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ゴジラ〜人の創りしもの〜
作:ぎどらまん

第十二章

「どういうことだ!!」
もう日も暮れ、月が海面を照らす午後7時24分。
最大航行速度でカルフォルニア州ロングビーチ付近に到着したスーパーX2の操縦席内で、思わず島津は叫んでいた。
 無理もない。同機の周りはアメリカ軍の誇る最新戦闘機F/A22ラプターに囲まれ、行く手が阻まれていたのである。
「サンディエゴからの命令です。国連軍は危険防止のため、戦闘区域に入れることの無き様。」
ラプター編隊の隊長と思しき人物が、冷静な声で島津の怒号に返事をする。
「くっ...」
ベリーの話がまだ伝わっていないのか。激情を押さえ、待つしかないと理解した島津は、今は先ほどまでの島津と同じようにわめき散らそうとする大野を、吉田とともに抑えておく程度のことしか出来なかった。
―待ってろ。俺が、必ず―
はやる大野を手で制し、島津は目前の爆炎を睨めつけていた。

 原子力空母『ニミッツ』より発進した85機もの航空編隊は、攻撃すればするほど焦りが隠せない状況に困惑していた。
先ほどから『ニミッツ』編隊は、戦闘爆撃機F/A18F ホーネットを主力とする部隊を4つにわけ、ゴジラを中心に四方から波状攻撃を仕掛けていた。先ず正面の部隊が突入し、機銃掃射でゴジラを挑発する。ゴジラがそちらに向かって熱線を放とうとしたところで後方の部隊がミサイルを一斉発射し、それでひるんで振り返った隙に、両側面の隊がまた一斉攻撃をかける。こうすることで、ゴジラに一定の目標を与えずに無駄な攻撃を繰り返させ、被害を大きくせずに消耗戦に持ち込もうという作戦だったのだ。
ところが、ゴジラは部隊が四方から攻撃しても無意味な攻撃をしようとしなかった。確かに熱線を発射しようとする姿勢を見せはするのだが、直前で止めてしまうのである。まるで、相手に期待をさせておいて腹の底で嘲うかのようだ。しかも幾多のミサイルを浴びてはいるものの、ゴジラの動きは鈍ることはない。
―消耗しているのは、こちらではないのか?―
必死の形相でミサイルを撃ち続けながらも、いずれのパイロットもそう思わざるをえなかった。

 指揮艦『コロナド』のCTCにこもる将校たちにも、『ニミッツ』編隊の焦りは伝わっていた。
「どうやら、やつの知力、体力ともに我々の想像を上回っているようだな。」
そんなことは戦う前から分かっていたことだが、という言葉を続けるかのような余韻を残して、ニコルスがつぶやいた。さすがのモロスも、緊張で顔が強張っている。しかし、若さゆえの過ちかその積極姿勢に変わりは無かった。
「こうなったら、四方から同時攻撃をかけるべきです。こちらからの援護射撃も行いましょう。」
モロスの言葉に、ニコルスはもはや最後の希望をも失っていた。司令官と旗艦の艦長の総意ならば、サンディエゴの命令を覆すことも、不可能ではなかったはずだったのに。そして、そのニコルスの絶望は、艦橋にいれば見えたはずの青白い光と、CTCにいても十二分に聞こえるほどの激しい爆発音によって具現化されてしまったのである。

それまでは『素振り』しか見せていなかったゴジラも、今度は本気だった。すでに何度も繰り返された波状攻撃の第1波である前方部隊の機銃掃射を無視し、後ろを振り返ると、ミサイルを放つべく迫っていた後方部隊に向け、熱線を浴びせたのである。
ゴジラも所詮は生物、攻撃をされればそちらに怒りを向ける。そんな前提で行われていた波状攻撃だけに、後方部隊にとってこの攻撃は完全に予想外であった。もともとゴジラに向かって急接近していた上に、光速を以って接近してくる熱線を避けられるはずはない。自分たちの作戦が完全に突き崩されたことも気づかぬまま、後方部隊20機は次々と火達磨になり、その破片を虚しく海面へ落としていった。
この一撃で、『ニミッツ』編隊は完全に収拾を失った。
完全に予想外の攻撃を受け、次はどこを狙われるかわからないという恐怖に襲われたのである。四方に整然と隊列を組んでいた部隊はもはや列を乱し、我先に逃げ帰るようにゴジラに背を向けた。こうなればもうゴジラの独壇場である。青白い閃光が四方八方に飛び、『スズメバチ(ホーネット)』の名を冠する米軍主力戦闘機群は、母艦に帰り着くことなく次々と闇夜の不気味な煌きの中に姿を消した。

「...なめていたな。奴を。」
レーダー上から一気に兵力が消えていくのを目の当たりにして、ニコルスが呟いた。もはやゴジラは、完全に我々の予想を超える存在なのだ。
モロスも、ニコルスの言葉に嘲笑うかのような視線を浴びせることは不可能だった。その顔は恐怖に青褪め、ぼんやりとレーダーを見つめている。
―驕った結果か。―
そんなモロスの様子を見ながら、ニコルスはふと思った。二度にわたる第二次大戦の勝利。冷戦の終結とソ連の崩壊。そして、いまや西アジアの石油産油国にも発言力を伸ばし、世界の警察として覇権を謳歌してきたこの国も、たった1体の生命体により、滅ぼされるというのだろうか。いや、この考え方からして、驕っている証拠なのかもしれない。
 そう思いながら、ニコルスは彼の父親の話を思い出していた。
父は彼と同じく海軍に籍を置く者であった。そして、よく太平洋で戦った『カミカゼ』の話をしていたものだ。勝利を妄信する軍上層部に振り回され、それが国を、引いては家族を守ることだと信じて大空に飛び立ち、特攻して散っていった若者たち。
その話をしていたときの父は、いつも虚無感に満ちた目をしていた。そして恐らく父が今この場にいたならば、彼のことを、同じ目で見ているに違いない。
 時代の流れに呑み込まれ、ファシズム思想と限りない勢力拡大・自滅戦争という絶望の渦に消えていったあの帝国と、今のアメリカにいかなる彼我の差があろうか。ただ渦に叩き込むものが、人間か否かぐらいであろう。
「ニミッツ編隊、全滅!」
一瞬物思いにふけた隙にであった。ニコルスの、そして艦隊全体の絶望がさらに高まる。
「ダメか...」
ついに、モロスがつぶやく。あちこちから、うつろな目がニコルスのほうを向いた。
―どうする?
果たして、逃げ切れるのか? モロスが思案をめぐらせた、その瞬間であった。またも爆発音が響き渡り、ニコルスたちは一気に青褪めたのだ。
「何が...何がやられた!? 」
完全に平静を失い、モロスがわめき散らした。オペレーターが驚いたように振り向く。
「...国連軍が、ゴジラを攻撃しています!」
 ペンタゴンの作戦指導室で、ハワードは顔を高潮させ、モニターに映る状況を凝視していた。米軍が徹底的にゴジラに叩かれ様としたそのとき、国連軍が攻撃を開始したのだ。
「...どういうことだ、いったい誰の許可だ!!」
ハワードが誰にとも無く叫ぶ。
「私ですよ。」
突然答えが聞こえ、驚いた顔でハワードが振り返る。そこに立っていたのは、ベリー国防長官だった。
「私が、サンディエゴに直接連絡しました。理を以って説けば、彼らも納得してくれましたよ。ハワイの敗北でゴジラに恐怖を覚えたものは、存外に多いのです。」
ハワードに近づきながら、ベリーが低い声で言った。
「大統領もお気づきでしょう? もはや米軍だけでは、やつに太刀打ちできないことを...」
ベリーに言われて、ハワードは後ろを振り返った。モニターには、無残に水面に浮かぶ鉄塊が映し出されている。
「大統領、このような臆病者の言うことなど信じるべきではありません!今このときにも、艦隊に危機が迫っているのです。彼らがやられてしまえば...」
ハワードとなりに立つフーコーが、ハワードの迷いを打ち消すように言った。隣に立つスティングスも、彼の言葉に肯く。
「黙れ!ここでなんとしても時間稼ぎをして部下にパンドラを発見させ、ゴジラ討伐の功をCIAが手にしようという魂胆は分かっているんだ! それが何をもたらすかも知らずに...」
「何!?」
「大統領、よくも考えてみてください。わが国の、そしてあなたの名誉ばかり気にして、あなたは国民を守るという真の使命をお忘れではありませんか?指導者が意固地になって滅んだ国家は、これまでいくつあったことか...」
「むぅ...」
ベリーの言葉に、ハワードは反論できずに口をつぐんでしまった。フーコーも、そんな大統領の様子に、一瞬うろたえる。
「ここは国民のために最善の策を選ぶべきです。あそこで戦っている国民も...時間稼ぎだなどと暴論を吐いて無駄死にさせてはなりません!」
「しかし、パンドラを手にすれば...」
スティングスが口を挟む。
「それはもう無理だ。君たちが探していた女性は、国連軍が確保したよ。私が教えてやったんだ。」
「何、貴様、なんてことを...」
フーコーとスティングスの顔が、一瞬で青褪めた。
「私は、ハワイでゴジラという怪獣の蛮行を見てきた。あんなものを作り出しても、われわれに害あって益無しだ。」
ベリーの言葉を聞いて、フーコーがこぶしを振り上げる。
「やめろ、フーコー!」
ハワードが強い口調で言い、フーコーはあわてて手を止めた。
「もはやお前の作戦は無理だ。...こうなっては仕方が無い。」
ハワードはそういってモニターを見た。その様子を、ベリーはほっとした様子で、フーコーとスティングスは苦々しげに見ている。
「ここは、彼らに頼ってみよう。」
何かを願うような視線を、ハワードはモニターに向けるのだった。


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