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ゴジラ〜人の創りしもの〜
作:ぎどらまん

第三章 

2006年4月3日。アメリカ合衆国・ワシントンDC
ミラ=スティングスは、CIA本部へと向かう車の後部座席から、街路を彩る桜並木を眺めていた。
「どう、見ているのかしらね。」
「は…」
切れ長の目の視線を並木に這わせながらふとつぶやくと、運転を担当しているローランド=ジョイが、いかにも彼らしくまじめに問い返してきた。
「サクラよ。かつて、日本がこの国に贈った花。
その後の大戦以来、あんなに従順な国だったのに…あの国の象徴のこの花を、おえらさん方はどう見ているのかしら。」
「国連軍の形成以来、ギクシャクしてきましたからね。あの国との関係も。」
「当然よ。たとえ相手が巨大トカゲであろうと、軍事行動においてアメリカが中心でないことがあってはならないわ。
世界の警察として、国連を世界最強のわが国が一元的にリードしていかなければ、第三次世界大戦の端緒もなりかねない。」
「しかし、私はいささか大げさのような気がしますね。」
「いいえ、国連軍の中心はゴジラによる被害著しい日本を始めとした中国、韓国などの東アジア諸国。これで前大戦以来の東アジアの微妙な関係が清算されるようなことがあったら…」
「わが国の中東介入に批判的なフランスやドイツも国連軍内で活発に活動していますしね。」
「…まあ、それに関しての活動は、ほかの部署に任せましょう。」
そういってスティングスは視線を前に戻した。
そう、私の相手はあんな黄色一味共ではない。
それどころか、人間かどうかも疑わしい。
そして、先ほど嘆息を漏らしたこの国際情勢を作り出したともいえる者だ。
「かくれんぼもいい加減にして、出てきてくれないかしら。」
「そうですね…もう2年ですか…」
ジョイも今回は含みを理解して聞き返したりはせず、その者のために死んだ仲間のことを思いながら、無言で車を走らせて行った。
ワシントンのとあるインターネットカフェに、レドリシアはいた。
インターネットで調べ物といった風情ではあるが、その赤い瞳はむしろ周囲の人に向けられているようである。
なんといってもその瞳の赤さは人目を引く。
誰もがその特徴ある男に、ちらちらと視線を向けていた。
「かれこれ2時間…もう頃合か。」
そういうと、レドリシアは画面に視線を泳がせた。
そこには、ハードリー研究所の爆発事件についての記事が映し出されている。
レドリシアはそれを確認するとにやりと笑い、パソコンの電源を落とすと、カフェを出て目前にあるホテルへと向かっていた。

4月4日。ニューヨーク・国連本部
安全保障理事会の会議室モニターには、台湾の崩壊した建物、焼け焦げた木などが映し出されていた。
致死量をはるかに超える放射能が充満している土地であるため、死体の回収もままならず、あちこちに人の形がかろうじて判別できる墨が横たわっている。
その光景を、各国の国連大使および国連軍司令官・北条公康は苦々しい顔で見ていた。
「これらの被害は、摂氏10万度を超える爆発の爆風によるものだと考えられます。」
モニターの横に立つ島津が冷静に報告を続ける。
「放射熱線か・・・直撃した場合は跡形もなく、爆風でも黒焦げになってしまう。」
北条がゆっくりとつぶやく。
「つまり…」
「つまり,通常兵器を以ってゴジラと対しても,勝てるわけがない。だから国連軍の研究に、われわれアメリカも協力しろ…と?」
国連大使アメリカ代表・ハワード=ファレルが島津の言葉をさえぎり、つぶやいた。
「…そういうことです。」
白髪交じりの太い眉を一瞬だけ動かし、島津が答える。
「国連軍の研究技術は,各国の頭脳を集めることで世界に類を見ないほどになっている。これにアメリカが加われば・・・」
「特殊連隊本部をニューヨークに置いてやっている。十分協力していると思うが…」
「それはそうだが,対ゴジラ研究にも協力を…」
国連軍設立以来,韓国と並び常任理事国の一員となった日本の国連大使・柳沢が割って入る。
「ゴジラの現在位置を鑑みても,損ではないと思うが。ここ数ヶ月、太平洋を東へ向かう姿がいくらか目撃されている。」
中国国連大使からも発言が出る。この発言に、韓国国連大使も大きくうなづく。
(グルか…)
先ほどから何の発言もないロシアやフランス、ドイツの反応を眺め、ファレルは心の中で舌打ちした。
ここ数年、中国はアメリカを抜き、日本との最大貿易相手国となった。
一部国民はこの動きのさなか反日を主張したが, 時代の潮流には逆らえない。
中国と日本の経済的つながりは密接となり,互いの関係をさらに向上させる必要が出てきたのである。
国連軍に反対するアメリカの取り込みも、その一環であった。
日本はいくら中国との経済的つながりを強めたとはいえ、アメリカとの関係も維持しておきたいのは当然である。
国連軍設立以来、ぎくしゃくしてきたアメリカとの関係を、ここでリセットする腹積もりである。
中国のほうも、アメリカの取り込みは必須であった。
ここでアメリカに協力を了承させることで少しでも優位な立場に立ち、ここ最近日本の自由主義経済や思想進出により、不満を募らせる国民に一種の人気取りを行うつもりである。
日中ともに経済に大きく関係している勧告も、二国の思惑にはおおむね賛成であった。
(だが、そうはさせん)
国連軍に協力することは、これまで世界の警察という立場を暗黙の了解により承認させてきた、アメリカの地位が崩れる危険性さえある。
タカ派で知られるファレルにとって、そんなことを認めるのはなんとしても避けたかった。
「確かに、ゴジラがここ最近太平洋を答申中であるという情報は、わがアメリカ軍も入手している。本土上陸もあるかもしれない。だが、確実ではない。」
「私は、確実かと思います。」
島津が断言し、全員の視線が集まる。
「どういうことだ?」
苦々しい顔で、ファレルが問い返した。
「ハワイですよ。」
「…太平洋艦隊か」
「以前の戦闘で、ゴジラは体内放射能を著しく失いました。
腹をすかせ、太平洋の真ん中で眠るやつにとって、原子力空母の群れは格好のえさに見えているのでは?」
ファレルは言い返すことができなかった。
深刻化する中東情勢に国民の不満は高まる一方であり、大統領はこれを払拭するため、太平洋・大西洋両艦隊による同時観艦式を行うという、大規模イベントを隠しようがなかったからである。
「一度艦隊が襲われたが最後、通常兵器ではゴジラを倒せません。艦隊全滅も…」
「どうかな?」
半ば脅しじみた島津の言葉に,ファレルは以外にもにやりと薄ら笑いを浮かべながら答えた。
「…どういうことですかな。」
「これを」
そういってファレルが島津にビデオテープを渡した。
島津がテープを受け取り、モニターに再生する。
「これは…」 そこに映し出されていたのは、一機の戦闘機であった。
全体的に二等辺三角形の形をしており、上下は流線型にかたちどられているが、平べったいような印象を受ける。
機首に装備されたランチャーを除き、全体的に銀色の装甲に覆われていた。
「わが軍の新型戦闘機・ストライクフェニックスだ…装甲にダイヤモンドコーティングを施してある。
ゴジラの攻撃はまったく通じず、あわてるやつの頭上に液体窒素弾を雨のように降らせ、100年間は太平洋の海中に封じ込める!まさに最強の兵器だ。」
「ダイヤモンドコーティング?ファイヤーミラーの技術じゃないか…どうして?」
北条が驚きの声を上げる。
「無論、わが軍にもこれだけの開発技術があるということだよ。」
ファレルの口元がさらに歪む。
「CIA を使ってデータを盗ませたな…」
中国側から絞り出すような声が漏れる。
「言いがかりはよしてもらいたいね…とにかく、国連軍などに頼らずとも、わが国は自らの手で国民を守れるということだよ。」
ファレルの言い捨てるような言葉で、会議は物別れに終わった。


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