第49話「二つの戦い」
男2「待ちやがれ! この野郎!」
広子「待てと言われて誰が待つってのよ!」
叫びながらもひたすら走る。
優「ひろ先輩、急いで!」
先行している優が広子を急かす。
男5「回りこめ! 囲んじまえば逃げられねぇ!」
男1「おお、わかった」
男5「一人じゃ意味ねェだろ! もう一人いけっ!」
男4「お前が行けっ!」
ゲシッ
広子「…こんなときに仲間割れかなぁ?」
呆れたように広子が言う。
優「あ、あの…そんなことより…」
広子「ん?」
優「このままだと…かこまれちゃうんじゃ…」
優が不安げに言った。
広子「大丈夫よ、あいつら足遅そうだし」
男2「うるせぇっ!! 大きなお世話だ!!」
どうやら聞こえてたらしい。
優「…図星だったんですね」
男3「馬鹿っ! ばらしてどうする!」
男2「大丈夫、体力じゃ俺たちの方がある!」
自信ありげに男2が言う。
広子「…確かに…体力差はきっついなぁ」
そればっかりはどうにもならないのだが…だんだん焦り始めていた。
優「あっ! ひろ先輩、前っ!」
広子「えっ? わっ!」
優の声で前方の人影に気がついた。が、気がついても反応はできなくて…
結果、広子は見事にその人影にぶつかっていた。
優「あっ…あの、大丈夫ですか?」
優は地面に倒れた3人に声をかけた。
3人…? そう、3人だ。広子と、男と、そして少女。どうやら人影は2人だったらしい。
広子「す、すいません、ちょっと急いでたんで」
男「いえ、こちらこそ…」
男は服についた土を払うと、少女に手を差し伸べて立ち上がらせた。
優「大丈夫?」
優はその少女に声をかけた。
少女「うん」
少女は頷いて答えた。
優「そう、よかった」
広子「こっちは全然よくないけどねぇ」
広子は苦笑しながら言った。
優「えっ?」
言われて周りを見ると、あの五人組に囲まれていた。
男1「さぁ、もう逃がさねぇぜ」
男4「諦めて降参しな」
広子「誰が降参なんて!」
広子はそう言ったが内心焦っていた。
広子「(さて…どうしよっかな〜?)」
広子が考えていると、先ほどの人影の男が疲れたように言った。
男「やれやれ…わたしも急いでるんですけどねぇ…」
男は前に出て言葉を続ける。
男「どいてくれませんか? 邪魔なんですが」
あまりに率直な物言いに五人組は一瞬唖然とした。そして、
男345「ふざけるんじゃねぇ!!」
広子「あ、キレた?」
冷や汗をたらしながら広子は言った。
男1「おらぁ、やっちまえ!!」
男2345「おうっ!」
五人組がそのまま4にんを取り押さえようと跳びかかってくる。
広子「くっ、下がって」
広子は男を、優は少女をかばって前に出た。が、男は気にもとめずに静かに呟いた。
男「…愚かな」
そして、静かに精霊後の詠唱を始めた…。
男「…バインディング」
男3「ん、なんだ?」
男2「う、動けねぇ」
男1「どうなってやがるんだ?」
男5「くそっ、誰の仕業だ? てめぇらか!?」
優「いえ…違いますけど…」
律儀に答える優。
男「さて、行きましょうか」
少女「うん」
男の言葉に少女が頷き、二人は茂みをさらに進み出した。
優「あ、あの、あなたたちって?」
優が男を呼びとめて訊いた。
男「…そうですね、通りすがりですよ」
少し考えたあと、男はそう答えて去っていった。
男4「くそっ、動けぇ!!」
五人組はまだもがいていた。だが、だれも動けそうに無い。
広子「とりあえず…」
優「はい…」
広子「逃げよっか」
優「そうですね」
広子と優は、とりあえずその場から離れた。
男5「ちくしょ〜、また駄目か〜!!」
男3「うるさいっ、大体お前がなぁ」
男4「今回は誰も悪く無くないか?」
男1「さぁなぁ?」
その後、バインディングが切れるまで男達の反省会は続いた…。
そして、それとほぼ同時刻…
ライゼン「いいだろう、来いっ」
治「言われなくても!!」
治は剣を構えながらライゼンへと走った。
治「せやっ!」
治は気合と共に上段から袈裟に斬りかかった。
ライゼン「っと」
ライゼンは一歩後ろに下がり、その攻撃を難なく避ける。
治「ハッ!」
続けざまの一撃。これもライゼンは難なく避けた。
南「ウィスプ!」
南がウィスプを飛ばす。が…
ライゼン「温い!」
さしたるダメージもなく平然としている。
ライゼン「どうした、その程度か!」
ライゼンはそのまま一歩間合いを置いて止まった。
治「………ちっ(やはり強い…。このままやっても勝ち目は薄いな…何か手は…)」
治は舌打ちをしてライゼンを見ていた。ライゼンは動かずに治を見ていた。
治「…(頼りはみなみの精霊魔法か…あまり当てにはならなそうだが…)」
治は一瞬南に注意を向けた。…その一瞬が仇となった。
ライゼン「そこだっ!」
治「なっ!」
ライゼンはその一瞬の間に間合いを詰めていた。そして真一文字に刀を振るった。
治「ぐっ…」
ライゼンの刃は、確実に治の体を捕らえていた。鈍い痛みが治を襲う。
ライゼン「まだだっ!」
ライゼンは止まらず上段から斬りかかる。
治「させるかっ!」
治の振り上げた刃がライゼンの刃を捕らえる。
キィン!
刃と刃がぶつかり甲高い音が響く。
治「ぐ…オラァ!」
ライゼン「くっ…」
キィン!
再び甲高い音と共に二人が離れる。そして、再びにらみ合いとなる。
治「(どうする…このままでは…)」
ライゼン「…その剣…触れるだけでもまずいか…そして…精霊使い…」
ライゼンは治と南を見据え、再び刀を鞘に収め居合の構えを取る。
治「……………」
ライゼン「…………」
静寂…そして…
キィン!
南「えっ?」
ライゼンの刃は目標を完全に捕らえていた。目標…治の後方にいた南を。
南は斬られたことにも気付かず呆然と…倒れた。
ライゼン「…ぐっ」
ライゼンは肩を抑えて膝をついた。その肩には…焼け焦げた痕…。
治「…貴様…何故あそこで南を?」
治は納得のいかない顔でライゼンを睨んだ。
ライゼン「…精霊使いは嫌いでな…」
そう言うと、ライゼンは立ち上がった。
ライゼン「まだ息はある…。こいつが死ぬまでに…俺を倒せるか?」
そう言って、ライゼンは再び刀を構えた。
治「…やってやるさ」
治もまた、雷神剣を構える。そして…
治「おおおおおおぉぉぉっ」
ライゼン「ハァァァッ」
二人の刃がぶつかる、その寸前…
?「…スネア」
治「なっ!」
ライゼン「くっ!」
何処かから放たれたスネアが二人の体制を崩す。
ライゼン「誰だっ!」
素早く起きあがったライゼンは先ほどまで無かった気配の方へと叫んだ。
?「そこまでです。二人とも、剣を引きなさい」
茂みから声と共に小さな少女を伴った男が現れた。
その男を見て、ライゼンは明らかに顔をしかめた。
治「……?」
治が不審に思っていると、ライゼンが口を開いた。
ライゼン「…レフィス」