龍と冒険屋と

「ドラゴン?」

俺が冒険屋だと名乗ったとたんに、唐突な依頼をされ思わずオウム返しに聞き返す。

「そうです。ドラゴンを退治して頂きたいのです」

「まあまて、とりあえず詳しい話を訊こうじゃないか」

とりあえず落ち着かせ座らせる。

この世界において龍王(ドラゴン)とは『偉大なる最初の一つ』より生まれしもの、つまり神と同格の物なのだ。神より創り出されしものの劣等種に過ぎない人間に本来かなうはすはないのだ。

しかし、本物の龍王(ドラゴン)ならば何らかの噂などがある筈だがそんなものはない。だとしたら何なのか、眷属たる下位種か、それとも…?

それが気になった。

「で、何がどうなったのか、最初から聞かせてくれるか」

「はい、あれは一月ほど前のことです。昼間だというのに急に空が暗くなったのです。皆が空を見上げるとそこには伝えきくドラゴンがいたのです」

「なあ、近づいてくるのには気が付かなかったのか?」

ふと気になったことを訊いてみた。そんな大きなものが近づいてくれば普通誰かが気付くはずだ。

「はい、まったくの唐突でした。それが何か」

「いや、なんでもない。続けてくれ」

「わかりました。そのときは何もせず山のほうへ消えていったのですが、翌日そのドラゴンの下僕と名乗る者が来て供物を要求してきたのです」

「どんなやつだった?」

「背が高く手足の細長い男でした」

「…そうか、それで?」

おそらくそいつがこの件の犯人だろう、しかし何故こんなことをしたのだろうか?

「われわれが供物を捧げなければ村を滅ぼすと言われたので要求どおり供物を渡しました」

当然の判断だ。龍王(ドラゴン)に敵対し滅んだ王国は新暦に入ってからもいくつかあるほどだ。こんな村など一瞬にも満たない間に消されるだろう。龍の情報をほとんど持たない人間がやることとしては至極妥当だ。

「なるほどね。それで、報酬は?」

下位龍(レッサhラゴン)にしても、幻術使いにしてもそれなりの敵だ。ある程度の報酬をもらわないと割に合わない。

「そうですな、現金で4千、どうです?」

冒険者の報酬としてははっきり言ってかなりの破格の高さだ。だが、龍退治として考えればまあ妥当な額か。

「まあ、そんなところだろう。わかった、受けよう」

承諾すると俺は立ち上がった。

「では何か入用であればおっしゃってください」

「わかった」

言葉だけ返すとおれはとりあえず外に出て聞き込みを開始した。

ドラゴンはどっちへ消えたか、下僕と名乗る男はどっちから来てどっちへ帰ったか。

他にも下僕と名乗る男の格好や、ドラゴンの大きさなどを聞いてみたが、龍に関しては証言がバラバラで、使える情報は2つだけだった。

前半の情報の答えが全て北の山に向かっていたということと、男が格好から魔力を使える者であるということだ。

魔力が使えるということは龍は幻術である可能性が高まったが、もしかすると龍を使役しているのかも知れない。どちらにしても相当に強力な術者だろう。もしかしたら人間ではないかもしれない。

はぐれ魔族か堕天使か、それならこんな辺境にいるのも納得がいく。そんなやつらなら追っ手がいるに決まっているから。

だとするとかなり厄介だが、まあなんとかならない相手というわけでもない。

とにもかくにも情報はそろった。あとは対策だが、一番楽なのはこの村で迎え撃つことなのだが、果たして村長は承諾するか、そこが問題だ。

「というわけで、この村で迎え撃ちたいのだが」

悩むのは性に合わないのでとりあえず村長に提案してみた。

「なにが『というわけ』なのかはわかりませんが承諾出来ませんな」

あっさり引き下がるのもなんだから俺も一応食い下がる。

「なぜだ?」

といっても反対する理由に心当たりがあるから突っ込んでは聞かない。

「…村人の安全のためです。ですから、出来るなら我々が依頼したとも言わないでいただきたい」

やっぱり、そんなことだろうと思っていた。まあ、こんなものなのだろう。

「わかった、この村のことは言わない」

俺は相手の事情もわからないではないから承諾の意を伝える。

「ありがとうございます」

と慇懃に頭を下げる村長に少々同情しつつも次の提案をする。

「ならばこちらから行くしかないな。潜伏場所に心当たりは?」

首をかしげるとふと何かを思い出したように言葉を紡ぐ。

「そうですな、とりあえず北の山の祠などでしょうか」

「で、そこまでの道は?」

「それならば道々たどり着けるはずです」

あっさりと言う。

「そうか、ならば問題ないな」

俺はボソリというと立ち上がるそして、

「明朝夜明けと共に出発する。二日戻らなかったら失敗だと思ってくれてかまわない」

「わかりました。成功を祈っています」

挨拶をくみかわすと俺は宿に戻ると明日のために早速寝ることにした。

「ん?」

俺は夜中に気配を感じふと目を覚ました。

「何の気配だ?」

気配の位置がつかめないので俺はとりあえず窓を開け、外を見回す。

「これは…」

そこには半透明な龍が居た。あまりにも幻想的で、かつ現実感が希薄だったので思わずこれは夢だと思ってしまうほどだ。

しかし、そんなことを思う時点でこれは夢ではない。紛れもない現実だ。

「汝に用があり幻影を送った」

幻影の口が動くが、『声』は頭の中に響いてくる。

「用、だと?」

「そうだ、汝に我が眷属の姿を操りしものの処理を頼みたい」

「つまり、この件は普通の幻術士によるものではない、と?」

「そうだ、よって付近にいる力あるもの、つまり汝に頼みをしにきたわけだ」

「たかが人間でしかない俺が行くよりあんたが力を使った方が確実なんじゃないか?」

「人間? …なるほど、そういうことか。だが汝ならば実行はできるだろう」

グッショリと汗をかきながら俺は頷くしかなかった。

「わかった、頼みは受けよう」

「そうか、では頼んだぞ」

「…ふう」

姿が消えた後気がついた。

「あ、報酬」

そう、報酬の交渉をしなかったのだ。相手が相手とはいえこれを忘れるとはまだまだ俺も未熟ということらしい。

「…寝るか」

とにかくこのままでは明日まともに動ける気がしなかったから、とにかく俺は強引に寝た。

翌朝、なんとか夜明け前に起きると身支度を整え、軽く食事を済ませると早速北の山へと向かった。

「なるほどね、確かにこれなら迷わんか」

獣道同然ではあるが、確かに道が有った。

祠への道の途中気になるところがあった。そこに行ってみるとわずかだが、魔力の残滓を感じた。

「この感じは、保温の魔法か。誰かがここで寝ていたのはまちがいないな」

この時期夜は冷えるこういう魔法を使うとなると防寒器具を十分に持たないものや、魔力に自信のあるものは保温の魔法で寒さをしのぐのだ。

「となると、近いか?」

呟きつつ辺りの魔素に注意を払う。何か魔法を使っていれば不自然なところに気が付くはずだ。

「…これだな」

魔素の極端に薄いところを感じた。魔素がうすいということは強大な魔法の行使があったか、そこに魔素を喰うものがいるということだ。

「…喰ったとしたら厄介だな」

魔素を喰うということは、普通の生物ではない。それこそ堕天使か、はぐれ魔族だろう。

となると真っ向からあたるのは不利だ。いくら俺が魔法に自信が有るといっても魔生物相手では格が違う、一気に懐に入って斬るしかないだろう。

「先に見つけないとな」

と呟くと魔素が急に薄くなっている場所の風下へ回り込むため山道を進み始めた。

「居た」

口の中で呟く。目標を発見した。どうやら堕天使の方らしい。

特徴である黒い翼を風になびかせている。こちらにはまだ気が付いていないようだ。

「こっちに来るな。ならば引きつける」

じっと息を潜め、気配を消す。

「…だれだ、そこに居るのは」

気付かれた、まっすぐにこっちを見据えている。まだ間合いにはすこし遠いが行くしかない。

「そこに居るのはわかっている、でて来い」

声に紛れ一気に飛び出す。

しかしやはり遠かった、相手も身構え迎撃の魔法を撃とうとする、だが…。

「な! 貴方はまさか!」

おれの顔を確認した途端に動きが止まる、その隙に俺は懐に入り迷わず斬る。

「ぐ、貴方はルシフェル様ですね。何故貴方が…」

致命傷を受けながらもまだ話せる、流石は堕天使といったところだ。

「何のことだ?」

ルシフェルと言われた瞬間、何か鼓動が大きくなった気がした。が、意味のわからないことを言われたので無視して聞き返す。

「なるほど、人の中ならばあのミカエルといえども発見できないわけです」

一人で納得したように呟く。

「なぜあんなことをした? 貴様らには普通の食料などは必要ないだろう」

当然の疑問を聞く。

「その、ことですか…人のイメージにある…堕天使の姿…を再現してみただけですよ…」

そろそろ限界らしい言葉が途切れ途切れになってきた。

「どうやら…もう限界…みたいですね…ふう、あなた、はに…」

なにかを言いかけてそのまま動かなくなった。

そして肉体は塩へとし、風に消えていった。

「ルシフェル、か」

本当にわからなかった。だが、そんなことはどうでも良かった。

「もどって報告といくか」

そこで気が付いた。

「証拠、ないじゃん」

そう、事件を片付けた証拠がないのだ。

「となると」

成功報酬はなし、前金の千だけだ。

「はあ、まあいいや、とりあえずこのまま山越えするか」

成功報酬がもらえない以上あの村に戻る理由もない。かってに失敗したとでも思ってくれればいい。

「さて、いくか」

気持ちを切り替えて歩き始めた、陽射しも柔らかなある初冬の出来事だった。

 

 

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