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幼なじみのケンちゃんは怒っていた。いつもは温厚なケンちゃんが、見た目からして怒りのオーラを発していた。 それというのも今日、私を置いてサッカー部のマネージャーと一緒に帰ろうとしたりするもんだから、 勝手にケンちゃんを連れて帰ろうとする長谷川今日子に、つい、 「勝手にケンちゃん連れていかないでくれる?」 と慌てて追い掛けて引きとめたのだ。ケンちゃんは驚いた顔をしていた。長谷川今日子はもっと驚いていた。 ケ「おい」 長「え・・?」 私「ケンちゃんは私と帰る約束をしてるの」 ケ「そんな約束してないだろ」 私「いつも一緒に帰ってるじゃない」 ケ「それはいつもお前が付いてくるだけだろ」 私「なによ!あんたなんかこのO脚!O脚女!」 長「!!!」 私は長谷川今日子がO脚なのを極度に気にしていた事を知っていたのでピンポイントで攻撃したのだ。 思いの通り長谷川今日子は怒って他の女友達と帰ってしまった。 結局僕は、いつものようにまりっぺと帰る事になってしまった。最悪だ、僕から誘ったのに。 長谷川さんはすごくO脚を気にしているのに。僕は長谷川さんのO脚はチャーミングだと思うけど、 やっぱり本人が気にしてる事を言うのはいけないことだろ。 明日長谷川さんにどんな顔をして会えばいいんだ。許さない、許さないぞまりっぺ。 「ごめんね、ケンちゃん」 「絶対許さない」 「ごめんね、ごめんね、」 僕は基本的にまりっぺに弱い、ちょくちょくケンカはするけど、まりっぺがどんなに悪くても、まりっぺが 謝ると実は半分くらいは許してしまっている。でも、今回だけは粘ろうと心に決めたのだ。 「・・・・」 「だから謝ってるんじゃない、こんなに謝ってる人間にこれ以上怒ったって仕方ないでしょ」 「なんていう態度なんだ・・!」 「ケンちゃん」 「なんだよ」 「手つないでもいい?」 ぜ、全然反省してない・・・! 「ダメ」 「10分だけ、」 「ダメ」 「1分!」 「ダメ」 「じゃあもう10秒、10秒でいいから」 「ダメったらダメ」 「ケチ!」 「ケチだよ」 なんでもかんでもまりっぺの思う通りにはいかないんだ。 まりっぺは黙って俯いてしまった。これは傷ついてるんじゃない、かなり腹を立てているのだ。 それは長年の付き合いで知っている。なんてことだ・・!立場が違うだろまりっぺ。反省しろまりっぺ! はっきり言って少し怖いけど、僕だってまだ怒っているのだ。そして言うべきだと思った。 「おれ、長谷川さんの事が好きだから」 まりっぺが立ち止まる。 まりっぺの動きが止まる。 まりっぺの呼吸が震えた。 そして次の瞬間、 「うえ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん」 まりっぺは空を仰いで大声で泣き出した。僕は慌てた。なんで泣くんだ。僕はどうすればいいんだよ。 ずるい、ずるいぞまりっぺ。なんてずるいんだ! 「な、泣くなよ!」 僕がおろおろしているのなんておかまいなしに泣き続けるまりっぺはずっと立ち止まっている。 目立って仕方がない。そしてまりっぺは泣き続ける。泣くなよって言ったのに泣き続けている。 あまりにも豪快に泣くので、僕はまりっぺの頭をよしよしと撫でた。すると少しだけ 泣き止んだので、もっとよしよしと撫でた。 ケンちゃんがとりあえずそこの公園で座ろうよ、と言うので、ベンチに座ってしばらくすると、 ケンちゃんが缶コーヒーを買ってきてくれた。その頃にはすっかり私の涙は止んでいたけど、 まだ少し鼻水が出ていた。でもケンちゃんから缶コーヒーを手渡された時、その暖かさに また涙が出そうになった。もうやだ。 「長谷川さんのどこがいいの?」 隣に座ったケンちゃんに問いかけると、ケンちゃんはため息をついてから、キッパリと言った。 「顔」 「ケンちゃん面食いだもんね・・・」 「長谷川さんのいいところは他にもあるよ、すごくO脚なところとか・・・・」 「・・・・・・・・・」 「すごくプライドが高いところとか、笑うと八重歯が見えるところとか、関節を鳴らすとすごい音が出るところとか、 考え事をすると貧乏揺すりする癖があるとことか、山崎まさよしよりスガシカオの方が好きなところとか・・・・ 俺は山崎まさよしの方が好きだけど・・・」 「・・・・・もういいよ」 缶コーヒーはすっかり冷めてしまった。まだ半分以上ある。 すっかり日が暮れて、また二人で帰路を歩いていると、空にきらめくものが横切った。 「「あ!」」 流れ星だ。流れ星なんて、幼稚園の時に見て以来だね、と楽しそうにまりっぺが言った。 あれは一昨年、サッカー部のやつらと、獅子座流星群を見に行こうと夜に集まった時に(その日まりっぺは 熱を出して学校を休み、外出を親に止められてたので誘わなかった)、夜空に降り注ぐ 流れ星の雨を見た。その時に、マネージャーの長谷川さんも居たので、言わないでおこう。 「ちゃんとお願い事した?」 まりっぺが言う。 「したよ」 「なんて?」 「『長谷川さんと付き合えますように』・・・痛っ!!」 まりっぺはグーで僕を殴った。手加減もなく、すごく痛かった。 「まりっぺはなんて願ったんだよ」 「『早く世界が終わりますように』」 「・・・・・・」 「うそだよ!」 そして僕達は他愛のない言い合いをして、でもすごく楽しくて、最後には何故か二人で大笑いをした。 するとどこかの家から夕飯の匂いがしてきて、二人同時にお腹が鳴って、また二人で笑った。 「今日の夕飯なにかな」 僕が言うとまりっぺが答えた。 「スパゲティーだといいなあ」 ケンちゃんは言った。 「おでんだといいなあ」 まりっぺは願った。 「スパゲティーでありますように!」 ケンちゃんは願った。 「おでんでありますように!」 世界が平和でありますように!・・・・・・☆ ・おわり・
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