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| ゴジラ〜人の創りしもの〜 |
| 作:ぎどらまん |
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第二章 2006年。旧台北市。 焼け野原となって1年が過ぎた台湾の首都を島津義雄は無言で歩いていた。 後ろから部下のカール=エーベルバッハがつづく。 「あれから1年か…」 放射能防護服でやや動きにくそうな歩きをしながら、島津がつぶやいた。 「ええ…この島が放射能に塗れたあの日から。まさか、いまだ居住不能の状態とは…」 エーベルバッハが沈痛な面持ちで答える。 島津は、炭化した木に触れた。1年前、紅蓮の炎が建物を、人を、動物たちを包み込み、文明が崩壊していった様が目に浮かぶ。 今彼が立つ静寂はまさに文字通り阿鼻叫喚の地獄の中から創出したものであった。 ―いつかの東京の様だな。 20数年前の東京に思いを馳せ、島津は眉間を険しくした。 ―ゴジラ。 2005年、8月12日。台風吹き荒れる東アジア・台湾を、傷を癒したゴジラが襲撃した。 台湾軍はその圧倒的な力の前に惨敗し、上陸したゴジラによって同島の都市は2週間にわたって徹底的に破壊しつくされた。 その炎は3ヶ月に渡りうねりを上げ、犠牲者は行方不明を含め120万人に上るという、人類史上類を見ない圧倒的な局地被害が生まれることになったのである。 結局台湾政府は島の統治権を長年対立してきた中国本土政府に明け渡し、見返りとして島民の保護を訴えた。 本土はこの要求を呑み、島民の救出活動に大きく尽力したが、ゴジラ討伐に出撃した中国軍は壊滅的打撃を受け敗退した。 このアジア最大の危機を救ったのが、特殊戦略自衛隊であった。 各国政府の要請を受けた日本政府は、アジア最大の危機に対し全会一致で特戦自の黄海派遣を決定、激戦の末、中国本土に迫るゴジラを、撃退とは行かずとも海底に追い返すことまでは成功した。 だが、それもファイヤーミラーとカドミウム弾を利用し、ゴジラの体内放射能量を減少させて疲れさせただけであり負傷させたなどのものではなかった。 「あの日から世界はゴジラによる国際的被害を恐れ、ついに国連軍を特戦自をもとに設立した。」 島津の心中を読み取ったのか、エーベルバッハが言う。 「ま、それに裏で反発している国もあるようだがな。」 「これまで『世界の警察』という立場を、暗黙のうちに世界に知らしめてきた国ですから。 国連軍に取って代わられるのがいやなのでしょう。国連軍が旧特戦自を中心に編成されている以上、国連内での日本の立場が高まるのは必然。これまでペットのように扱ってきた国が高まりを見せるというのも、内心では面白くないはずですよ。」 「アメリカか…しかし国連軍はあくまでゴジラを始めとする人類全体の危機となりうるべき存在の調査・排除を目的とする組織。アメリカの邪魔までは…」 「現状では、そうですがね。将来の敵となりえます。」 「そう政治的なことが絡まれると、俺の範疇外だな。」 島津はまた、無残な姿となって久しい木に目を向けた。 「そんなことで、やつに勝てるのか…」 島津の目に、若干の憂いが映った。 アメリカ・ニューヨーク郊外。 国連軍本部・及び特殊兵器連隊基地。 大野康隆と吉田美穂は共に基地内に設置されたスーパーに来ていた。 国連軍設立を機に、島津同様、彼らも国連軍に編入され、ニューヨーク基地へ配属されたのだが、大野は英語が全くと言っていいほど話せなかった。 そこで、買い物などがあるときはいつも吉田に付き添ってもらっているのである。 「もう、防衛大でやらされたでしょ?」 同期の吉田には、さすがにそのことを隠すことはできなかった。 しかし、顔を真っ赤にして頼み込む大野はいつものような剛毅さとは打って変わってかわいげを感じさせ、吉田も仕方なく承諾したのである。 これまで完全に仕事上の付き合いであった二人だが、こういった私生活でも共に行動することがあると大野はあることに気づいていた。 今日は目薬を探していた大野だが、どうしても見つけることができない。 吉田の提案で店員に訪ねることになった。 吉田に通訳を頼んだ大野だったが、まずは自分で会話しようと努めるよう、吉田は義務付けていた。 「いつまでも私に頼ろうなんて、甘いことは考えないでね。」 というのが言い分である。それもそうだと納得した大野も、吉田の言うとおりにしている。 しかし、なかなかうまくいかない。 今日は何とか店員に聞くまではできたのだが、彼の答えに対し大野はちんぷんかんぷんといった様子である。 「仕方ないわね、代わって。」 吉田が言い、大野がすごすごと後ろに下がる。 やはり意外とかわいいやつだと思ったのか吉田は気にしないでといった笑顔を大野に向けた。 これで何度目だろうか。 しかし、そんな笑顔を向けられるたびに大野はつい考えてしまうのである。 ―綺麗だな。 長いまつげに彩られ、輝く瞳を持った目が優しく半月状になり、真っ白な肌に際立つ、人よりやや大き目かと思われつつも、形の整った唇が緩む。 生真面目かつ冷静に仕事をこなす彼女は、こんなに優しい顔をしていたとは。 ともに仕事をしているだけではわからない一面が見え、大野はいつも一瞬うろたえてしまうのであった。 「あっちにあるってよ…どうしたの?」 「ぁ、いや、なんでもない。」 少し顔を赤らめ、大野は吉田の後についていった。 「ほぅ、ハードリー研究所の爆発事件について?」 平凡なコーヒーショップで、元FBI捜査官・マイケル=クルーソーはドーナッツを頬張りながら呟いた。 彼の前に座るのは、白いコートを羽織ったゲルマン系の顔立ちの男である。 男はサングラスを全くはずそうとしなかったり、また顔立ちはどう見てもゲルマン系にもかかわらず、オールバックにした髪が黒いなど不思議な点がいくつかあったが、マイケルは彼の質問に対し真摯に答えた。 新聞記者の肩書きは疑いようもなかったし、彼の提示した情報料は、年金生活を送る彼にとって久しぶりのたっぷり遊びに使うための金になりそうだった。 そもそも、彼が知る情報はあまりに少なかったからである。 「すまないな…後のことは何も知らないんだ。何せ、一晩調査しただけで、管轄をCIAに切り替えられてしまったからね。」 新聞記事の中身に花を添えられるような話をすることもできず、10分ほど質問に答えてからマイケルは言った。 「そうですか…」 記者を名乗る男が残念そうに呟く。 「力になれず、すまないな。」 若いんだから、まだまだ機会があるよ。 そういうニュアンスをこめてマイケルが言うと、男はにっこりと好意的な微笑を返した。 「ところで、君はどうしてこんな事件を調べようと思ったんだい。 いちじは確かにイスラム原理主義者の反抗かと騒がれたけれども、結局ただの事故として処理された事件じゃないか?」 現役時代からの癖で、マイケルはちょっとした疑問を詰問調にぶつけてみた。 「さぁ…上司の命令でして。」 男は、ちょっと困った顔をして、肩をすくめる。 「そうか、上司に困った仕事を押し付けられるのは、どの職も同じだな。」 マイケルも同情の苦笑を浮かべる。 「個人的にもちょっと気になりますからね。事故にしても、こんなに激しい爆発で全員死亡するなんて…」 「正確には、一人行方不明者がいるがな。」 「え?」 男の声が少し低くなった。マイケルも気づいたが、特に気にせず続ける。 「確か・・・リョウコ=キミサワとか言ったかな。日系二世だよ。」 「ほう、知りませんでしたな。」 「少しは参考になったようだな。うれしいよ。」 少し考え込むような姿勢に入った男に対し、マイケルは邪魔になりそうだと思い、その場を離れることにした。 「それでは。」 立ち上がったマイケルに対し、男が別れを述べ、店を出て行く背中を見送る。 そのサングラスの下には赤い瞳が二つ、静かな光を帯びていた。 |
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