ある花が見た景色

 私たちはずっと見ていた。人が争い傷つけ合うことを、何代も、何代も。終わることのない争いを見つづけていた。この丘から……
 
 私たちの名は彼岸花、学名をLycoris radata Herbといい、曼珠沙華という名も持っている。
私たちは何十代も前からこの丘で咲き、この丘で散ってきた。
変化することなく、ずっと……
 
 あの戦いが始まったのはいったいいつなのだろう。この丘から見える場所では長い争いが、今もまだ続いている。一進一退とでも言えばいいのだろうか? どちらか一方が勝てば次にはもう一方が勝っている、これが何代も、何十代も続いてきた。その間に戦場の後方で人間たちは子を産み、育て、そして戦場に送り出していた。そういう生き方に疑問を抱く人間はいなかったようだ。
もしかしたら彼らは自分達が何故戦っているか、いやここが何処なのかさえも解っていないのかもしれない。
 
 戦いの中で私たちは目の前で死んでゆく人間たちを見てきた。
この丘は、戦いの中心からはある程度離れているので、目の前で争っているのを見たことはない。が、中心から傷ついたままで逃げてきた人間たちが力尽きていくのは、何度となく見てきた。人間たちの中には死んでいくなかで私たちを見てこんな言葉を呟く者もいた。 「今度はオレがむこうに行く番か……」と。
私たちが彼岸に咲くことから死んだ仲間のことでも思い出しでもしたんだろう。私たちは死後の世界と呼ばれるものがあるかは知らない。しかしこのような言葉を呟いた人間は、それをしなかった人間と違い、負の感情を抱かずに死んでいっている、と感じられた。
 
 私たちは今日も存在している、丘の上で、静かに。争いもまた続いている、お互いに何も得るものがないことに気づかないままに。
 私たちは存在し続けるだろう、どんなに時が流れても……
 争いもまた続くだろう、どんなに時が流れても……
 
                                               終


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