旅立ち 七味唐辛子(<牙と鎖>の文芸部でのPNです)

1「千頭隆」

 千頭隆の妹

千頭かおりの朝は、目覚し時計の音で始まる。ジリリリリ。安眠を雑音で妨げられ、不快そうに目覚ましに目をくれる。六時過ぎだ。

朝食を作らなきゃ。そう思うと、自然に目が覚めてくる。まぶしい朝日にせかされる様に彼女は飛び起きた。

 

 千頭隆の朝は、目覚し時計の音で始まる。ジリリリリ。まだ眠たい。うるさそうに、目覚し時計に一瞥くれてやる。

 

(・・・静かにしろ)

 

前頭葉に力を込める。刹那、電光が迸る。目覚しはショートし、黒い煙を上げる。

 

・・・・・

 

 次第に意識がはっきりしてくる。ぼんやりと目の前に浮かぶ黒煙を見て、彼は完全に覚醒した。

「またやっちまったぁぁぁ・・・!」

「お兄ちゃん、これで目覚まし時計壊すの何度目?」

呆れた顔で、というか半ば諦めた様な顔で、かおりは兄に尋ねた。

「五度目です」ばつが悪そうに隆は答えた。

 かおるの運んできた目玉焼きにかぶりつきながら、隆はぼんやりしていた。

 隆の家族は、兄の隆と妹のかおりの二人だけだった。一昨年、隆が中三のとき二人の母が他界してから隆は実業系の

高校に通いながらバイトをして、家計を支えていた。

  隆の超能力は後天的なものだった。母が他界した直後ぐらいだったろうか、今のような妙な力が身についたのは

 隆は強く脳に念じることで物体を破壊する能力を持っていた。専ら、その力の矛先になっているのは目覚し時計なのだが。

  彼の力はサイコキネシス、つまり念動力と呼ばれるものらしい。物体の持つ分子間力からなるエネルギーを操り、念じるだけでそれを動かしたり破壊する。

特に隆のように、念動力の破壊を専門とした力をディスインテグレイトと呼ぶ。

 

(俺がこんな力を持っているって世間に知れたらかおりに迷惑かかるだろうな)

 

「ほらほらお兄ちゃん、ぼんやりしてると遅れるよ?」

考え事で意識が別に行っていたのを、かおりが呼び戻す。

「もうこんな時間か!じゃ、行ってくる」

 

 少々早足に家を出る。

「いってらっしゃ〜い♪」

かおりの声が背後から聞こえてきた。

  

バイトをしながら高校に通う隆の生活は、決して楽ではなかった。しかしいつも笑顔を絶やさぬ妹のためにも

隆は自分が弱音をはくことなく、強くいなければならないという使命感を強く感じていた。 苦しくても互いに

思いやって生きる兄妹。隆は妹を思いやって生きていくだけでいいと思えた。

 

妹がずっと、幸せでいられるのなら、それでいいと・・・

 

・・・・・思っていた。

 

バイトを終えた隆の帰りは9時を過ぎていた。とはいえ、たびたびあることなのでそう気にも留めず、いつもの様に

帰路に着いた。

「ただいま」

 

・・・・?返事はなかった。ひどく、いやな予感がした。リビングに入るなり、隆はかおりが床にうつ伏せに倒れているのを目にした。

「かおり!」

 

 即座に駆け寄り声をかける。返事はない。

「しっかりしろ!おい、返事しろ!」

 

隆が必死になってかおりに声を掛けている、その時。

 

「っ!」・・・・・・

 

どさっという低い音が、辺りに流れ、

・・・・・

隆は床に崩れ落ちた。なんだか体がじんじんする。体の中を何かが突き抜けた、そんな感じがした。

(死ぬ?)

次第に、意識が朦朧としてくる。そんな隆の状態を知らずしてか、隆の耳に聞き慣れない声が聞こえる。

・・・・・

 

「この小僧が千頭博士のご子息か?」

「ああ、間違いない」

「早く連れて行くぞ。

・・・そこの女の方は?」

「ああ、反応がなかったし、随分と抵抗したからな。殺した」

 

(・・・かおりを?)

 

(・・・殺しただと?!)

 

途端、頭に血が上る。隆はまともに動かす事もままならない体で立ち上がった。

 

そこにいたのは、二人の黒ずくめの男だった。共に、黒い覆面をかぶっているので顔まではわからない。

二人は隆に意識がある事に驚き戸惑っていた。

 

「意識があったのか?」

「ならもう一発これを・・・

 

男の手に握られていたのは、スタンガンというものだった。隆には、それが何なのかは、わからなかったが。

 

「お前ら・・・よくもかおりを!」怒りに任せて、隆は叫んでいた。そして、開放していた。決して、人前では

使うまいと決めていた力を。

 

「壊れろ!」

 

隆は男の手にしていたスタンガンを睨みつけた。不可視の力が働き、男達の目の前で、内部からの衝撃に耐えかね

スタンガンは弾け飛んだ。四方八方にスタンガンだった破片が弾け飛ぶ。

隆の力はそれだけに留まらなかった。まず、窓ガラスが割れた。食器類が粉々になった。

スタンガンをもっていた男は、手の中にあったスタンガンが手の中で粉々になった際に怪我を負ったようだった。

もう一人の方も、四方から飛んでくる破片に傷を受けていた。

暫くして、隆の力は止んだ。そこには、放心状態になった男が二人いた。隆は二人に詰め寄った。

「何の目的で此処に来たんだ?」

隆は二人を問いただそうとしたが、まともに口を聞ける状態ではなかった。

「・・・た・・・・・頼まれた」

「誰に?」

「 エデン・・・博士のご子息・・・計画必要・・・」支離滅裂な男の言葉の中に、幾つか今回の襲撃事件に

関係ありそうな単語は聞き出せた。

 

「エデン、とは何だ?どうして・・・どうして、かおりが、妹が犠牲にならなければいけなかった?!」

 

まだはっきりしないことはたくさんあった。しかしこれ以上話したところで

有用なことは何一つ、聞き出せそうにはなかった。

 

「かおり・・・」妹は夕食を作っている途中に殺されたらしい。愛らしいエプロン姿がかえって隆の悲しみを

掻き立てた。

 

隆は何も言わずかおりの亡骸を抱きかかえた。

「・・・必ず、仇を取って帰って来るから・・・ちょっとの間だから、留守番できるよな?」

 「臨時ニュースをお伝えします・・・町の千頭隆さん(17)のお宅が全焼し、焼け跡から二人のものらしき遺体が

発見されました。警察は出火の原因を調べると共に・・・」

 

 

そよ風の吹く気持ちのいい丘。風にそよぐ、名前も知らない白い花。隆は、かおりの墓の横に寝転がっていた。

 

「兄さんそろそろ行くよ。・・・俺、兄らしい事何一つしてやれなかったな・・・

かおり、お前あと何年生きれただろうな・・・?まだ楽しいことも、嬉しい事も、いろんな事、いろんな場所、

全部全部経験させてやりたかった・・・せめてお前の花嫁衣裳ぐらい見たかったけれど・・・残念だ」

 

 千頭隆は目覚めた。超能力者として、復讐する者として、そして妹のため、彼は旅立つのだった。

 

 

「結城光」

(光、お弁当持った?)

(うん、ちゃんと持って行ったよ)

(黒板の字は見えてる?かすんだりしない?)

(大丈夫、目はいーん

だから)

(最近お隣の亮君遊びに来ないけどうまくやってんの?)

 いい加減お母さんに耐えかねた私は言った。「もう・・・お母さん、わかってるの?!授業中だよ?邪魔しないでよ!うるさいってば!」

 

・・・・・

 

あ・・・

やば。

 クラスのみんなの視線が一斉に私に向けられる、もち先生のも。

「結城?

お前・・・

 一人で何

言ってるんだ?うるさいだとか

邪魔だとか

  ・・・よっぽどお前のほうがうるさいぞ」「はい・・・すみません」あ〜あ、お母さんのせいだ。何も授業中にこんな言って来なくてもいいのに。

私は結城光。公立の天王高校の1年。もうわかったかもしれないけど、私の家系は代々テレパスって言う超能力を受け継いでる家系なんだよ。

テレパスって言うのは、脳波の働きの何とかで人の精神に接触して思考を読んだり、同じ

能力をもつ人と意思疎通できるんだよ。え?

便利そう?

全然(笑)

何でって?

それはさっきみたいに、お母さんから四六時中説教されちゃったりするし。クラスの人が私のこと悪く思ってたりするの知っちゃうのもあんまり気分良くないんだよ。一番嫌なのはこのテレパシーで毎日お母さんから起こされる事なんだよね〜

ほんっと、

頭痛い。

 まぁ、それなりに便利なんだけどね。面白いから。

一番面白いのは先生達の考えてる事わかっちゃうの。この前なんか英語の佐山先生と地理の石川先生が付き合ってるって事知っちゃったし。臼井先生がヅラだったってわかった瞬間はもう傑作だったんだよぉ。 

 

 

「おい、

・・・結城」

 

・・・先生と目が合った。先生は思いっきり意地悪そうな顔して

こう言った。

「この問題

解いてみろ」

 

・・・もう。

あなたの

せいだよ?恥ずかったぢゃん。

問題解けなかったし。

 

「光ちゃん、誰と話してるの?」

見れば、光と同い年くらいの少女が、不思議そうに光の顔を覗き込んでいた。

「望ちゃん?

べ、別に…気にしない、気にしない、

あはは…」

「光ちゃん…お母さんと

喋ってたね」「…え?

何の事?」

 

「さっきのはどう考えても独り言

じゃなかったよ」

 

そういうと、少女は去っていった。

 

望ちゃん…

行っちゃったじゃん!

あなたの

せいだよ!

 

・・・え?彼女誰かって?親友の望ちゃん。そ、彼女

だけは唯一知ってるんだ。私が

テレパス

だって事。とってもいい娘なんだよ。口も

かたいし、趣味合うし。

頭いいし。いっつも

ノート写させてくれるんだ。

・・・・・なんか忘れてる様な

・・・・・

 

ああ!次、

理科だっ!

ノート写してなかった・・・・・急ぐから

またね! 

 

そう言って、私は走り

去った。

 

そんなこんなで6時間目の授業が終わった。

 

今日もまた、テレパス結城光にとっては平凡な1日が過ぎるはずだった。

 

(・・・光)

(・・・

お母さん?)

 

いつもと

どこか違う母の声。

今日、授業中に聞いた母の声とは似てもつかない消え入りそうな、母の声。光はどうしようもない

胸騒ぎに

襲われた。

 

(光、聞いて。

・・・・・

今日は家に帰ってきちゃダメ。おばあちゃんのところに泊めてもらって・・・)

(お母さん、どうしたの?)

 

その時だった。光の脳裏に、母の思考を伝って、鮮明に情景が浮かび上がってきた。

 

家が、

燃えている。

炎に包まれる家・・・

 

黒ずくめの男達・・・

 

燃え上がる炎の中で

母さんは

うずくまっている

・・・・・

 

・・・・!

 

「お母さん、怪我が!」気付かぬうちに光は叫んでいた。

何故だろう、涙が溢れた。広がる赤いしみ。母が傷口を抑えている。

苦しそうな、母の息遣いが聞こえてきた。光は今までこれ程テレパスの力を邪険に思った事はなかった。(いや…

もう聞きたくないよ)光は両耳を抑えた。目を閉じた。それでも光の脳裏には、傷ついた母の姿が、苦しげな母の虫の様な

息遣いが鮮明に浮かんでくる。

「ちょっと光ちゃん!どうしたの?ねぇ!」望が光の異変に気づき声を掛けてきた。しかしその言葉は光には届かなかった。(…光、

聴いて…

決して貴方の超能力を人に知られないで。また彼らは貴方を狙ってくる…光、お母さんもう助かりそうにないの…お父さんも多分、

もう・・・)「奴らって誰?!何で私達狙われるの?!何故・・・何故お母さんが・・・・」

最後の語は

悲しすぎて、

言葉にならなかった。

 

 

「光・・・お母さん幸せだった。お父さんと貴方と私の3人の家庭・・・・・

ずっとお母さん見守ってるからね・・・・・貴方がエデンの追っ手に狙われる事ないようにって…」

 

光の脳裏の中の光景で、母は静かに息を引き取った。安らかに、燃え上がる炎の中に・・・

 

 

 

「光ちゃん」聞き覚えのある少女の声。望だ。今のは、

テレパスとして心の声を聞いたのではなく、耳で直接

聞き取った声だった。

 

 

「…転校

しちゃうんだって?」

「うん、いろいろあったからね。

・・・親戚の家に行く事にしたの。その方がいいってカウンセラーの先生も言ってたし…」「お別れ、だね・・・」望の目にはうっすらと涙が込み上げていた。

「きっと

帰ってくる

から・・・いつか」

 

・・・結局、

望にも話せ

なかった。親戚の家に行くなんて嘘だった。…母の最後の言葉、

「エデン」

・・・・・私は知るまで帰らない絶対。私の家庭を、私の幸せな

日々を滅茶苦茶にした得体の知れないもの。黒い服の

男の人達。…超能力者への弾圧?それとも私たちが何かしたって

言うの?

 

・・・・・わからない・・・・・

 

でもこの、テレパスの力さえあればきっと見つけられる。いつか答えが。そしたらまた帰ってこよう

・・・・・

 

それまで、

さようなら、お母さん…

望ちゃん…

みんな…

先生方…そろそろ出発しようかな。高校生の私一人でどこまでやれるか知らないけど・・・くよくよしていても

始まらないよね!

みんな、見守ってて!

 

かくして、結城光も旅立った。

彼女もまた、自分に秘められた力に憂いながら、戸惑いながら。

 

光は両手を陽光にかざした。陰鬱な自分の

気持ちとは裏腹に、

陽射しは

眩しかった。

 

そのとき。

 

(この町の標的の一家はもう消したのか?)

(ああ)

(しっかしわからねぇな、何であんな普通の家族を?)

(あの一家は、超能力を持って

いただろ?)(成る程。俺らエデンの管轄区ってわけか)

 

エデン!?

 

光はさらに意識を研ぎ澄ましたが、それ以上

もう何も聞けなかった。

 

光はとっさに悟った。

エデンが

超能力者を狙う組織

である事。

そして、

光の自宅を襲ったのが、エデンで

ある事…

 

 

・・・絶対、許さない

貴方達の

せいで、

お父さんは、お母さんは・・・・・

 

望は親友が引っ越たその夜不思議な夢を見た。

 

夢の中には、彼女の親友の少女…

泣いていた。でも、望が駆け寄ると、少女は泣くのをやめた。そして、

 

「望、私、

きっと帰ってくるよ。

短い間だったけれど、ありがと。

私、つらいけど、笑ってるから。泣いたら

私らしく

ないよね。

次会った時、笑ってまた会おうね!」

 

望は、それが光からのメッセージだったと信じている。

 

「誰か…

泣いてる?」

「ううん…

泣いてなんかないよ!」

「鰐口

  黎明」

最悪、今日の

セッションは最悪だった。俺のギターの

4弦がものの

見事に切れ

やがった。

チューニングで巻き過ぎたのかって?

いや、違う。弦の老朽化?いや、それも違うんだ。何か、とてつもなく、嫌な予感がする。

 

これもみんな・・・・

 

「夕美、お前のせいだ!」と、隣で書類だかなんだかわからねぇが作業している馬鹿女に向かって怒鳴る。「何で私のせいなの?!」「るせぇつ!お前がいちいち横でうるさいからだ!

「何よ!心配してあげてるんじゃない!バイトもまた止めたって言うから…」

「心配される筋合いなんかねぇ!とんだ節介だ!お前はうざいんだよ!」

「何よ、人が黙って聞いてたら!小さい頃は私と一緒じゃなきゃ

な〜んにも

出来なかった

くせに」

「なっ・・・

む、昔の事はかんけーねぇだろ!お前とは金輪際口を聞いてやらねぇからな!」

「私だって

お断りよ!」「はいはい、二人とも抑えて抑えて」

そう言って俺達二人の間に割って入ったのはバンドの声、

ボーカルの

ケンだ。

「喧嘩ぁ?

またかよ、

二人とも

やめようぜ」少し面倒そうに言ってるのはベースのヒトシ。「どーせ黎明の方から

なんか言い

出したんだろ?だな?

夕美さん

困ってんじゃねぇか」

んで、夕美の肩持ってやがる裏

切りモンが、

キーボードのヨシキ。

しきりに

「いい奴」ぶる

ちょっと気にくわねぇやつだが腕前は

確かだ。

 

「なに〜、

何かあった

のぉ?」

・・・・・

向こうの

どっかぬけてるでっかい奴がカズ、

ドラムだ。

これで全員。ロックバンド“クローズ”のメンツだ。そして俺が

レーメイ、

ギター担当の鰐口黎明。

 

え?あの女?あいつは俺の幼馴染でとんだ腐れ縁の

小林夕美。何でか知らねぇが高卒後音楽で食っていくこと決めた時からずっと、私生活の事

までうるさく言ってくる。そんなあいつは何でかうちのバンドの

マネージャー

やってる。って言っても、さっき怒って出て行った

けどな。ま、

どーせ戻って来るだろう、

晩飯作りに。俺が自炊出来ないのあいつは知ってる

だろうし。

 

「レーメイ、また何か言ったんだろ?」「あん?」

ケンの問いに、適当に

聞き返す。

「夕美さん…泣いてたぞ」

「アイツが泣くわきゃねぇだろうが。

鉄の女だぞ」そんとき。

「ふざけん

じゃねぇ!」

ヨシキの拳が飛んで来た。間一髪で俺はかわすが、頬に熱い痛みが走る

「ヨシキ…

何しやがる」俺は出来る

だけ怒りを

抑えて冷静に言った。

「レーメイ、わかってるだろうが!?」「はっ。何の事かさっぱりわかんねぇ」「いい加減にしろ」

今度はケンが言った。

「夕美ちゃんいっつもお前の事を気に掛けてくれてるだろうが」

「・・・」

俺は黙っていた。

「口はさんで悪いが」

とヒトシ。

「夕美ちゃんの気持ちに気付いた上で、お前はぐらかしてるだろ?何でだ?」

「それは…」

 

俺の超能力のせいだ。最初は、ただの静電気か何か

だと思って

いた。

・・・でも、実際はそんなに甘っちょろいもんじゃ

なかった。

 

“エレクトロ

 キネシス”

 

専門用語で

そう言うらしい。カズがインターネットで調べた。

あいつ、パソコン関係とドラムの腕だけは超一流

だからな。

具体的には、体内で発電

したり、数億ボルトの電流を体に溜め込んだり出来る力。とは言え、俺はまともに制御できたことなんかない。初めてこの力が現れたのは小学校の頃だった。 当時親友

だったダチが、数人のいじめっ子に囲まれていて、俺はダチを助けに行った。・・・が、太刀打ち出来なかった。それどころか、奴らそのいじめの矛先を俺に向けてきた。かっとなって逆上した俺は・・・・・

よく覚えていない。見て

いたダチの話では、指から

バチバチ、ってなんか飛ばしていたらしい。気が付いたとき、いじめっ子のリーダーが倒れていた。・・・重傷だった。それから、俺に近づく奴はいなくなった。中坊ん時も。高校に

入っても。

 

でも一人

だけ、俺に近づく馬鹿が

いたんだ。

…夕美だ。あいつ、周囲の女子の冷たい視線も省みず、ずっと俺のそばにいてくれた。馬鹿だよな。たかが幼馴染ってだけで。

そんな腐れ縁が今日まで

続いてる。

 

「何でだ?

どうして

アイツ、俺がこんな超能力持ってても

離れていかないんだ?」「そりゃぁ、夕美ちゃん

レーメイに

ぞっこん

だからね〜」とカズ。

こいつ、何て事を・・・「いや、あながちハズレ

ではないと

思うな」

涼しい顔でヒトシが言う。「でなければフリーターで学歴なくて

行く末もないバンド野郎に構ってないだろうからな」

言わせて

おけば・・・

 

「いいからさっさと夕美ちゃんに謝って来い。それとな、ヒトシ、行く末もないバンドじゃ

な・く・て、

俺達は全員で

上京して、

メジャーに

なるんだよ。

いいな?」

「そういう事だ。OK?」とヨシキ。

「お前な、

美味しい所だけ持って行きやがって」

笑いながら

ケンが言う。「さっさと行って来いよ「…ああ」

 

あまり気乗りしなかったが俺は夕美に

謝るため、

アイツを探しに行った。

・・・何だ

かんだ言って、いくらか俺はアイツに借りがある

わけだし。

 

 

「ここだろうと思ったぜ「レーメイ?」夕美は近くの公園にいた。「悪かったよ」「・・・・・」「一つ、夕美に聞きたい事がある」

「何・・・?」「もう知ってるだろ?俺が超能力者だって事…なのに何故?」

「何故、って…?」

「何故超能力者と知っていながら俺のそばにいる?」「…わから

ないの?」

「ああ」

「そんな事も気付かないで作詞作曲やってんの?ダメダメじゃん」「何だと?」

「…いいよ

何でもない」ちょっと淋しそうに目を伏せたあと、夕美はいつもの人懐っこい笑みを浮かべていた。

「ほらさっさと帰ろーよ」「…変なヤツ」

「レーメイに

言われたらおしまいだよ」「んだとコラ」「はいはい、怒らないで

怒らないで」結局いつものようにやり込められ(?)

俺らは一緒に帰ってきた。

 

・・・が

 

 

「ヒトシ、

お前・・・」悪夢。いや、夢じゃない。みんなが、俺の仲間が、血まみれで床に倒れている。…既に絶命している様だ。息はない。

ヒトシの手には、刃渡り

30センチ程の文化包丁が握られている。真紅

の、包丁が。ヒトシは、その虚ろな目を俺達に向け、言った。

「鰐口黎明。後天的なエレクトロキネシス、つまりは電磁念力の力を持つ。能力に覚醒したのは小学生期。以来、数回

能力を使う」「…てめぇ、

ヒトシじゃ

ねぇな!?」いつものそれとはまるで

違うヒトシの

冷たい声に、俺は内心、

動揺を隠せ

なかった。

「ヒトシ…?確かにそう呼ばれていた様だこの体は。精神的に脆い部分があったのでサイキック・スティールの獲物には最適だった」「何だそれは」「他人の精神に干渉して、感情や意識を乗っ取る能力だ。お前と同じ、呪われた超能力者の力・・・・・」「黙れ!お前のせいでケンは、カズは、ヨシキは…」見れば、横で夕美が震えていた。

「仇を討たせて貰うぞ…

みんなの。

それとせめてヒトシの意識と体は返してもらおう」

「半人前の超能力者のお前に何が出来る。死ね!」

その声と共に、黎明の体は不可視の力によって数メートル吹き飛ばされ、部屋の壁に叩き

付けられた。「くっ、

何だって…」こんな力、と言おうとして、俺はまともに右腕が

動かせなく

なっている事

に気付いた。

 

殺られる。

 

そう思った。

 

「・・・!?

な・・・ク、や、やめろぉぉぉぉっ!」ヒトシに乗り移った男は頭を抱えて苦しみ始めた。そしてうわ言の様に、ヒトシの声で話し

始めた。

「レーメイ、聞こえてるか…?こいつらは超の…殺す!…うの

力者を抹殺

しようと…

貴様大人しく、ぁぁぁぁっ!…エデン、レーメイ、逃げろ。こいつらは…ぁぁぁぁっ」ハァハァ、と荒い息をしてまたヒトシが呼吸を整えていた。いや、ヒトシと言うのは適当ではない。また乗っ取られてしまった様だ。「手間取らせやがって…このヒトシとか言う奴も、そこの女も、鰐口黎明!貴様諸共殺す!」ヒトシの手に包丁が握りなおされ、振り上げられる。俺は死を覚悟した。

その時、夕美が俺をかばう様に前に立ちはだかった。

 

「この馬鹿、

やめろ!」

遅かったか。俺は目を

伏せかけた。しかし、

「な!?」包丁は、夕美にではなく、ヒトシの方へ向けられている。ヒトシ?

…死ぬ気だ。

そのまま、自分の体に包丁を突き立てる。それで、ヒトシは完全に我にかえった様だ。俺は右腕をかばい

つつヒトシに駆け寄る。

「ヒトシ!馬鹿な事を…」「レーメイ…無事か?夕

美ちゃんも?そう、良かった…」

気を付けろよ、夕美ちゃん幸せにしろよ、そう言いヒトシは静かに息を引き

取った。

 

数日後、俺はみんなの墓の前にいた。俺は、夕美を連れてヒトシの言っていたエデンの情報を集めることにした。

「…みんなと作ったこのデモテープ大事にするから」これ以上、俺達の間に言葉はいらない。仇は取る。

夕美を守る。これでいいんだろ?

4「時田

  信介」

時間は二度と戻らない。

 

嘘だ。この僕に限っては。

 

「ねぇ信、…貴方また時間を戻さなかった?」

「さぁ」

会話している僕達のテーブルに、ウェイトレスが

コーヒーを

運んで来る。

こんな会話が僕達二人の間では日常茶飯事だった。

僕の名前は

時田信介。

もう既に察しがついたかもしれない。

そうなんだ、

僕はタイム

リーパー!

時間旅行者

って訳だ。一部分の空間の時間を切り取り、過去に移動したり、少し先なら未来にだって移動できる。今しがた僕が話していた娘は

緒方静穂。

僕の恋人だ。僕たちは、今度の秋、挙式する予定だ。本当は間違いないんだ。自分で未来に行って、見て来たんだから。ほかにもこの力はいろいろと使い出が

あって。便利な所では、そのミスを犯したら数分前に遡って自分のミスを改めたり。試験を解いて自己採点した後に、時を遡って答案を改めたり。

 

…とまぁ、こんな感じだ、僕の日常は。人には明かしていないけれど、たぶん人に言われる

だろう。

「お前は、超

能力に頼って

生きている」って。

それでいい。何の問題も

無いだろう。僕は確実な成功が欲しいだけ。甘えでも何でもいい。いいんだ…

 

「ねぇ信?」

二人でいる、行きつけの喫茶店。静穂が

ふと僕に聞いてきた。

「なに?」

「私の両親の事だけど…」そら、来た。そう言われるのはわかっていた。ある程度の未来は見据えている。とは言え、静穂は僕の能力の事も知っているけど。

「挨拶に来て欲しいって

事だろ?」

僕は既に何て聞かれるか知っていたので先に聞いた。途端。

「あ〜っ!何でわかったの?やっぱり未来に言って調べて来たんでしょ?」頓狂な声を上げる。その声に、周囲の客が一斉にこちらを見る。

(ば、ばか!声のトーンを下げろ!聞かれちまうじゃないか!)そう言いつつ、僕は全神経を集中させ、

・・・・・

 

 

ウェイトレスが、僕らのテーブルにコーヒーを運んで来る。

 

「…何で?

何で1分前の光景に戻ってるの?」

静穂がジト目で僕を見る。いや、睨んでいると言うのかもしれない。静穂は僕が超能力を使う事に反対だからなぁ。「それはな、静穂とより

多くの時間を過ごしていたいからだ」と、軽口を

叩いてやる。

すると、静歩は明らかに困惑して顔を

赤らめる。

「…もうっ」都合いいん

だから、と口

を尖らせる。

出会った頃から全然変わらないな。静穂は僕よりも一つ年下だった。最初の頃は可愛い後輩だな、ぐらいにしか思っていなかったが、同じ大学にこいつが進学してきてから僕達の交際は始まった。

 

静穂の両親に挨拶しに行く日程を決め、しばし喫茶店でゆっくりしてから僕らは店を発った。店を出ると、優しい秋の陽射しが降り

注いでいた。「・・・いい天気だね」

「そうだな」僕は近くの

河原の道を、

静穂と二人で

歩いていた。「挙式…いつにする?」

これも聞かれるだろうと思っていたので

驚かない。

「う〜ん、今はそれよりも就職口を探す事で手一杯

なんだ。もう

少し待って」これは事実

だった。もうすぐ大学も卒業(確実)だというのに、未だに就職口が見つからない。僕は少し焦っていた。…まぁ、タイムリープの能力で、合格するまで面接を受け直すと言う事も出来る。少々面倒くさいが。

 

「ねぇ、何考えてるの?」河原で寝そべっていた僕の顔を、少し幼い瞳が覗き込んでいた。

「ん・・・

いや、何でもない」

俺は身を起こして、水面を見つめた。

ただ流れ行くせせらぎの音以外は何も聞こえない。

「静かだな」僕がそう

言った時。

 

!?

 

殺気だ。誰かがこちらを凝視している。そう感じ取った瞬間、さっきまで僕達がいた地面は、数発の銃弾でズタズタに

なった。

 

「何なのよ、一体!?」

静穂がわめいた。僕はとっさに、静穂と僕自身を、

喫茶店を出た

直後の時間に

転移させて

いた。

「わからない、でも確かに僕達は命を狙われた…

白昼堂々と」大体、銃を持っている様な奴から恨まれる様な覚えは

無い。いや、人から恨みを

買う覚えは

無い。トラブルを起こしたら、僕はいつも時を遡ってやり直して

来たからだ。

それに・・・

 

さっきの出来事、今まで

の未来には

無かった?!(何か、良くない事が起きている…)

 

僕は戸惑いを隠せなかった。

「私達・・・どうなるの?」

見れば、静穂はすっかり

おびえきっていた。無理も無い。

「大丈夫だ」

僕はそう静穂に言い聞かせつつ、自分自身の心をも落ち着かせようとしていた。

 

何とかなる

何とかなる

何とか・・・

 

耳を突く様な窓ガラスの

割れる音。喫茶店の窓が一斉に砕け散る。瞬時に僕は、本能的にそれが物理的な超能力によって破壊されたものだと

判断した。

 

「来る…!」僕と静穂の見ている前で、眼前の空間が裂け、ぬるりと、一人の黒ずくめの男が現れる。さながらターミ

ネーターが、未来から現れた場面の様

だった。

「時田信介」まるで感情のこもっていないかの様な

冷たい声で、そいつは僕の名を呼んだ。「挨拶代わりのパフォーマンスだ。楽しんでもらえた

かな?」

低く笑いながらそいつは

言った。

「・・・狂ってやがる。今

ので何人の罪

の無い人が

傷ついたか」僕は自分には合っていない台詞を吐き

捨てた。

「…そうか。

お気に召さないとは残念だ。じゃ、さっさと商談に入ろう」

「商談?」

僕は怪訝そうに男を見つめた。どこをどう見ても、サラリーマンや営業マンには見えない。

男は続けた。「われわれは特殊鎮圧部隊エデンの

メンバーだ」「エデン?」静穂がおうむ

返しに聞く。「そうだ。我々は超能力者が起こした災害や事件煮を鎮圧、超能力者の除去を図る部隊だ。お前は頭脳面でも能力面でも司令に高く買われている」「…断る。就職口は欲しいが、要は殺し屋だろう?人を傷つける事には反対だ」「頭が固いみたいだな。目が覚める様にしてやろう」そこまで言い男は静穂に目を向けた。

 

危ない!

 

僕が思った瞬間、全ては遅かった。一発の弾丸が静穂を貫いた。

「静穂!!」

僕はすぐさま駆け寄り、危険を回避するべく、時間を逆行しようと試みた。が。

 

「時が・・・時が、戻らない?!」

時間移動出来なかった。いくら精神を集中しても、自分の脳裏には、目の前で静穂が一発の弾丸に貫かれた場面だけが浮かぶ。

「静穂…」

とめどなく

涙が溢れる。

静穂の胸から鮮血が溢れ

出していた。

さっきまで

彼女が生きて

いた命の色。

さっきまで。

 

「これで超能力を持たない低級な女は消えた。商談に入ろう」

男は邪悪な

笑みを浮かべ

笑っていた。

頭にかっと血が上った。

「お前、よくも静穂を!」僕は相手に掴み掛かって

行った。

 

無駄だった。僕の体は地面に叩きつけ

られた。成す

術も無く。

「どうやら御協力願えないようですね」男はいささか残念そうに言うと銃を握り直した。その一瞬の間を、僕は見逃さ

なかった。

「消えろ!」僕は再び全

神経を集中

させた。

怒り。

悲しみ。

憎しみ。

後悔。

そして。

「な、何を!貴様、こんな事をしてただではっ!」

そこまで言って、男の周囲の空間が歪み始めた。男の輪郭が崩れていく。

「がっ!がががが・・・

ギィィ!!」声にならない無気味な断末魔と共に、男は異空間に

吸い込まれて

行く。

あの瞬間、僕は持てる力の全てで、時空の門を開き、あいつを時の狭間に送り込んだ。僕と同じく時間移動の出来るあいつでももう

戻っては来れ

ないだろう。僕は、傍らで倒れている

薄幸の少女を

見つめた。

「静穂…」

もう息は無かった。仇を取ったけれど、少しも僕の心は楽にならな

かった。

 

結局、あの後何回やっても、静穂が生きていた間の過去には、戻れなかった。僕が思うに、彼女の“死”と言う出来事が、僕の心に強いショックを与えて、過去へ戻る力を抑えているのだろう。半分は、静穂の

思い通りに

なった訳だ。いつも静穂は、超能力なんかに頼らないで、と言っていたから。時間移動能力を持っていながら、僕の中の時間は止まってしまったわけだ。皮肉なもんだ。

銃弾が彼女を貫いたあの

瞬間に僕の時は止まって

しまった。

 

なのに、涙は止まらない…

 

僕は戦い抜く

決心をした。

謎の特殊鎮圧部隊、エデン

の存在を知ってしまった以上、僕はもう部外者ではない。それに、僕と同じ様な悲しみを誰かに味わって

欲しくない。

 

幸い僕の時間移動能力は完全に失われた訳ではないし、今回不本意ではあるが血を見ずに人を殺す力も身に付いてしまった。静穂を失って今更、普通の生活なんて送りたくない。結局、時間旅行者

として生きて

きた僕には、

静穂がどう思っていたのか

わからない。僕を恨んでいたかもしれない。でも見るからに彼女の死に顔は安らかだった。

初めて、僕は本当の意味での人生の厳しさを知った。人生に、やり直しなんて

効かない…!

 

 

時間はもう、戻らない。

そして静穂も帰らない…