ヘンゼルとグレテル〜ラストエスケープ〜
あるところにヘンゼルとそのお父さんとでとても幸せに暮らしている一つの家庭がありました。
ヘンゼルには妹がいますが、今は少年院にいます。ときおり少年院から苦情の電話が来ます。
「あんたの娘さん、また逃げようとしたんだよ。これで3214回目だよ。」ってね。
父はいつもぺこぺこぺこぺこ謝っていました。
ヘンゼルはその姿を見て、時折嫌になってきますが、グレテルが家にいるよりはましなので我慢していました。
そんなある日「トゥルルルー、トゥルルー。」電話が来ました。
どうせまた、少年院のおっさんからでしょう。「はい、もしもし今野ですけど」受話器を取ったのはヘンゼルでした。
受話器の向こうからは、聞き覚えのあるおばあさんの声が聞こえてきます。
「お前はヘンゼルか?だったらグレテルに伝えとけ。お前を地獄のどん底に落っことしてやるってなぁ。はははは・カチャツ−ツー」
ヘンゼルはこの声の主が誰だかどうしても思い出せません。
しばらく考えていましたが、まだ塾の宿題をしていなかったので、この事を考えるのは止めにしました。
次の日、朝早くから、家の戸をノックする音が聞こえてきました。「ドンドンドンドン!」「開けろー!開けねぇとこの家燃やしちまうぞ。」グレテルの声でした。
ヘンゼルは開けたくありませんでしたが、家を燃やされてしまうのはさすがに困るので、開けてあげることにしました。
「ガチャ。」「ダダダダダダ!」開けたとたん間髪を入れずにグレテルが家に転がり込み、押入に入りました。
少年院に行っていたはずなのに。しかも前よりもみてくれが悪くなっていました。
「グレテル!お前もしかして逃げてきたのか?」
「そ、そんなわけねぇだろ。兄貴。俺はワリィ事もうしねぇから、年少から出てって良いってじじいに言われたんだ。」
するとドアの方からさっきとはうって変わる強さで戸をたたく音が聞こえてきました。
「コンコン。」「グレテルさんいらっしゃいますか?」少年院のおっさんの声がする。
「兄貴!俺がここにいること、じじいに言うなよ。」小声でグレテルが言う。
「だってお前はもう少年院からでて良いって言われたんだろ?」
「でも言うんじゃねぇ。言ったら兄貴恐ろしい目にあわせてやるぞ。」
「分かった。」ヘンゼルからものすごい殺気が感じられたので、グレテルがいることを言うのはよそうと思いました。
ヘンゼルがドアを開けると、そこには少年院のおっさんがいました。
「グレテルさんいるでしょう?」
「いいえ、ここにはいませんが。」
「そうか。じゃあ、また競馬にでも行っているのかな。中山競馬場あたりかな。ご協力ありがとうございました。失礼しました。」
少年院のおっさんは困った顔して去っていきました。
ヘンゼルは少し罪悪感を感じました。
「ありがとうよ。兄貴助かったぜ!」
グレテルは、安心したような顔をしていました。
その時ヘンゼルは昨日の電話のことを思い出しました。
「グレテル。お前に電話がきてたよ。」
「へ、どんな?」
ヘンゼルは内容を伝えました。
「きっとそいつは俺の奴隷の魔女だぜ。俺が年少から逃げるより先に務所から出たって噂だったからな。」
やっぱりお前は逃げてきたんかい!とヘンゼルは突っ込もうとしたけれど止めました。
「で、グレテル。お前どうするんだい?お前のところにやってきて、すごい事されそうだぞ。」
「決まってんじゃねぇか。飼うんだよ。」
「飼うって、お前…」
「心配すんな、えさは人間と同じで良いそうだ。」
「そういう意味じゃなくて、」
「しつけもちゃんとすっからよぉ。いいだろ?」
ヘンゼルはグレテルには何を言っても無駄そうだったので「別にいいけど。」と答えました。
グレテルはとてもうれしそうでした。
しかしその笑みからは何かを企んでいるような様子がうかがえました。
さてあれから二週間が経ちました。
相変わらず今日も少年院のおっさんから「グレテルさん帰ってきてませんか?」の電話が来る。
ヘンゼルは決まって、「いいえ、連絡も何も来ません。まだ少年院に帰ってこないのですか?」と答えるのでした。
さてヘンゼルは気がかりなことがありました。
魔女から電話があってかなりの日が経っているというのに、魔女はいっこうに姿を現さないからです。
ヘンゼルはグレテルに聞いてみることにしました。
「おいグレテル!」グレテルの部屋の前でグレテルを呼ぶ。
中からは何かを隠すような物音が聞こえてきました。
ヘンゼルはグレテルから返事がないので、入ってしまうことにしました。
中にはいるとグレテルは、少し動揺しながらヘンゼルをにらんで言いました。
「なんだよ。兄貴、今日はまだなにもやってねぇぞ。」ヘンゼルは少しあきれましたが、本題を思い出し、聞くことにしました。
「魔女ってまだ姿を現さないのか?」
「兄貴、いったい何言いだすんだよ。まるで俺が魔女を捕まえたのを知ってるかのように。」
「へ?」ヘンゼルは、少し頭の整理を仕始めました。
「グレテルは今、“まるで俺が魔女を捕まえたのを知ってるかのように”って言ったよな。グレテルは魔女をもう手の内に納めているんだ。そしてそれを隠そうとしてぼろを出したって訳だ。」
ぶつぶつヘンゼルが声を出しながら考えていると、グレテルは自分は間違った答えを出してしまったことに気がつきました。
(バレちまった)今のグレテルは、この気持ちで頭の中がいっぱいでした。
そしていいわけを考える事にしました。
(“兄貴、この部屋の押入に魔女なんかいねぇよ。”いやこれはいけねぇ“俺は魔女を捕まえたって言っただけで、魔女をまだ飼っている訳じゃねぇんだぞ。”これもおかしい。つーか、兄貴の質問ってなんだったけ?あぁ、忘れちまった。これじゃあ、うかつに言葉を出せねぇ。)
長い沈黙が訪れました。
十分後、口を開いたのはヘンゼルでした。
「グレテル、お前もう魔女を捕まえたんだな?」
「んなわけねぇだろ、いねぇったらいねぇんだよ。」
グレテルは強情に言い張りました。と、その時、押入の戸が開き中から魔女が現れました。
「お前達、私をなめているのか?いつまでも押入なんかに閉じこめられちゃ、たまんないんだよ!」
怒りにに満ちあふれた魔女が現れました。
「テメェ、俺が手も足も口も目も耳も固結びで締てやったのにどうやって逃げ出したんだ?」グレテルが魔女に尋ねました。
「こう見えても、魔女なんでね。あのくらいどうってことないのさ。だけどクロロホルムで眠らされたのはさすがにきつかったな。」魔女は薄笑いを浮かべて言う。
グレテルは今にも爆発しそうな雰囲気だった…というか爆発した。
魔女に飛びついたのだ。そして魔女のみぞおちを狙って、パンチ、パンチ、パンチの連続!
しかしその魔女は残像で、本物はグレテルの後ろに回り込み、魔法を放とうとしていました。
「グレテル!魔女は後ろだ。」ヘンゼルは叫びました。
「遅いよ。」魔女はそう言い、炎を放ちました。
「ちくしょうーー」グレテルはヘンゼルの前で倒れました。
「グレテル!」ヘンゼルはグレテルまで駆け寄りました。
「脈は…まだある。良かった。」
その姿を見て魔女が言う。
「当たり前だろ、私はちゃんと調整して死なない程度にしたんだからな。」
そして、グレテルを連れて魔女はどこかに消えてゆきました。ヘンゼルはそのまま呆然と立ちつくしました。
「グレテル…このまま帰ってくるなよ。」
あれから十年後 ヘンゼルは二十歳になり、今は東京大学に通っています。
グレテルは全く姿を現さず、行方不明のままでした。
今の政治の実権を握っているのはグレテルのような人でした。
その人は魔女を利用し、好き放題していました。
グレテルのような人いや、グレテルはたとえば消費税は100%にし、日本の「国民主権」は「グレテル主権」にしました。
もうどうにもなりません。
ヘンゼルはもう呆れてものもいえません。
July.15 雨 ヘンゼルはいつも通り朝ご飯のトーストにマーガレットジャムをつけ、紅茶を用意し、食べる。
この国はもうだめそうです。
ヘンゼルは今できることを、出来るだけやろうと考え今を生きています。
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