第47話「仲直り」
舞台は変わって、こちらはお留守番組。善彦と将平、それにユリアである。彼らは敵勢力に顔が割れ
ているため、広子救出作戦についていけなかったのである。
将平「暇だ〜〜〜」
特にすることがない将平は時間を持て余していた。
善彦「じゃ、自分は色々と忙しいんで」
将平「おう! 頑張れよ」
善彦「ん。では」
そう言って、善彦はイリュージョンから立ち去った。自然と、そこに残ったのは将平とユリアである。
将平(・・・参ったな)
数時間前、ユリアを助けた時は極限状態だったため普通になっていたが、今は喧嘩中である。自然と
会話が無くなってしまうのである。
ユリア「・・・・・・・・・」
ユリアも、自分のミルクティーに視線を落としたまま黙っている。
将平(・・・気まずい)
こんな時、キングみたいな場の空気を読めない人が居ると助かるのだが、彼は今外出中である。
将平「なぁ・・・」
ユリア「・・・ん?」
ユリアの視線が将平に向く。しかし、彼女の表情は複雑過ぎて彼には読み取れない。
将平「このソーセージ、食うか?」
ユリア「ん〜、今はいいや」
将平「そうか・・・」
結局無意味な会話に終わってしまう。
将平(・・・気まずい)
またどこか冷めた空気が流れる。
室内には客はいない。そもそも、今日は作戦会議のために休業だからだ。一応、店内にはもう一人、
キールが居るが、彼も迂闊に口を挟めないでいる。
ユリア「ねぇ・・・」
将平「ん?」
ユリア「怪我、大丈夫?」
将平「ああ、ゆうさんに治してもらった。もう大丈夫だ」
ユリア「そう・・・よかった」
また繰り返される意味の無い会話。そして流れる冷たい空気。
将平(何やってるんだ? 俺は)
謝りたい。その気持ちは大きいのだが、どうしても雰囲気に飲まれる。
将平(俺とした事が・・・。こうなったら!!)
突然、勢いよく将平が椅子から立ちあがる。驚いた様に視線を向けるユリアとキール。
ユリア「ど、どうしたの? いきなり」
将平「んなこたぁどうでもいい。ちょっと付き合え」
ユリア「え? あ、うん」
そのままユリアの手を取って、将平は店の外へユリアを引きずり出して行った。
キール「春・・・かな? まだまだ青いな、二人とも」
店には、1人で悟った表情をするキールだけが残された。
将平がユリアを連れて行った場所、それはシーフギルドの地下演習場だった。
ユリア「ど、どうしたの? 将平」
将平「ちょっと、模擬戦闘に付き合ってくれ」
ユリア「うん、いいけど・・・」
将平「遠慮はするな。本気で・・・本気で来てくれ」
ユリア「うん、わかった」
ユリアは近くの木箱からダガーの模擬刀を二本取りだし、片方を将平に投げる。しかし、将平はそれ
を受け取らない。ダガーはそのまま床に落ちた。
ユリア「将平・・・?」
将平「俺は素手でやる。本気で」
ユリア「大丈夫なの?」
将平「構わん」
ユリア「それじゃあ、やるよ」
ユリアが一気に前に出る。行動は突き、狙うは相手の右肩だ。
将平「遅いんだよ、それじゃあ!!」
将平がユリアの突きを右手で払う。ユリアは攻撃失敗と悟ると、バックステップで間合いを取ろうと
する。しかし、その瞬間にはもう将平の蹴りがユリアのわき腹を強襲していた。
ユリア「つっ!」
バランスを崩しながらも間合いを離すユリア。
将平「次はこっちから行くぞ!」
そう言って、離れた間合いを詰める将平。ユリアが牽制のためにダガーを振るうがすんなりかわされ
る。将平は間合いにはいると、ユリアの胸倉をつかんで投げた。背負い投げの亜流のような投げだ。
ユリア「っ!!」
声にならない悲鳴が上がる。叩き付けられたショックで取りおとしたダガーを拾い、将平は切っ先を
倒れたユリアの喉につきつける。
将平「勝負あり、だな」
ユリア「そうだね。流石に強いね、将平は」
あっさりと負けを認めるユリア。その表情はむしろ晴れ晴れしている。対して、将平の表情は暗い。
将平「俺は・・・こんな力を持ってしても、ユリアを護れなかった」
ユリア「将平?」
将平「ごめんな、ユリア」
ユリアを起こす将平。そして、そのまま二人ともその場に座り込む。
ユリア「謝るのは、こっちだよ・・・」
将平「ん?」
ユリア「私が馬鹿な事したから、でしゃばったまねしたから、将平やヨシさんを危ない目に会わせたん
だから・・・。本当に、本っ当にごめんなさい!」
ユリアはそのまま、深く頭を下げた。前髪で顔が隠れる。
ユリア「私のせいで、将平は怪我しちゃって、死にそうに・・・うぅ・・・・」
うつむいた、顔の見えないユリアの頭を将平はポンポン、と軽くなでる。
将平「どうせ泣いてるんだろ? 顔は上げなくていい」
ユリア「えぅ・・・」
将平「というか、俺はそう簡単に死なないって。もっと俺を信用しろ」
将平はいつもの、ちょっと自信ありげな表情をつくる。
ユリア「そ、それなら将平ももっと私を信用してよ! 『護れなかった』って、まるで私が弱いみたい
じゃん」
将平「いや、実際俺に負けるし」
ユリア「うじゅぅぅぅ」
顔を上げて反論するユウナに軽口で返す将平。久々に、本当に久々に日常が帰ってきた感じだ。
将平「まあ、なにはともあれ強くならなきゃな。二人とも!
ヨシ達を見返してやる程に!!」
ユリア「ん、そうだね!」
将平「んじゃぁま、取りあえず腹ごしらえにイリュージョンに戻るか?」
ユリア「うん♪」
そのまま二人は練習場を後にした。
キール「お、帰ってきた」
イリュージョンに戻ってきた二人を見て、キールは嬉しそうに笑った。
キール「ショウヘイ、ちょっとちょっと」
将平「なんすか?」
将平をカウンター近くまで呼び、小声で話しかけるキール。
キール「で、どうだった?」
将平「なにが?」
キール「だ・か・ら、愛の告白、したんだろ?」
将平「んなもん、してないっすよ」
キール「嘘つくなって!」
ばきぃぃ!!
軽く突っ込もうとしたキールに、マジカウンター(肘)で返す将平。
ユリア「あの・・・大丈夫なの? あの人」
将平「眠いから寝るって」
ダウンしたキールを放っておく将平。何事も無かったかのように席につく。
将平「さて、メシが倒れた。どうする?」
ユリア「『倒れた』じゃなくて『倒した』んでしょ?」
将平「そんなことないぞ」
こんなささいなやりとりで『ああ、日常が戻ってきたなぁ』としみじみ幸せを感じる将平であった。