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とある街に小さな菓子売りの店がありました。 シャルル・グラディエという若い男が開き始めたこの店は、いまやこの街でとても人気がありました。 シャルルの作り出すビスキュイ・タルト・パイやムース達は人々の心を幸せで満たしました。 ・・・でも・・・。 ただ一つ、ショコラだけはどうしても、ムース達の影にかくれていつも残っていたのでした。 夜になり、人が見えなくなるとお菓子達は人の姿になり始めます。 シャルルの心が詰まったお菓子達は妖精になる力があるのです。 おしゃべりが大好きな妖精達は毎晩同じ話をしていました――シャルルのことです 栗色の長い髪、そしてその色と似た瞳・・・。 一人ぼっちのショコラも、シャルルが大好きでした。 「今日摘みたての苺を使って作ってもらったのよ!甘い、良い香り…! きっと私のことが一番好きなのよ」 苺のムースが自慢します。 「あら、今日は私もチョコレートをかけてもらったのよ!ショコラの分が、なくなるんじゃなくて?」 チョコレート色の髪飾りをつけたビスキュイが言いました。 するとそこにいるオランジェットやダグクーズ、ラズベリーパイ・・・ みんなが哂います。 みんなが寝静まったころ・・・。 ショコラはまだ人の姿のままでした。 「どうして私は取り残されてしまうの・・・?」 涙を流して、悲しみにあけくれていると・・・。 「誰だい?こんな時間に・・・。」 目をこすりながらシャルルが目の前に・・・! 「あっ・・・」 「ずっと店が閉まってからここに居たのか?」 ショコラは何も言えませんでした。 「仕方ないなぁ、名前は?」 「・・・ショコラ」 ショコラは少しおどろいた顔をしてからにっこり微笑みました。 「そうか。うちのショコラは、食べたことがあるかい?」 ショコラは黙ってうなずきました。 「僕は作ってるお菓子の中では一番おいしいと思うんだ。お菓子の中の宝石だ」 スッと顔を上げたショコラを、シャルルは見つめました。 「ショコラは・・・ショコラの香りがするんだね・・・」 シャルルの鼻先がショコラの頬に触れます。 ショコラは少しうっとりとして、シャルルの頬に指先を添えました。 「ショコラ・・・」 唇と唇がそっと触れ合った瞬間――。 次の日からショコラは他の何よりも売れるようになりました。 しかし、もうショコラの姿はこの世で見えなくなってしまいました。 けれど、シャルルとショコラの間は見えない力で結ばれておりました。 小さなショコラとシャルルの愛で、街の人々の心は温かくなったということです |