目の前には、雄大な景色が広がっていた。
緑一色の草原や生い茂る木々たち。
その向かい側には、青く澄んで魚もたくさん泳いでいる川もあった。
横には、「渡瀬川」という真新しい看板が建っていた。
この地で僕は生まれ育った。
幼い頃の自分は人と接するのが苦手で、何かと他の人に迷惑をかけた。
家族や友人、大切な人と過ごした日々。
決して楽しいことばかりではない。
いろいろな人間関係があり、悩んだことも多々あった。
でも、悩んだときはこの川を見ていた。
この川を見ながら頭の中の考え事を整理し、結論を出そうとしたものだ。
しかし、なかなか結論は出ない。
そんな時にこの川を改めて見てみると、自分のちっぽけさに気づき、また前向きな気持ちになれた。
この川には本当に助けてもらってばかりだ。
ただ、ひとつだけやり残したことがある。
小さい頃からずっと一緒だった幼馴染みに自分の思いを伝えなれなかったのだ。
バカにされた日も、いじめられた日も、彼女はいつも僕の味方になって僕を守ってくれた。
彼女に助けてもらってばかりの自分が情けなくなって、僕は強くなろうと思った。
強くなって、幼馴染みの希に、棚橋希に、自分の思いを伝えようと思ったんだ。
river
| 第一章 そして運命は動き出す
あれから3年後………
男はネオンと人込みの中にいた。
人の流れと反対に歩を進める。
行き先なんてどこにも無い。
ただ、やることもなく、ふらふらしていただけだった。
正確にいえばやることは沢山あるのだが、手につかない。
これが本当の「無気力」状態なのだろうか。
どれぐらい歩いたのだろう。
気づけば、人の数も少ない町外れに来てしまっていた。
「原稿書かなきゃなー。」
男が頭を掻きながら呟く。
「しょうがない、また井原に待ってもらうとしますか。」
勝手に納得し、タバコをポケットから取り出す。
と、突然規則正しい電子音が鳴った。
「ごほん」と咳払いをし、声を調節する。
「もしもし、あっ井原!!ごめん、ちょっと締め切り待って。えっ、いやいや、2日でいいから、ねっ、お願いしますよ、竜さん!!!」
「わかったわかった。2日延ばすから。頼むから、ちゃんと締め切りまでにあげてくれよ。」
けだるそうな声だ。
「わかりました。今度から必ず!」
「じゃあがんばれ。」
「おう、じゃあな!」
「あ、それと」
電話を切ろうとしたが、井原がまだなんか言ってる。
「えっ、何だって?」
「今日の夕方だったかな、うちの編集部に女がきたぞ。お前に会いたいって。」
「まじかい!?」
「それでよ、その娘がすっーげぇ可愛いんだよ、これが!お前にもったいないくらいの!」
「ほっとけ!!!っていうか…」
「何?」
「誰だろう?俺なんか訪ねてくるなんて…」
「さぁそこまでは…あっ、昔のお前のファンじゃねーの?」
遠くから、「おい、いつまで話してんだ!」という野太い声が聞こえる。
おそらく井原の上司だろう。
「悪い、もう切るわ。その娘におまえの連絡先教えといたからな。なんかあったらまた電話してこい。」
「お、おう…じゃあな。」
あぁ、なんか疲れた。
それにしても誰なんだろう?
一瞬一人思い浮かんだが、
「ないない。それはないよ…」
おおげさに手を振りながら、一人呟いた。
それはない。あいつは地元の大学に進学したとお袋から聞いている。
来たら来たで、嬉しいけど…
駄目だ。考えてたらキリが無い。帰ろ。
男は、田之上陽介は人がいない暗闇へと歩き出した。
繁華街から歩き始めて20分ほどで彼の住処に到着した。
そこはお世辞にもきれいとは言えないワンルームのアパートだった。
3階建ての3階の角部屋が彼の部屋だ。
自分の部屋までの階段の上り下りは最近運動不足な陽介にはちょっとした苦行である。
「よし…と」
少々息を弾ませながら部屋に到着。
鍵をがちゃがちゃやってる陽介の横に幾分小さな人影があった。
その人影はゆっくりと陽介に近づく。
陽介は気づいていない。お前、鈍すぎるぞ!(作者の声)
「陽…?」
「ん?」
自分以外の人が誰もいないと思ってたのもあって、陽介は慌てて振り向いた。
振り向いた先には、女がいた。
しかも、背が小さくて、顔も良し!さらに、性格はやさしくて、頼れるんだな、これが!
え?なんでそこまで知ってるのかって?
当たり前だろ!こいつは3年前までずっと片思いだった女だからだよっ!
「えっーーーー!」
陽介は高速で後ずさりすると、豪快にずっこけた。
「いてててて」
倒れた陽介の前に細い小さな手が差し出される。
「大丈夫?そんなに驚くとは思わなかったから。そりゃ突然だったけどさ…」
希は陽介を起こすと陽介の体をはたきながら言った。
「ありがと。でも、なんで東京にいんの?」
「ほら、私今年で短大卒業だから、就職活動しなきゃ」
「なるほどね。もうそんな季節か…」
会話が続かない。
陽介はその場を取り繕うように、
「あのさ、せっかく家の前まで来たんだから良かったら上がってかないか?たいしたもん無いけど」
「うん、ありがと…」
先に部屋に入った陽介に続き、希もドアの奥に消えた。
思えばこの時から2人の中の運命の歯車は動き始めてたのかもしれない。
もう後へは戻れない。
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