうしたら
よく眠れない日々。名雪に心配はかけたくないわね・・・。
事故にあって名雪は心を閉ざしかけたって祐一さんは言ってたし
仕方ないわね、もう行くしかないのね。閉ざされたあの場所へ
翌日・・・
天気は黒雲に覆われて雪の日
会うことを拒むように・・・でもやわらかく降る雪
わたしは会いに行っていいのかしら・・・
歓迎されるのかしら・・・
昔よく通った道。祐一さんが消したいはずの道・・・
本当にこの道を通ることを許されるの?
またあの記憶をここに持ち込んでもいいの?
でも・・・これ以上は・・・
濡れてくる顔
いつからか涙があふれて止まらない
辛いのはわたしじゃないのに・・・
なぜこんな涙が
雪と混じり解け合い頬をつたう涙
寒さなんて感じない。心以外は・・・
ずっとそのままの病院
あれから変わらない姿のままの病室
「あゆ・・・ちゃん?」
さっきよりも涙があふれてくる・・・
まぎれもなく商店街であったあゆがそこに・・・動かぬ姿で
じゃあ・・・あれは・・あれは何だったの?
闇に覆われたような心を抑えようと必死に抗う
でもこれは・・・
延命処置でただ生きているだけの人
それがあゆの今の姿だった。
想いが起こした奇跡だったのかも知れないわね
そこまで祐一さんを・・・
伝えなければ!やはりどんなことになっても。
窒息しそうな顔を覆う涙の幕を振り払い
決心して病室をあとにした。
「あれ? 秋子さん? なんでいるんですか?」
「ご苦労様でした。今日は用事があったので
仕事の方はお休みさせてもらいました」
「そうですか」
言わなければ・・・でも、でも・・・
涙があふれそうになる
必死に抑えるのが辛い
「どうかしたんですか?」
「なんでもありません。それより名雪は今日も部活ですか?」
「はい。わたし部長さんだからとか言ってました」
「そうですか」
笑おうとしているのに・・・笑えているの?
祐一さんに映るわたしは笑っているの?
それすらもわからない。でも伝えなければ。名雪にも・・・
「ただいまー」
「おかえりなさい」
「わたしも手伝うよ」
「もう終わったから名雪は祐一さんを呼んできて」
「うん。わかったよ」
たのしいはずの食事・・・
やっぱり・・・とても言えない
この幸せな時を崩すことなんて
それに名雪や祐一さんにとって辛いことでしかないはずなのに・・・
いつからか
名雪と祐一は会話を止めて秋子を見ていた。
それに気づき初めてまた自分が涙を堪えきれなかったことを知り
何でもないのと言おうとしたが口が開かない・・・
ごめんなさい。本当にごめんなさい・・・
「おかあさん?」
心配そうな名雪の声
「大丈夫ですか?」
心配そうな祐一の声
でももう・・・届かない
「ごめんなさい。今日は・・少し・先に休ませて・・・もらいますね」
何とかそう言うと名雪に支えてもらいベッドに倒れこんだ
もう隠すことはできない・・・でも言えない
世界に見捨てられた。そんな気がした。
今日はさすがに休めないわね・・・
しっかりしなくちゃ
気晴らしのためであるのか思いのほか仕事に没頭できた。
仕事仲間にこれ以上やると倒れるわよと言われるほどだった。
でも仕事が終われば重い世界がのしかかってくる。
どうすれば・・・どうすれば言い出せるの?
どうすれば悪魔になれるの?
そう自分を呪い嫌な人間ねとまた名雪と祐一のいる家へ
戻るのだった。