Kanon小説 悪夢から目覚めた少女

第一話 訪れた再会の日


俺は走っている。
ただ駅のベンチを目指して・・・
そして・・・・・・あの娘を目指して・・・

「7年前に一本の木が切られました」

・・・・・・・・・・
その木は切られる理由があったんだ。
切られなくてはならなかったんだ。

「それと同じ頃に1人の少女が眠りにつきました」

(それも知ってますよ。どうしたんですか? 秋子さん)
でもそれは口には出さない。出せない空気だった。

「その少女は7年目の奇跡で今日目覚めたそうです」

そこから先の話は聞いてない。
ただ駅に向かい走っていた。
おそらく来るであろう『月宮 あゆ』を目指して

・・・・・・・・・・・・・・・いない。
なぜ? ここに・・来てはいないのか?
商店街へ行くための待ち合わせはいつもここだっただろ?
どうしたんだ? もしかして俺のことを覚えてないのか?
勝手だよな。自分は忘れようとして・・忘れてたくせに
ごめんな。あゆ

「うぐぅ・・・気づいてよ〜」

「え?」

顔をあげるとあゆの姿が・・・

「祐一君・・・だよね?」

「あゆ・・か?」

「変わったね。もっと子供だったのに」

「お互い様・・・と言いたいがお前には最近いつも会ってたからな」

「え?」

「それより悪かったな。あまりに小さくて視界に入らなかった」

「うぐぅ・・・ボク150あるんだよ? たしか・・・」

自慢できる伸長じゃないと思うが・・・

「小さい・・・」

「うぐぅ・・・寝てても伸びなかったんだよ」

「寝る子は育つって言葉知ってたのか。でもそういう意味じゃないぞ」

「え?違うの?」

「育つことと背が伸びることが同じことだと思ってたのか?」

「うぐぅ・・・」

「それに・・・寝すぎだ・・・・・待ちくたびれたぞ」

「うぐぅ・・・でもずっとここで待っててくれたの?」

「そんなわけあるか! 7年もじっとする奴なんていないぞ」

「あはは、そうだよね。でも会えてよかった」

「そうだな」

「商店街、早く行こうよ」

「ああ、あゆのおごりでな」

「うぐぅ・・・」

「そうだろう? 前はいつも俺がおごってた気がするぞ」

「覚えててくれてるんだね。ボク・・うれしいよ」

急にあゆの目から涙がこぼれる。
久しぶりに・・・7年ぶりにみるあゆの、天使の涙だな。

「どうした? 迷子なのか?」

「迷ってるんじゃなくて感動して泣いてるんだよ」

「馬鹿なこと言ってないで商店街行くぞ」

「うぐぅ・・・ボクじゃなくて祐一君の方だよ」

それから男二人(自分のことボクって呼ぶし)で商店街を
たいやきを食べながら歩いた。

「行儀わるい奴だな」

「祐一君だって行儀わるいよ」

「俺はあゆあゆに言われてしまった・・・のか?」

「なに質問してるんだよ。ボクが祐一君に言ったの」

「・・・・・やばいな。
 あゆあゆに言われるということはよっぽどなのか」

「そういえば・・・・あゆあゆって身近で聞くのも久しぶりなんだね」

「7年ぶりのはずだ」

「でもね・・・ボクずっと聞いてたんだよ」

「どういう意味だ?」

「言葉のとお・・・・うぐぅ・」

「なんだ」

「久しぶりすぎてセリフまちがっちゃったよ」

「何言ってるんだ?」

「うぐぅ・・・気を取り直して・・・えっと、ボクが眠ってる間に
 時間は流れたけどボクはずっと祐一君と一緒だったんだよ」

「どういうことだ? 大丈夫か?あゆあゆ」

「うぐぅ・・・。
 ボクには大切で寂しくならない思い出って祐一君だけだから」

「あゆ・・・」

「何?」

「寂しい奴だな・・・」

「違うよ〜、友達はいたんだよ。でも祐一君は特別だから・・・」

「たいやき泥棒としてはおごってもらえるに越したことはないか」

「そんなことしてないよ〜」

「つい最近も逃げてくるお前にタックル食らわされたぞ」

「ずっと寝てたのにできるわけないよ」

「そうだったな。おかえり、あゆあゆ」

「さっき挨拶したよ」

「あんなのは挨拶じゃないぞ」

「・・・・そうなのかな? 感動の再会みたいじゃなかったけど」

「飛びつかれても反射神経のいい俺はよけてしまうからな」

「うぐぅ〜」

「あら。祐一さん」

不意に声がかかり振り返ると・・・。

「秋子さん」

「月宮 あゆちゃんね?」

「え? なんでボクの名前知ってるの?」

「祐一さんの待ち続けた彼女の名前くらい知ってますよ」

「秋子さんがお前の意識が戻って退院したことを教えてくれたんだぞ」

「そうなの?」

「ああ。」

「そうだ! あゆちゃん、今日のお夕飯食べていきませんか?」

「えっと・・・」

こいつは一応遠慮というものを知ってるようだな。

「わたしは大歓迎ですよ」

「そうだぞあゆ。食い逃げ根性で一晩泊まっていけ」

「うぐぅ・・・食い逃げなんてしてないのに・・・」

「今日はあゆちゃんと祐一さんのためにご馳走をつくろうと
 思っていたので来てくれると助かるわ」

「それじゃあ。お・お世話になります」

「それじゃあ行きましょうか」

その日は久々に楽しい夕食だった。
何か思い出せないつっかえがとれたような・・・そんな感じだった。
夕食も終わりあたりを闇が覆う頃。

コンコン。

「開いてるぞ。あゆ」

「何でボクだってわかったの?」

「あゆのことはいつも考えてるから」

「本当?」

「嘘だ。さっきのはたまたま」

とは言っても実質2択だからな。
名雪はすでに寝てる時間。
よって2択。
しかも秋子さんはこんな時間に俺の部屋に来たことはない。

「うぐぅ・・・でも少しは・・・」

「考えてない」

「うぐぅ・・・祐一君ボクのことキライ?」

「そんなことないぞ」

「本当?」

「嘘だ」

「うぐぅ・・・でも」

「考えてない」

「うぐぅ・・・祐一君ボクのことキライ?」

「そんなことはないぞ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「それで・・・?」

悔しいが負けておいてやる。
ここで大人な俺がひかないと一生続きそうだ。

「え?あの・・・えっと・・・・・」

顔を赤くして急に言いにくそうにその場にたたずむ。

「用がないならイイ子はお寝んねの時間だぞ」

「うぐぅ・・・ボクそんなに子供じゃないもん」

「じゃあ名雪は子供なのか?」

「何で名雪さんが寝てるってわかったの?」

「いつものことだからな・・・」

「・・・・・・・・・・」

「どうしたんだ?」

「え・あ・ううん、なんでもないよ」

わかりやすすぎる。もっと嘘はうまく使えよな・・・。

「それで? 何の用で来たんだ?」

「・・・・・ボク、暗いところにいたんだよ。」

やっと重い口(でもないか)をひらき話を始めた。
突然部屋の明かりが暗くなった気がするとともに
俺の意識はあゆの言葉に集中しているのか
他のことは考えようとも思わず口もはさみたくない気持ちで満たされた。

「ボク・・・ずっと暗い中で何もないところで
 祐一君の思い出と一緒にずっと・・・いたんだよ。」

あゆの顔に戦慄が見え隠れする。
恐かった・・・それを話そうとしているのだろう。

「最後に見た祐一君の顔はボクを心配する顔だったと思うけど
 でも・・・ボクにはその顔が恐かったんだよ。
 もう会えないような顔でボクを見つめる祐一君の顔が・・・
 周りを赤く映す自分の目が・・・
 だけどボク頑張ったんだよ。
 ずっと祐一君が待っててくれるって
 たいやき買って待っててくれるって・・・。
 だから暗い中祐一君との思い出をずっと思い出して・・・
 ボクには祐一君との思い出しか楽しい思い出はないから・・・
 だから・・・会えて本当にうれしかったんだよ!」

精一杯の力をこめて最後の言葉を吐き出すと
あゆはその場に泣き崩れた・・・。
俺にはどうしていいのかわからなかった。
そしてここまで想うあゆに俺は・・・
しかも嫌な記憶として封印したこの馬鹿な相沢祐一に
あゆとつりあうだけの気持があるのかどうか疑問だった。

(ごめんな・・・あゆ)

それだけ泣き続けるあゆにかけ
あゆの体を支える勇気さえない俺は
台所に降りて落ち着かせるために飲物を用意し
自分の部屋であゆに飲ませ、少し落ち着いたあゆを
名雪の部屋で寝るように促した。
どうすればよかったのだろうか・・・。
答えは遠い彼方に感じられた・・・。

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