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| ゴジラ〜恐怖を統べる者〜 |
| 作:ぎどらまん |
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第八章 島津は,ただ呆然と座っていた。 表情は,無い。 ただ死んで様に虚ろな目をして,遠くを見ているばかりである。 そんな島津を,部下の隊員たちは心配そうに見ている。 「大丈夫かしら,隊長...」 吉田が心配そうに呟いた。その大きく,黒く澄んだ目は,一点に島津を見つめている。 「ま,気持ちはわかるけどな...」 隣に立っている大野が,そのがっしりとした腕を組んで呟いた。 島津の頭の中は,虚無感に支配されていた。 今までゴジラによって殺されてきた,幾多の仲間,部下の仇を取りたかった。 しかし,それは今出撃してくれる部隊が取って来てくれるはずである。 今,島津を支配している虚無感は,もっと強い気持ちからきているものだった。 (杏子の仇を取れるのは,俺しかいない。) 確かにこの気持ちは,集団行動を重視する自衛隊にいるものとして,有るまじき事なのかも知れない。 しかし,島津はこの気持ちを持ち続けることによって,この20年を生き続けてきたのである。 それが,一気に打ち砕かれたような心境であった。 一方,島津に待機を命じた張本人,北条は何をしていたかというと, 特戦自本部に設けられた『対ゴジラ殲滅作戦統合幕僚本部』に赴いていた。 今回の作戦は陸海空そして特戦自とすべての自衛隊の合同作戦であるため,その指揮は統合幕僚長の細川が行うのである。 「統合幕僚長」 北条が細川に声をかけた。 「うむ,北条幕僚長か。特戦自の出撃状況はどうだね?」 面長で皺(しわ)の深い顔を向け,細川は北条に尋ねた。 「すでに横浜港への部隊移動を終了しました。今陣を形成中です。」 「結構。今回の作戦は,自衛隊史上かつて無い規模で行われるものだ。 そそうがあってはならん。内閣に示しもつかぬからな。」 北条はその言葉を聞いて,顔をしかめた。今回の戦いはいわば戦争である。 レドリシアという男の兵器.ゴジラからの国防のため自衛隊が立ち上がったのだ,と北条は思っている。 それを細川はデモンストレーションぐらいとしか見ていないのではないか。 しかし,それでも北条は何も言わなかった。 今から重要な説得をしようと考えている。そのためには細川の機嫌を損ねるわけには行かないのだ。 「統合幕僚長...」 北条が,真剣な顔つきで話し掛けた。 「前にも行っただろう?ならん」 北条の言いたいことを察したのか,北条は穏やかに,しかし奥に怒りを含んだような声で、北条の言葉を制した。 「しかし...」 「一度失敗した兵器であろう?『あれ』は」 「問題は解決しました。それに,『あれ』が無いと,今回の戦いには勝てません」 北条は,三原山の戦いの結果報告を聞いて,通常兵器ではゴジラにはかなわないということを改めて認識していた。 それなのに今回の作戦に使われているのは,麻酔弾を除けば通常兵器ばかりである。 先ほどの会議では自信ありげに作戦内容を話したものの,それは兵の士気を揚げる為のもので, 実際は勝てる可能性は半分以下であろうとにらんでいた。 そのために,特殊戦略自衛隊の新兵器を投入しよう,と考えているのである。 「スーパーXも出撃させている。『あれ』を敢えて出す必要もあるまい。大体,それを動かせる人間がいるのかね」 「動かし方はスーパーXにオプションがついたようなものです。そのために,待機させている人間がいます。」 「...では聞くが,テストは行ったのか?」 「いえ,それはまだ...」 北条の顔が一瞬曇った。ここぞとばかりに,細川が身を乗り出す。 「先ほど君は,問題は解決した,といっていたようだが,それは理論上のことだろう? 実際に動かして、もし途中墜落など起こしてみろ。兵の士気が下がること必定だ。話にならんな。下がりたまえ。」 北条は眉間に皺を寄せ,まだ何か言いたそうであったが,細川がもう聞く態度でないことを悟ると,あきらめたようにその場を去っていった。 とある森。朝だというのに,この森の暗さは相当なものであった。 葉の群れが空を支配し,地表に光を漏らさないのである。 その闇の中を,一人の男が歩いていた。 暗闇の中を歩いているというのに真っ白なコートを着ているのだから,いやでも目立つ。 男は真っ赤な目で,黒い草原を眺めていたが,やがてその草の一つに手を伸ばし,何かを掴んだ。 そして、その男,レドリシア=ガルドの手のひらには,一匹の小さな螳螂(カマキリ)の姿があった。 「これぐらいが,ちょうど良かろう。」 レドリシアはそう呟くと,ポケットから赤黒い色をした球体を取り出した。 そして,近くの岩にその球体を叩きつけて穴をあけると,螳螂をその中に放り込んだ。 瞬間,球体はその中からまばゆいばかりの光を放ち始めた。 まるで小さな太陽が地表に降りたかのようである。 「ククク・・・さあ,神の下僕よ,貴様も浄化のための,よき『駒』となるが良い...さあ,現れよ,イクセシリオン!!」 レドリシアがそう叫んだと同時に球体は粉々に砕け散り,銀色のどろどろとした物体が現れた。 物体はグネグネとその姿を変え,そして体色が赤く染まったかと思うと。 「キエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!」 レドリシアの眼前に,巨大な怪獣がその姿をあらわした。 体は赤黒く,身長は70メートルほど。 身はざらざらとした外骨格に覆われている。 口はたてに大きく裂けていてさながら鰐の様であり,節のある前足の先は大きな鎌のような形になっている。 後ろ足は4対,いずれも節があり,細くはあるが見るからに強靭そうであった。 また後頭部には,後ろに寝そべるようにして,長い角が3本生えていた。 レドリシアは恍惚とした表情で,この怪獣―イクセシリオン―を見つめていた。 「さすがはパンドラだな...生物兵器をこうも簡単に創り出すとは。」 レドリシアはそういって口だけで微笑むとその場を去っていった。 イクセシリオンも,レドリシアを見送るように見つめていたが,やがて身を伏せ,地中へと姿を消していった。 |
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