「鰐口黎明」

最悪、今日のセッションは最悪だった。俺のギターの4弦がものの見事に切れやがった。

チューニングで巻き過ぎたのかって?いや、違う。弦の老朽化?いや、それも違うんだ。

何か、とてつもなく、嫌な予感がする。

 

これもみんな・・・・

 

「夕美、お前のせいだ!」と、隣で書類だかなんだかわからねぇが作業している馬鹿女に向かって怒鳴る。

「何で私のせいなの?!」

「るせぇつ!お前がいちいち横でうるさいからだ!」

「何よ!心配してあげてるんじゃない!バイトもまた止めたって言うから・・・」

「心配される筋合いなんかねぇ!とんだ節介だ!お前はうざいんだよ!」

「何よ、人が黙って聞いてたら!小さい頃は私と一緒じゃなきゃな〜んにも出来なかったくせに」

「なっ・・・む、昔の事はかんけーねぇだろ!お前とは金輪際口を聞いてやらねぇからな!」

「私だってお断りよ!」

 

「はいはい、二人とも抑えて抑えて」

そう言って俺達二人の間に割って入ったのはバンドの声、ボーカルのケンだ。

 

「喧嘩ぁ?またかよ、二人ともやめようぜ」少し面倒そうに言ってるのはベースのヒトシ。

 

「どーせ黎明の方からなんか言い出したんだろ?だな?夕美さん困ってんじゃねぇか」

んで、夕美の肩持ってやがる裏切りモンが、キーボードのヨシキ。しきりに「いい奴」ぶる

ちょっと気にくわねぇやつだがキーボードの腕前は確かだ。

 

 「なに〜、何かあったのぉ?」

・・・・・向こうのどっかぬけてるでっかい奴がカズ、ドラムだ。

これで全員。ロックバンド“クローズ”のメンツだ。そして俺がレーメイ、ギター担当の鰐口黎明。

 

え?あの女?あいつは俺の幼馴染でとんだ腐れ縁の小林夕美。何でか知らねぇが高卒後音楽で食っていくこと

決めた時からずっと、私生活の事までうるさく言ってくる。そんなあいつは何でかうちのバンドのマネージャー

やってる。って言っても、さっき怒って出て行ったけどな。どーせ戻って来るだろう、晩飯作りに。俺が自炊

出来ないのあいつは知ってるだろうし。 

 

「レーメイ、また何か言ったんだろ?」

「あん?」ケンの問いに、適当に聞き返す。

「夕美さん・・・泣いてたぞ」

「アイツが泣くわきゃねぇだろうが。鉄の女だぞ」そんとき。

 

「ふざけんじゃねぇ!」

ヨシキの拳が飛んで来た。間一髪で俺はかわすが、頬に熱い痛みが走る

「ヨシキ・・・何しやがる」俺は出来るだけ怒りを抑えて冷静に言った。

「レーメイ、わかってるだろうが!?」

「はっ。何の事かさっぱりわかんねぇ」

「・・・いい加減にしろ」

今度はケンが言った。

「夕美ちゃんいっつもお前の事を気に掛けてくれてるだろうが」

「・・・」

俺は黙っていた。

「口はさんで悪いが」

とヒトシ。

「夕美ちゃんの気持ちに気付いた上で、お前はぐらかしてるだろ?何でだ?」

「それは…」

 

・・・俺の超能力のせいだ。最初は、ただの静電気か何かだと思っていた。でも、実際はそんなに甘っちょろい

もんじゃなかった。

・・・“エレクトロキネシス”・・・専門用語でそう言うらしい。カズがインターネットで調べた。

あいつ、パソコン関係とドラムの腕だけは超一流だからな。具体的には、体内で発電したり、数億ボルトの電流を体に

溜め込んだり出来る力。とは言え、俺はまともに制御できたことなんかない。初めてこの力が現れたのは小学校の頃だった。

 当時親友だったダチが、数人のいじめっ子に囲まれていて、俺はダチを助けに行った。・・・が、太刀打ち出来なかった。

それどころか、奴らそのいじめの矛先を俺に向けてきた。かっとなって逆上した俺は・・・・・

よく覚えていない。見ていたダチの話では、指からバチバチ、ってなんか飛ばしていたらしい。気が付いたとき、

いじめっ子のリーダーが倒れていた。・・・重傷だった。それから、俺に近づく奴はいなくなった。中坊ん時も。高校に

入っても。

 

でも一人だけ、俺に近づく馬鹿がいたんだ。・・・夕美だ。あいつ、周囲の女子の冷たい視線も省みず、ずっと俺のそばに

いてくれた。馬鹿だよな。たかが幼馴染ってだけで。そんな腐れ縁が今日まで続いてる。 

 

「何でだ?どうしてアイツ、俺がこんな超能力持ってても離れていかないんだ?・・・あの馬鹿」

「そりゃぁ、夕美ちゃんレーメイにぞっこんだからね〜」とカズ。

こいつ、何て事を・・・

「いや、あながちハズレではないと思うな」

涼しい顔でヒトシが言う。

「でなければフリーターで学歴なくて行く末もないバンド野郎に構ってないだろうからな」

くそ、こいつらっ!!言わせておけば・・・

 

「いいからさっさと夕美ちゃんに謝って来い。それとな、ヒトシ、行く末もないバンドじゃな・く・て、

俺達は全員で上京して、メジャーになるんだよ。いいな?」

「そういう事だ。OK?」とヨシキ。

「お前な、美味しい所だけ持って行きやがって」

笑いながらケンが言う。

「さっさと行って来いよ」

「・・・ああ」 

 

あまり気乗りしなかったが俺は夕美に謝るため、アイツを探しに行った。

・・・何だかんだ言って、いくらか俺はアイツに借りがあるわけだし。

 

 

「ここだろうと思ったぜ」

「レーメイ?」夕美は近くの公園にいた。

「悪かったよ」

「・・・・・」

「一つ、夕美に聞きたい事がある」

「何・・・?」

「もう知ってるだろ?俺が超能力者だって事・・・なのに何故?」

「何故、って…?」

「何故超能力者と知っていながら俺のそばにいる?」

「・・・わからないの?」

「ああ」

「そんな事も気付かないで作詞作曲やってんの?ダメダメじゃん」

「何だと?」

「・・・いいよ何でもない」ちょっと淋しそうに目を伏せたあと、夕美はいつもの人懐っこい笑みを浮かべていた。

「ほらさっさと帰ろーよ」

「・・・変なヤツ」

「レーメイに言われたらおしまいだよ」

「んだとコラ」

「はいはい、怒らないで怒らないで」結局いつものようにやり込められ(?)俺らは一緒に帰ってきた。

 

 

・・・が

 

 

 

「ヒトシ、お前・・・」悪夢。いや、夢じゃない。みんなが、俺の仲間が、血まみれで床に倒れている。・・・既に

絶命している様だ。息はない。ヒトシの手には、刃渡り30センチ程の文化包丁が握られている。真紅の、包丁が。

ヒトシは、その虚ろな目を俺達に向け、言った。

「鰐口黎明。後天的なエレクトロキネシス、つまりは電磁念力の力を持つ。能力に覚醒したのは小学生期。以来、数回

能力を使う」

「・・・てめぇ、ヒトシじゃねぇな!?」いつものそれとはまるで違うヒトシの冷たい声に、俺は内心、動揺を隠せなかった。

 

「ヒトシ…?確かにそう呼ばれていた様だこの体は。精神的に脆い部分があったのでサイキック・スティールの獲物には最適だった」

「何だ、それは?!」

「他人の精神に干渉して、感情や意識を乗っ取る能力だ。便利だったぞ。まさか仲間に殺されるとは夢にも思っていなかった

のだろうな。殺すのは簡単だった。どうだ、これもお前と同じ、呪われた超能力者の力・・・・・」

「黙れ!お前のせいでケンは、カズは、ヨシキは・・・」見れば、横で夕美が震えていた。

「仇を討たせて貰うぞ・・・みんなの。それとせめてヒトシの意識と体は返してもらおう」

「半人前の超能力者のお前に何が出来る。死ね!」

その声と共に、黎明の体は不可視の力によって数メートル吹き飛ばされ、部屋の壁に叩き付けられた。

 

「くっ、何だって・・・」こんな力、と言おうとして、俺はまともに右腕が動かせなくなっている事に気付いた。

 

殺られる。

 

そう思った。

 

「・・・!?」

「な・・・ク、や、やめろぉぉぉぉっ!」ヒトシに乗り移った男は頭を抱えて苦しみ始めた。そしてうわ言の様に、ヒトシの声で話し始めた。

「レーメイ、聞こえてるか・・・?こいつらは超の・・・殺す!・・・うの力者を抹殺しようと・・・貴様大人しく、っっっ、ぁぁぁぁっ!!!

・・・エデン、レーメイ、逃げろ。こいつらはぁぁぁぁッ!!!」

ハァハァ、と荒い息をしてまたヒトシが呼吸を整えていた。いや、ヒトシと言うのは適当ではない。また体を乗っ取られて

しまった様だ。

「手間取らせやがって・・・このヒトシとか言う奴も、そこの女も、鰐口黎明!貴様諸共殺す!」ヒトシの手に包丁が

握りなおされ、振り上げられる。俺は死を覚悟した。

 

その時、夕美が俺をかばう様に前に立ちはだかった。

 

「この馬鹿、やめろ!」遅かったか。俺は目を伏せかけた。しかし、

「な!?」包丁は、夕美にではなく、ヒトシの方へ向けられている。ヒトシ?

・・・死ぬ気だ。

そのまま、自分の体に包丁を突き立てる。それで、ヒトシは完全に我にかえった様だ。俺は右腕をかばいつつヒトシに

駆け寄る。

「ヒトシ!馬鹿な事を・・・」

「レーメイ・・・無事か?夕美ちゃんも?そう、良かった・・・」

「もういい!喋るんじゃない!救急車を呼ぶから・・・」

「俺は・・・もう助かりそうに・・・無い・・・なぁ、夕美・・・ちゃん、最後にレーメイと2人で話、させてくれないか・・・?」

 

俺は夕美にちょっと席を外させた。

「レーメイ・・・気付いてると思うけど、俺は夕美ちゃんが好きだった。だから、心のどっかでもしかしたらお前を憎んでいたのかもしれない・・・」

「・・・」

「でも・・・気付いていたんだ、彼女の笑顔はいつもお前に向けられているのを。だから良かった、お前を失っていたら

きっと彼女、立ち直れないだろ・・・?お前じゃなきゃ、彼女を幸せに出来ない」

「・・・俺にはそんな資格はねぇ。・・・ヒトシこそ、夕美にふさわしかった」

「そう言ってくれるな・・・夕美ちゃんを、どう思ってる?」そこまで言ってヒトシはまた大量に血をはいた。もう長くは

無いだろう。

「・・・好きだ。何があっても俺のそばにいてくれる」

「聞いて安心した。エデンに・・・」

・・・気を付けろよ、絶対夕美ちゃん幸せにしろよ、そう言いヒトシは静かに息を引き取った。

 

数日後、俺はみんなの墓の前にいた。俺は、夕美を連れてヒトシの言っていたエデンの情報を集めることにした。

「・・・みんなと作ったこのデモテープ大事にするから」これ以上、俺達の間に言葉はいらない。仇は取る。

・・・ヒトシ。俺は必ず夕美を守り通す。これでいいんだろ?