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ゴジラ〜恐怖を統べる者〜
作:ぎどらまん

第五章

その『音』が大島の大地を揺るがしたとき、島津率いる第一特殊車両連隊は、積荷を揚陸艦から下ろし、出撃準備に取り掛かっているころであった。
「!」
『音』にもっともすばやく反応したのはいうまでもなく、島津であった。
「ついに・・・来たか。このときが。」
島津のこの呟きも、三原山の大噴火による爆音によって掻き消され誰も聞くことはできなかった。
「隊長!」
大野と吉田が島津のほうへと走り寄って来た。
「大野、吉田。攻撃用意だ。92式メーサー戦車を前方へ、99式高速メーサー車部隊の隊長を俺のところへ呼べ!」
「了解!」

三原山の上空は、真っ赤に染まっていた。
それはこれから始まる惨劇の予兆である血の壁のようであり、また、地表を紅蓮地獄に変えんとする『奴』の意思表示のようであった。
真っ赤なマグマを噴出している火口が、一瞬青白く染まった。
瞬間、さらに大きな爆発が火口を崩し、無数に飛び出すプラズマの中から、『奴』は現れた。
黒くごつごつとした表皮に覆われた肢体、鋭い歯が整然と並ぶ口は大きく裂け、瞳のない目は血走り、背中には何者をも圧せんとしているかのように鈍い銀色に光る巨大な背鰭がそびえている。
手足共に筋骨たくましく、その指先には鉄板をも容易に切り裂けそうな鋭利な爪が生えていた。
20年前、三原山の火口に姿を消した魔神・ゴジラが、ここに復活を遂げたのである。

「グゥガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァゥゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオゥゥゥンン!!!」

噴火の爆音の中に、不快な重低音が響き渡った。人類が20年ぶりに耳にする、ゴジラの咆哮である。

「フフフ...これが『ゴジラ』か。」
レドリシアは、三原山の火口から悠然と姿をあらわす黒い巨体を眺めながら、呟いた。
「成る程、『浄化』の先鋒を務めるにはもってこいだな...」
レドリシアは満足そうに呟くと、右手をあげ、ゆっくりと広げた。
手の中には、赤黒い色をした『球』が3つ入っていた。
「さあ、時は来た。この者どもが、存分に働けるよう、十二分に暴れ狂うのだ」
ゴジラが、歩き出した。
その歩みは大地を震わせるに十分である。
一歩一歩、まるで大地にその怨念を染み込ませるように踏みしめ、踏みしめ、前進する。
一歩を踏み出すたびに地面に巨大な窪みができた。
もはやそれは『足跡』と呼べるほどの大きさではなかった。
島津は、モニターを凝視していた。
彼がいるのは特殊車両連隊戦闘指揮車。部隊の最後方に待機している。
その前方には、パラボラ式メーサー砲を供えた92式メーサー戦車部隊が20両、左翼、右翼に分かれて布陣していた。
左翼は大野、右翼は吉田が指揮している。みな一様に、緊張のため顔が強張っていた。
「目標、動き出しました。」
通信兵が、島津に伝える。
「全車安全装置解除。目視圏に入り次第、攻撃開始だ」
島津の命令一下、戦闘態勢が整えられ始めた。ゴジラが出現すると見られる方向に向け、一斉にメーサー砲が向けられる。そして、時を待った。
足音が、だんだんと大きくなっていく。
それに併せて、地面のゆれも激しくなっていった。

そして

「グゥガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァゥゥゥンンン!!!」
咆哮と同時に、ゴジラが山の陰から姿を現した。
大きい。80メートルの巨体は、彼を迎え撃たんと身構える人間たちを恐怖させるのに、十分な効果があった。
「何をしている!撃て!」
一瞬沈黙した兵たちを、島津が叱咤する。
やらねばやられる。それだけを考えていた。
島津の怒号に兵たちは我に帰った。
慌てて照準を定め、発射スイッチを押す。途端にパラボラ形の砲身から、青い雷のような光線が放たれた。
真っ赤な炎がゴジラの体をぱっと包み、同時に大きな爆発音があたりを支配する。
「ギャアアアアアアアアアアアゥゥンン!!!」
ゴジラは短く叫んだ。が、これぐらいでは傷ひとつつけられない。むしろその怒りを倍化させるだけであった。
前方に展開するメーサー戦車部隊を激しくにらみつけ、踏み潰そうと、その巨大な足を振り上げる。
が、そのとき、ゴジラの背後を衝撃が襲った。
「グゥガアアアアアアアアアアアアアアァァァゥゥゥンン!!!」
驚いたように咆哮したゴジラは、そのまま目を後方へ転じた。
99式高速メーサー車15台の姿があった。装備しているメーサー砲は小型で威力はやや低めだが、ホバー走行のため機敏な動きを可能としている。
今回もその敏捷性を駆使して、ゴジラの背後に回り、主力部隊と挟み撃ちにするという役目を担っていた。
「第2射、撃て!」
99式高速メーサー車部隊隊長.赤星の凛とした声が響くと同時に、車両両側面についている小型メーサー砲がいっせいに火を噴いた。
青い光線が、次々にゴジラを襲った。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアゥゥゥンン!!!」
ゴジラの全身が、真黒な爆煙に包まれていく。
その太く、長く、かつしなやかな尾を俊敏に振り回し、必死にメーサー光線を払おうとするが、前後挟み撃ちにされてしまっては敵わない。
隊員たちも必死である。
一瞬でもゴジラに反撃の機会を与えてしまったら、それはすなわち自分たちの敗北を意味する。
普通の戦争とは違い、敗北は敗走などではなく、即、死を意味するのだ。
メーサーを放つその姿は、みな一様に鬼気迫るものがあった。
ついにゴジラの体は炎と、煙の中に消えてしまった。
「撃ち方、やめ」
島津がゆっくりと命ずる。あたりは静寂を取り戻した。
「油断はするな。煙が晴れるまで、様子を見ろ。」
島津はそういったが、内心は感慨でいっぱいであった。
仇を討った、と、空に向かって叫びたいような気持ちであった。
島津でさえそうなのだから、普通の隊員が勝利を確信したのは当然のことであった。
先ほどまで彼らを恐怖のどん底へ叩き落していた、ゴジラのあの何とも不快で不気味な咆哮が、
いまやまったく聞こえないのである。煙が晴れたら、その勝利を祝おうと、準備をしている者もいるほどであった。
だが彼らは気づいていない。
その黒い煙の奥に、まぶしく光る青白い輝きがあった事を...


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