『暗殺者』   作・武堆 仁


 この依頼は今までで最も簡単と同時に難しいものであることがわかった。


 俺のことを人はジョーカーと呼ぶ。
 もっとも、これは、本名ではない、いつしか人が俺のことをそう呼ぶようになっただけだ。
 俺の仕事は人殺し…
 受けた依頼は百パーセント確実にしとめる。
 それが、自分の知り合いであってもだ。
 今まで、九十九回、一度も失敗したことはない…
 こんな俺も、近頃少々疲れた…
 そろそろこんな仕事からも足を洗って遊んで暮らすことにしようと思う。
 すでに、一生遊んで暮らせるだけの金は持っている。
 しかし、俺はどうしても、後一回だけこの仕事をするつもりだ、九十九というのは中途半端だ、次の依頼でちょうど百。
 何事も、中途半端にこなしてはいけない、俺が今まで失敗しなかったのはこんな信念を持っていたからかもしれない。

 俺が、事務所に使っているのはワンルームマンションの一室。
 この部屋にはちょっとした事務用の机と黒い昔ながらのダイヤル式の電話が置いてあるだけだ。
 事務用の机が置いてはあるが、別にデスクワークをするわけでもなく、ただ置いてあるだけといった感じだ、書類のたぐいもいっさいない。
 そんなものを置いていたら、警察などに強制捜査されたりしたら言い逃れができない。
 キッチンにはコーヒーメーカーが置いてある。
 何もないこの部屋でコーヒーを飲みながら新聞でも読んで一日を過ごす。
 これだけなら別に仕事場としてワンルームマンションを借りずに自宅で営業をしても良いのだがいちおう仕事とプライベートの切り替えをするためにずっとこうしている。
 殺しの依頼を受けることなどそう頻繁にあるわけではない、一日中、無駄に時間を過ごすことがほとんどだ。
 まぁ、俺が忙しいのも考え物だが…
 今日は電話のベルは一度もならなかった。
 そろそろ、帰るとするか…
 退社時間は午後の五時。
 帰りがけに自販機でビールを買ってから帰る。
 次の日も、そのまた次の日も、電話はなかった。
 一週間ほどたっただろうか?
 ついに電話のベルがなった。
 そして、最後の仕事は始まった。
 電話では盗聴される恐れがあるのでターゲットの情報は後日この事務所に前金とともに送られて来る事になっている。
 三日後、前金とともに、ターゲットの資料が送られてきた。
 小包を開封する前に俺は最寄の教会へ向かう。
 仕事の成功と、ターゲットの死後の幸せを祈る。
 そして、神の前で目標の達成を誓う。
 俺は意外と信仰深い。
 さて、そろそろ、最後の仕事に取り掛かるとするか。
 封筒を開けると、前金とともにターゲットの写真がある。
 ふぅ。
 ため息が出てくる、写真には俺の良く知った顔が映っていた。
 この依頼は今までで最も簡単と同時に難しいものであることがわかった。
 成功するにしても、失敗するにしても、俺が後金をもらう事はないだろう。
 おそらく、この依頼も俺は成功させるだろう、神の前で誓ったのだから。

 そして、俺は幸せになるだろう…