県教育委員会認可通信教育
月刊数学Ua教科通信 創刊号:数術師オイラー
オイラの贈り物 2001年4月29日発行
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5年振りに、数学Uaを担当することになりました、上田幸範です。
とは言っても、昨年数学Tbを学習した人は、「またか!」かも知れませんが、これもまた何かの因縁と思って、今年一年間のおつきあいを.....
昨年、数学Tbを受講していた何人かの方に、「数学Uaを受講してみたいのだが、どうでしょうか?」と聞かれました。そのとき必ず「数学Uaは、高校数学のメイン・ディッシュだから、ぜひやったら。」と答えたものです。
実際、数学Uaに登場する、方程式と図形(解析幾何)と微分・積分は、みなさんが小学校以来約10年以上勉強してきた、算数、数学の知識を基礎として、新しい数学の局面へのステップ・アップと言ってもいいでしょう。
ごちそうを堪能するには、丈夫な胃が必要です。もっとも私自身最近は、ステーキや中華料理フルコース(フランス料理は元々苦手)などのこってり系より、お粥にアオノリ冷や奴のあっさり系が好みになり、メイン・ディッシュをみなさんと共に平らげられるかいささか不安もあります。
そこで昨年出した数学Tb教科通信「エヴァリスト」に続いて、今年も毎月、数学Ua教科通信「オイラの贈り物」を消化剤として出そうと思います。
数学Uaと同様に、ご愛顧のほどをよろしくお願いします。
◎数学者のことば第一回:オイラーの巻
「閣下、(a+bn)/n=x、ゆえに神は存在します。お答え下さい。」
数学関係者は計算が得意だろうか?
ここに、数学関係者とは、数学者(主に大学や研究所にいて、大小の新しい理論を研究する)や数学屋(主に小中高にいて、新しい理論を研究するというより、それを学んで、理解したことを生徒に教える)とする。
数学関係者以外は言う。「当然でしょう。」
数学関係者は言う。「とんでもない。だから素人は困る。」
そう、数学関係者はたいてい計算が苦手である。
クーラント、ヒルベルトの名著「数理物理学の方法」初版本は、計算は間違うは、式のミスはあるはで、散々だったそうだ。それでもその書物の価値はびくともしなかった。「数学者は計算が苦手」が玄人の常識なのだ。
しかし例外のない常識はない。ここに例外がいた。それがレオナルド・オイラー(1707〜1783)だった。
「オイラーは、人が呼吸するように、ワシが空中に身を支えるように、はた目には何の苦もなく計算した」
オイラーは計算が得意だった。特に暗算が。
それもそのはず、彼は若い頃右目を失明し、59才の時には左目も白内障に罹り、ついに全盲となったのである。
これでは暗算するしかない>
複雑な級数を第17項まで計算した2人の学生の答えが、小数点以下50桁目が違っていたのを、盲目の彼は暗算で計算した。恐るべき計算力である。
レオナルド・オイラーは、1707年4月15日、スイスのバーゼルに生まれた。父パウル・オイラーは、カルヴァン派の村の牧師で、数学者だった。父は、息子 に跡を継いで村の牧師になることを望んだが、レオナルドの数学の才能がそれを許さなかった。だが、キリスト教に対する篤い信仰は、しっかり父から受け継いだ。
後年、数学者として名声が高まったオイラーは、親友ベルヌーイ兄弟(ダニエルとニコラウス)の推薦で、ロシアのペテルスブルグ学士院に就職することになった。
それは医学の会員だったので、彼は短期に医学を修得して、学士院会員となった。やがてダニエル・ベルヌーイがスイスに帰ったので、彼はそのあとを次いで数学の会員となる。ロシアで結婚し、次々と子供をもうける。
そのころ皇帝だったエカテリーナ女帝の所へ、百科全書を著した高名なフランスの哲学者ディドローがやって来て、廷臣に無神論を吹き込んだ。うるさがった女帝は、オイラーに、ディドローをへこませろ、と命じた。
ディドローは、ある偉大な数学者が、神の存在の代数的証明を所有していて、全廷臣の前でそれを発表するが、聞きたいと思うか、と問われ、喜んで出席した。
ここで発したのが、冒頭の言葉である。
オイラー:「閣下、(a+bn)/n=x、ゆえに神は存在します。お答え下さい。」
ディドロー:「???・・・!#$<<=>?」
廷臣たち「ゲラゲラゲラ」
かくて、ディドローはペテルスブルグを去った。
オイラー流の与太話が、功を奏した。後に彼は、生真面目に、神は存在し霊魂は物質ではないと証明した。
時代的には、オイラーは、ニュートン(1642〜1727)とガウス(1777〜1855)の間にある。ニュートンが微分積分を、ガウスが整数論を築き上げたのと比べると、オイラーは本質的にアルゴリストだった。アルゴリストとは何か?それは、問題をあの手この手で解く人である。いわば、ニュートンやガウスを織田信長や徳川家康に例えれば、オイラーは宮本武蔵だ。剣豪オイラーにとって、時代はタイムリーだった。
デカルトの解析幾何、ニュートン、ライプニッツの微分積分学などが創られ、アルゴリストの腕を発揮する手段は充分そろっていた。
彼の得意とするところは大変多い。今「これは誰の定理?」と問えば、たいてい「オイラーのだ」と答えが返ってくる。特に得意としたところは、無限級数である。
たとえば、ゼータ関数。アルファベットのZにあたるギリシア文字のζ(ゼータ)を使って表される
ζ(s)=1/1s+1/2s+1/3s+1/4s+1/5s+・・・・
は、21世紀の今も、数々の謎を残し、解決の糸口も見あたらない。
日本にもゼータ関数研究所があり、その所員の黒川某は「ゼータ関数には、青色のものがあって、、、」などの怪しげな言葉を発している。
オイラーは、無限の世界の危うさ(注その1)を意識することなく、新庄のように無邪気に駈けめぐり、イチローの様に的確に成果を残した。オイラーの天才が、本能的に無限が持つ危険地域を避けたのだろうか。
オイラーの公式でもっとも有名なものは
eiθ=cosθ+isinθ
である。
もっとも、この式のすごさが分かるのは、いささか修行が必要で、高校数学では少し苦しい。元々無関係な、指数関数、eiθ と、三角関数cosθ、sinθとが i によって結びつくということは、ヒマラヤとマッキンレーをそれぞれ別の人が登っていったら、頂上で出会ってしまったというような、まか不思議なことなのだ。(注その2)
その後、一時プロシャ(現ドイツ)のベルリンに移ったが、再びロシアに帰る。
子供や孫に囲まれながら、研究し計算していたオイラー。1783年9月18日、彼を発作が襲った。手からペンを落とし、「死ぬよ」という一言とともに、オイラーはこの世を去った。
オイラーが計算することをやめたとき、彼は生きることをやめたのである。
(これでオイラーの回は終わります。次回はデカルトの予定です。)
注1)無限の世界の危うさ
次の無限級数を考えます。(無限級数とは、数列を無限個加えたものです。)
S=1−1+1−1+1−1+1−1+1−1+・・・
10項目までの和は
S10=1−1+1−1+1−1+1−1+1−1=0
11項目までの和は
S11=1−1+1−1+1−1+1−1+1−1+1=1
ですが、うしろの+・・・ が(つまり無限の部分が)問題です。
つまり
S=(1−1)+(1−1)+(1−1)+(1−1)+(1−1)+・・・ ア
=0+0+0+0+0+・・・
=0
また
S=1+(−1+1)+(−1+1)+(−1+1)+(−1+1)+(−1+1)
+・・・ イ
=1+0+0+0+0+0+・・・
=1
なので、Sは0か1かそれとも中をとって1/2か?
それどころか
@ A B C D E F G H I ・・・
S=1−1+1−1+1−1+1−1+1−1+・・・
において、
@ B A D C F E H G J ・・・
S=1+1+(−1+1)+(−1+1)+(−1+1)+(−1+1)+・・・ ウ
=1+1+0+0+0+0+・・・
=2
@ B D A F C H E J G L ・・・
S=1+1+1+(−1+1)+(−1+1)+(−1+1)+(−1+1)+・・ エ
=1+1+1+0+0+0+0+・・・
=3
A @ C B E D G F I H K ・・・
S=−1+(1−1)+(1−1)+(1−1)+(1−1)+(1−1)+・・・ オ
=−1+0+0+0+0+0+・・・
=−1
など、Sはどんな値も取りうるのです。
無限級数は、加える順番を変えてはいけないこと、があるのです。
だから、上のア、イ、ウ、エ、オの式は正しくありません。
結論、この無限級数Sの値はありません。
有限の和
1+3+7−5+9
なら、どこから加えても正しい答えが出ますが、無限級数は、そうはいきません。
だから無限は恐ろしい。
注2)eiθ=cosθ+isinθ のまか不思議さ
この式に登場する、e、i 、そしてπについてまず説明しましょう。
◎ i 虚数(または虚数単位)
かんたんな2次方程式 x2−1=0 を解くと
x2=1 だから
x=±1 つまり1と−1
もう一つかんたんな2次方程式 x2+1=0 を解くと
x2=−1
これは、xを2乗するとマイナス1になるということですが、そんな数(実数)はありません。そこを無理に解いて
x=±

ここで

=
i とおくと、x=
±i となる。
虚数 i は、長い間一人前(?)の数としては認められませんでしたが、ガウスがその意味を確定し、コーシーは虚数(実数と合わせて複素数)の微分積分を造りました。
◎ π 円周率
「円周率」と言うくらいだから、何かと何かの率です。
実は、円の円周?と直径2rの比で
l/2r=π
だから、l=2πr は公式ではなくて、πの定義なのです。
π=3.14159265358979・・・・
は循環せず無限に続く小数、つまり無理数ですが、超越数でもあります。
◎ e 自然対数の底
1+1/1=1+1=2
(1+1/2)2=(3/2)2=9/4=2.25
(1+1/3)3=(4/3)3=64/27=2.37...
(1+1/4)4=(5/4)4=625/256=2.44...
・・・・・
の極限値が
lim(1+1/n)n=e
n→∞
です。
eは収束し、その値は
e=2.71828182845...
で、これも無理数で、超越数です。
なお、この数をeの記号で表したのはオイラーですが、それはeuler(オイラー)の頭文字のeかと、わたしはずっと思っていました。所がものの本によると、指数(exponent)のeらしい。englandのeだという説もあります。eを初めて扱ったのが英国人のネピアだからという訳でしょうか。でもネピアはスコットランドですが。
まあ、そんなことはどうでもeけど。
eiθ=cosθ+isinθ は、この様なe、i、sinθ、cosθを結びつけています。
また、実はπは角度も表し
π=180゜なのでsin180゜=0、cos180゜=−1 を使うと
eiπ=cosπ+isinπ=cos180゜+isin180゜=−1+i×0=−1
つまり
eiπ=−1
または
eiπ+1=0
この式の方をオイラーの公式と言う場合もあります。
虚数i と超越数eとπ、それにもっとも基本的な数 1 が一つの式にコンパクトにまとまっている。ここに美しさを感じるのは、数学関係者だけでしょうか。
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