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ゴジラ〜人の創りしもの〜
作:ぎどらまん

第十一章

2006年4月10日・午後3時丁度から始まるニュースのオープニングを、ジョイは耳だけで聞いていた。
目は窓際に据付けられた望遠鏡へと向かい、その望遠鏡は、ジョイがこもるアパートの前に立つ、木造の半ば壊れたようなアパートの201号室―君沢の部屋―に向けられている。
「動きは無いようだな…」
ジョイがつぶやき、隣に立つホフマンも軽く頷いた。本来なら、君沢は午後3時過ぎに職場へ出発する。女である上に人前に立つ職業であるから、それなりの準備を整えていくわけだが、今日はこの時間になっても何の用意もしていなかった。
「あれ以降、ベッドからも出てきませんからね…。」
ホフマンがポツリとつぶやく。確かに、君沢は望遠鏡が向く窓際の寝室にあるベッドから、一歩も動こうとしない。10時ごろ、おそらく職場に対してだろう電話を入れた後、ずっと布団にもぐったままだ。
「どうせ職場に休みの連絡でもしたのだろう。…こちらにすれば、好都合だ。」
そういって、ジョイが頬だけで笑った。先ほどスティングスから連絡があり、君沢が妙な動きを開始しない限り、速やかに身柄を拘束するよう命令が達されていたのだ。
「行くぞ。」
ジョイが号令を掛け、真っ先に階段へと飛び出す。その後からホフマン始3人の男たちが、階段を駆け下りていった。
 君沢の目は、いつになく怯えている様子だった。正体を知られた以上、おそらくCIAが近くに張り込んだのだろうと思い、監視の目を逃れるようにベッドに潜り込んだが、それで誤魔化せるはずがない。
いつ突入してくるか分からない恐怖と戦いながら、君沢はいっそあの時国連軍に洗いざらい白状して置けばよかったという後悔の念をよぎらせていた。確かにあの時は、たとえ国連軍といえども、キューバーを渡してはならないと思っていた。『あれ』を手にしてしまえば、人類は確実に破滅の道をたどる。
しかし、だ。CIAに自分の正体がばれた以上、一人で隠し遂せるものでもない。それならば、たとえ国連軍のものであったとしても、店で自分に優しい目を向けてくれ、あの時助けてくれた『彼』に助けを求めるべきではなかったか、と思ったのである。
そのように君沢が物思いに耽っているそのとき、ドアベルを鳴らす音が彼女の耳朶を打った。君沢は飛び上がり、台所の包丁を気休めに持つと、ドアへと近づき、レンズを覗き込んだ。西洋風の男が数人、映りこんでいる。
「どうぞ。」
これまでか。
君沢は覚悟を決めて包丁を持ち直し、ドアの脇に隠れて、何も気づかなかったように声をかけた。
ジョイたちは、目の前の光景が信じられないとばかり、ただただ立ち尽くしていた。
電柱に自動車がめり込み、大破している。彼らが君沢のアパートへ突入しようとした瞬間、それを邪魔するように突っ込んできたワゴン車がアパート前の電柱に激突したのだ。
「いったい何が…」
呆然とつぶやくジョイの脇に立っていたホフマンが、ふと、顔をしかめた。
「もしやあれは…我々が乗ってきた車では?」
フーコーがそういうや否や、後ろに立っていた2人の男が、慌てて車に駆け寄った。
「ナンバーが同じ・・・間違いなく、我々のものです。」
後ろに回った男の報告を聞き、ジョイとホフマンはいったいなぜ、と顔を見合わせた。しかし、車の前方に回った男の声に、二人は同時にある答えが浮かんだ。
「誰も…乗っていません!」
「しまった!」
二人は同時に叫んだかと思うと、車の存在はもう忘れてしまったかのように駆け出した。そのままアパートへ入り、一気に階段を駆け上る。
そして君沢の部屋のドアを蹴破るようにして室内に突入したが、すでに遅かった。
「はめられた…。」
すでに、そこに君沢の姿はなかったのである。

エーベルバッハから島津に君沢の保護の一報が入ったのは、島津たちが出撃準備を完了した午後3時半であった。
「君沢さんは、最初は抵抗の姿勢を見せたそうですが、国連軍ということを名乗るとおとなしく従ったということです。アパート周辺にはやはりCIAが張っていたようですが、これは振り切ったという報告が来ています。」
スーパーX2 の司令室で、吉田が島津に報告している。君沢の店に張り込んだエーベルバッハだったが、島津からの司令を受けて店の者に素性を明かし、君沢の住所を聞きだして向かっていたのである。
「うむ、そちらはうまく行ったようだな。CIAがあせって彼女を確保して、パンドラを回収してしまったら大変なことになる。」
「人間が怪獣を創って操ろうなんて…何てこと考えるやつらだ。」
島津の言葉に、大野が拳を握り締めながら言う。
「落ち着け、大野。俺たちは、その前に決着をつけなければならないことがある。」
島津の言葉に、大野が振り返った。島津の視線は大野ではなく、正面の今開かんとするハッチを向いている。
「了解。」
全ての元凶は、『お前』と、『お前』を創った俺たちだからな。島津の視線の先に待つ相手に向かい、そう胸の内で叫んだ大野は、少しずつ開いていくハッチを睨み付けた。

 「サンディエゴより。予定通り、攻撃を開始せよ。」
その言葉をコロナド内CICで聴いたニコルスは、顔を引き締めた。艦橋直下にあるCICの窓のない密閉空間の中で、いくつもの艦艇表示の浮かぶCGで作られた作戦海域マップに目を落とす。
「ニミッツの航空隊を発艦させよ。ジョン=C=ステニスの部隊は第2陣の準備。」
ニコルスの支持が、オペレーターを通して両空母に伝えられる。ニミッツが搭載する85機もの航空機隊が発進するのも、時間の問題だろう。
「司令官、ニミッツが隊への督促を求めております。」
海域図を呆然と眺めていたニコルスに、モロスが声を掛けた。ゆっくりとモロスを見上げたニコルスは、エリート将校の手に握られていた通信機を、ゆっくり受け取った。
―撤退命令を出せれば、どんなに楽なことか。
冷たい目をこちらに向けるモロスを一瞥したニコルスは、第3艦隊司令部のあるサンディエゴからの命令と相反することを考えながら、督促を吹き込み始めるのだった。

4月10日。午後6時。
日が落ちるのも近いなと,ハワードはペンタゴン地下にある作戦司令室で考えていた。サンディエゴの第3艦隊司令部からは,『二ミッツ』から航空機隊が発進したとの連絡を受けている。後は艦隊との連携による決戦を待つばかりだ。
どれだけ時間を稼げるか。今海戦におけるハワードの戦略思考は、この一点に集中していた。ゴジラを本土に上陸させることなく、海軍の総力を結集することで数日に渡り海上にとどめ、CIAがパンドラを回収する時間を稼ぐ。
しかし、フーコーは成功すると断言していたが、ハワードとてこんな壮大な計画が確実に成功するとは思えなかった。
「国連軍に協力を仰ぐほうが、はるかに成功率が高いと思っていらっしゃるのでは?」
ハワードの心を見透かしたように、後ろに立つフーコーが言う。
「それは...」
保険として、考えるべきでは?今更のようだがハワードが口を開こうとする。
「世界の警察たるアメリカの権威が、貴方の代で失墜してもかまわない、とでも?大統領。」
先手を打ったフーコーの言葉が、ハワードの口を塞いだ。国家を背負う身として、それ以上の屈辱はない。
「いや、私はやってみせる。やつを倒し、アメリカの世界的地位を確定するのだ!」
心を決めたようにハワードが呟いた。そしてそれを見つめるフーコーとスティングスの唇は、野心溢れる笑みに歪んでいた。


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