5月の津波

第2章   始まり

「おう・・・、久しぶりやな、高森サン。」
すこしためらいながら俺は言った。
他人に、ユウちゃん、何て呼ばれたのは幼稚園以来だからだ。
「なんや、高森サン、やなんて水臭い。前みたいにユイちゃん、でいいよ。」
微笑みながら高森さんが言う。
「おいおい、そんな幼稚園の時の呼び方なんてやめてくれよ。恥ずかしい。」
「そう?恥ずかしい?」
不思議そうに首をかしげながらふざけた事を言う。
幼稚園時代から変わってないな・・・。
「ふぅ・・・。」
少し俺の口から、ため息がこぼれた。
「久しぶりやな、ユイちゃん。」
多分顔は自然だっただろう。
不思議と緊張も恥ずかしさも無かった。
「うん!」
ユイの顔がめいっぱい笑ってこっちを見ていた。
話しているうちに、ユイは俺と学校が同じだった事を知っていて、
なんどか話しかけようとしていたらしいが、
どうも、見かけたときは、いつも俺の周りに男子がいて、
話しかけにくかったらしい。
「昨日ね!寝る前にお願いしたの!
ユウちゃんとクラスが一緒になりますように、って。」
子供っぽい事してるな。ホントに幼稚園時代から変わってない。
「ホント?嬉しいな。
でもさ・・・やっぱユウちゃんはやめてくれる?
普通にユウジって呼んでくれたらええでさ。」
「・・・わかった。じゃぁ私の事はユイって呼んでくれるの?ユウジ?」
わざとユウジを強調して言ったな・・・。
「いいよ、ユイ。」
俺もなんとなくユイを強調してみた。
二人がにこっと笑った。
その日の帰り道、9年ぶりにユイと一緒に家に帰った。
「久しぶりやな、こうやって二人で歩くの。」
ユイが言った。
「あぁ、そうやな、幼稚園の時以来や。」
この後はほとんど会話の無いまま家へ帰って行った。
次の日。
「おう、ユウジ!なんやおまえ?
昨日俺の知らん女子と一緒に帰っとったやん? 誰?関係は?」
友達で1年のときもクラスが一緒だった北川コウジがいきなり聞いてきた。
「?あぁ高森ユイって子や。幼稚園が一緒でさ、久し振りに会ってな、
家も近いし、一緒に帰ろかってことになって・・・。
いわゆる幼なじみってやつや。」
「ほう・・・。で?特別な関係なのか?川原サンはどうなるんだ?」
川原・・・。川原キョウコ。一応俺の好きな人の名前だ。
「別に・・・。ただの幼なじみやで。」
「ほう・・・・・。」
「なんやその変なもん見る目は?」
「別に〜。ユウジが浮気してんのかなぁ〜、って思っただけ。」
「浮気ってお前。意味違わんか?」
「そうか?じゃぁ二股や。」
「それも違う気がするんやけど・・・・。」
「まぁええやんか。」
いいのか・・・・?
「まぁ、そうか・・・・。」
一緒に帰るって特別な関係に見えるのかな・・・・?
ユイにはそんな感覚あるんだろうか?
自分で考えても当然答えは出てこない。
内心、ユイに直接聞いてみたいと思った。
でも聞くに聞けない質問でもある。
これを聞いたら、ユイが俺のことをどう思っているかを
聞いているのに等しいからだ。
その日の帰りもユイと一緒だった。
俺はボーっとユイを見ていた。
それに気付いたユイが、
「ユウジ?どうしたん?ボーっとして?」
ユイに言われて、ハッとわれに返った。
「い、いや・・・、別に、なんでもない。」
「そう?」
「あ、あぁ。なんでもない、なんでもない・・・。」
焦りながらなんとかごまかした。
いや、ごまかした気がしていただけで、
ごまかしきれていないと後で思った。
「あやしいな・・・。何を考えてるんだ!白状しろ!」
ユイが笑いながら言った。
やっぱりごまかしきれてないな・・・。
聞こうかな・・・。
「あのさぁ・・・ユイ・・・。」
「ん?なに?」
ここから先が出てこない、
俺の悪いくせだ。
「いや・・・、いい。」
「なにそれ!さっさと白状しなさいよぉ!」
ここでちょっと、いい考えが浮かんだ。
「聞いてみよか・・・。」
ボソッと言ってみた。
「え?なんて?」
「いや、友達とさぁ、賭けで負けて、
ある人に告白をせなあかんようになったんやんか・・・。
それをちょっとユイに相談しよと思っただけ。」
当然嘘である。
「へぇ・・・・。で?どんな相談?」
「いや、もうええわ、なんとか自分でする。」
我ながら名演技!
「なにそれ?そこまで言っといて?
せめて誰に告白するかぐらい聞かしてよ。
これでも私結構そういうの詳しいんやで!」
その言葉を待ってました!
誰に告白するか。
これを聞いて欲しかったんだ。
ここまで上手くいくと夢かどうかと、頬をつねりたくなってくる。
「・・・。もしさ、ユイに告白するって言ったらどうする?」
「えっ?」


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