倉庫 〜旧はにまに期〜

『麻薬』 『音色』 『voice』 『桃源郷』 『堕天使』 『糸張』 『記憶回路』

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   『麻薬』

最初は、ほんのはずみだったんです。
遊びでやるつもりじゃなかったですよ。
だってくれるっていうんだもん。
それが麻薬だって知らなくって。
ちょっと味見してみる?って聞くんだもん。

それから何度かあの子に会ったけど、麻薬はくれなかった。
でもある日、ついに言っちゃったんだ。
「僕に麻薬をください」
彼女は微笑んで麻薬をくれた。
いっぱい、いっぱいくれた。
僕はその場でそれを吸い付くして、
彼女と二人で吸い付くして、
二人で心地よくなった。
幸せだった。 天国だった。
彼女は言った。
「天国なんかじゃない。地獄なのよ。」
だけど僕には、やっぱり天国にしか見えない。

どんどんエスカレートしていく。
足りないよ。 もっとちょうだいよ。
彼女はにっこり微笑むだけ。
僕は彼女のポケットからこっそり麻薬を取り出して飲んだ。
彼女はにっこり微笑むだけ。
でも僕が麻薬を欲しがらなくなると、
すねた子犬のような目でこう言うんだ。
「もういらないの?」
僕はにっこり微笑んでキスをして、
それから家へと歩き始めた。
彼女は僕が見えなくなるまでずっとずっと微笑んで立っていた。
今度はいつまで我慢できるかな。
どこまで制御できるかな。

『音色』


耳をすませてください
どんな音が聞こえますか

小鳥のさえずり 風のざわめき 川のせせらぎ 雨の音
人々の声 工事の騒音 学校のチャイム 信号音

星の瞬く音 月の歌 雲の流れる音 太陽の声
 花のおしゃべり アスファルトの悲鳴 校舎の歌声 機械の泣き声 

さあ 一緒に聞きましょう
じっと ずっと 私達を呼んでいる声を

そして 気付いて下さい
そっと 聞いて下さい
私の心の中にある 私の音色と 私のノイズ



『voice』

頭の中
誰かの声が降ってくる

ぼくはそれを丁寧に抱きとめる

落とすとね
卵みたいに割れちゃうんだ


体の中
誰かの声が転がる

ぼくはそれを丁寧に抱き上げる

そっと そっと
小さな命が壊れてしまわないように

でも、ダメなんだ
受け止めるだけじゃ

だってほら
  抱き締めると小さな命が目を覚ます
可愛い雛が生まれるから


『桃源郷』



君は僕らに何を望んでいるんだい?
ここにあるのは、平和と平穏、それと安息だ。

君はここに何を望んでいるんだい?
僕らが持っているのは、平和と平穏、それと安息だ。


絶望もない 空虚もない 苦痛もない
希望もない 挑戦もない 変化もない


君は僕らに何を望んでいたんだい?
ここにあったのは、平和と平穏、それと安息だ。

君はここに何を望んでいたんだい?
僕らが待っていたのは、平和と平穏、それと安息だけ。 

君は僕らに背を向けて



僕らは何を望んでいるんだろう?
僕らは何を待っているんだろう?
ここにあるのは、平和と平穏、それから


『堕天使』



堕ちていく 堕ちていく
  見えない地の果てへ 見えない空の果てへ

堕ちていく 堕ちていく
少女はただ目を瞑り 堕ちていく体を感じる


堕ちていく 堕ちていく
必死に目を開き 声を出して叫ぶ


助けて!


口から出たのは声ではなく
満面の笑み 微笑み 天使のような 

手が差し伸べられ引き上げられる
だが
少女は笑うのを止めた
手が腐敗した肉の塊となっていく


くずれ おちる

堕ちていく 少女は笑みを浮かべた

血の雨がしたたる 少女は堕ちていく


白いワンピースは血の赤に染まり
泥と腐敗した肉の茶色に染まり

少女は再び目を閉じる
いつからだろう いつまでだろう
少女は今年15歳を迎えた
バースディ・ケーキとロウソクの火
迫り来る 堕ちていく
堕ちていく 少女はただ髪をなびかせて



『糸張』



心の奥底で


       ぱちん


と       
音がした



急に体がふわりと浮いて

私だけ
   何処か
空の    




              遠くへ



ふわり     ふわり



窓の向こう側





 私をじっと見つめているカラス 


『記憶回路』


いつからかそこに居て
いつからか消えていた

あの夏に戻れない

あの時間に戻れない



前に進んでいくだけの私達に
時の女神だけがいたづらに微笑む
あなただけよと呟く声
聞き慣れた車のエンジン
機械的な音 音

無音だけが街を支配するように
両手で耳を潰した

そこにいるのはだれ?

感覚だけが私の中にある

 

まって!
待っ て

散っていく
波が

信号機の赤や緑が目に痛い
ネオンが網膜の奥を焦がす
人並み 空 ビル

なにもない

なにもない


血まみれの目玉が淋しくこぼれ落ち
地面に最後の涙を流す







心臓の鼓動が煩い
肩に触れるやわらかいもの
肩に触れてびくっと退いたもの
足にかかる体の重み
腕にかかる遠心力

ビルやアスファルトの冷たい感覚が
私の体を緊張の糸で切り刻む
溶かす

登る 登る
登っていくカラダ
いつか飛び下りる為に

登る 登る
登っていくカラダ
いつか飛び下りる為に





感覚すら
                  もう

モウ