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ゴジラ〜人の創りしもの〜
作:ぎどらまん

第十三章

君沢のいなくなった部屋に、ジョイとホフマンは呆然と立っていた。外では、別に二人の男が電柱にぶつかった車を調べている。
「やられたな...」
ジョイが、ポツリとつぶやく。一度ならず二度までも、しくじってしまった。なすすべの無い状況に、言葉が続かない。
「これまで...か。」
ホフマンもつぶやいた。だが、彼の口は笑っていた。そして、彼の手が懐へと動く。
「貴様、何を!!」
その様子に気づいたジョイが振り返ったときにはもう遅かった。サイレンサー銃から放たれた弾丸が、彼の額を貫く。半ば口を開いたまま、ジョイはその場に斃れこんだ。
 ホフマンが窓を開け、下を見た。車を調査している同僚が、彼にはもはや獲物にしか見えていなかった。後頭部を撃ち抜かれ、二人の男があっという間に倒れこむ。
それを見届けたホフマンは、窓をさっさと閉じ、足元の死体を見た。驚きの表情が、未だ死に顔に浮かんでいる。それを見るホフマンの目は、まるで虫けらでも見るかのようだった。
「こうなった以上、君たちの事を最大限に利用させてもらおう。最も、これまでもそうだったがね。」
そういって唇をゆがめたホフマンの目が、一瞬、血のように紅く染まった。

 島津の目は、真直ぐに目前の巨体に向けられていた。ゴジラも、いきなりカドミウム弾を撃ち込んだ濃緑色の鉄塊に対し、怒りの視線を向ける。
それは、さらに先にある格好の獲物を破壊し損ねたことに対する憎悪であった。
「元気そうだな...。」
忌々しそうに、大野が呟く。それが聞こえたかのようにゴジラは大きく咆哮し、口を開けた。青白い光が漏れ出てくる。
「ファイヤーミラー。」
島津が静かに、押し殺した声で言う。吉野が、その声のように冷静に操作した。
 ゴジラの口から光が飽和し、それが熱線になってスーパーX2に突き刺さった。しかしそれは期待を貫くことなく、機首に設置された鏡状の部分に集約されていく。
「発射!」
島津の怒号とともに、光線がゴジラの胸に向かって跳ね返った。対してゴジラは瞳の無い、血走った目をゆがませ、体を大きく翻した。ゴジラに向かって真直ぐ伸びる光線が、勢いよく海面から飛び出した尾にはじかれ、ゴジラの左隣の海面にぶつかる。
「...さすがに、何度も同じ手は通用せんと言うことか。」
島津の額に、汗がにじんだ。同時に、ゴジラの口にまた光が集まっていく。
「クソ、持久戦をするつもりだ!」
大野が悪態をついた。
「ゴジラの体内放射能量とスーパーX2のファイヤーミラー。どっちが先に朽ちるか...」
吉野がかすれ声で呟く。少しだけ、その瞳が震えた。
「やってみるしかないな...」

 モロスとニコルスはじめ、『コロナド』の士官たちは揃って艦橋に集まっていた。視線の先で、何度も青白い光が瞬いているのが見える。
「やってるな...」
誰かが、そうつぶやいた。無気力なものである。モロスもその一人だった。青ざめた顔に、生気はない。
「サンディエゴから、何か連絡は?」
一方のニコルスは、冷静さを取り戻していた。さすがに、場数を踏んだ歴戦の勇将である。
「まだ、何も...」
きょとんとして、オペレーターがつぶやいた。
「それならば、撤退命令はまだ出ていないということだな...」
何かを悟ったらしく、モロスが青ざめた顔をニコルスに向けた。
「何を...?」
「どうやら苦戦しているようだ...助けてもらって何もしないのは、なしだと思わないか?」
ニコルスは硬い表情のまま、正面から視線を離さずに言った。

 青白い閃光を受け止めた瞬間、スーパーx2は大きく揺れた。
「これ以上は、無理です!」
吉田が叫ぶ。もう何度同じ行動を繰り返したことだろう。しかし、これ以上ゴジラの熱戦を受け止めることはできない。
「慎重に、ならなくてはな...」
そのとき、漆黒の海面を揺らすが如き咆哮が島津たちの耳を貫いた。
「やばい!」
大野が折れんばかりの勢いで操縦管を右に倒し、スーパーx2を傾けた瞬間、先ほどまで機体が浮いていた場所を熱線が隆盛のような勢いで通過した。ゴジラは更に体をねじり、満天の星空に向かって咆哮する。
「野郎、こっちが限界だって気づいてやがるのか?」
大野が少しうろたえて言う。島津の眉根に、皺がよった。反撃しなければこちらが撃墜される。しかしこの一撃は、全てをかけて撃ち込まなければならない最後の一撃だ。
―いったいどうすれば...
島津が考え込もうとしたその矢先、スーパーx2をにらみつけていたゴジラの脇腹に、ミサイルが撃ち込まれた。不意の攻撃に驚いたゴジラの叫びが闇を貫く。しかし、その一撃も当然のようにゴジラの鉄壁の表皮を破ることはできない。さっきに満ちたゴジラの顔が、ゆっくりと方向を変えた。

 ゴジラと眼があった気がした。「コロナド」の艦橋に立つモロスたちが一気に震え上がる。ニコルスは「コロナド」を除く全艦隊を撤退に移らせておいて、自らは銃数年来の付き合いのある部下とどこかに去ったかと思うと、ミサイルが発射されたのだ。
「なんてことを...!」
モロスが、苦々しそうに呟いた。
 「どうだ?」
CICで直立不動の状態を保ったまま、ニコルスは呟いた。
「命中です。」
オペレーターが報告した。やや緊張した面持ちである。
「よし、こちらに気を引かせたな...」
ニコルスがにやりと笑う。
「大丈夫なのでしょうか?」
やはり一抹の不安があるらしく、オペレーターがニコルスに尋ねた。
「さっきも言っただろ、応用だよ。」
モロスは満足げに言う。
「我々の作戦において、ゴジラが攻撃された相手に反撃をしようとする性質があるのは、一般的な生物と似たようなものだという見解は正しかった。マア、あんまり繰り返すと学習されてしまうようだがな...だが、一度くらいは引っかかってくれるさ。」
 今だ、という島津の叫びに驚いたように反応して、大野がファイヤーミラーの発射スイッチを押した。渾身の一撃が、ゴジラに向かって放たれる。「コロナド」に一瞬怒りの矛先を向けてしまっていたゴジラに、それを回避する暇はなかった。ゴジラの左目に、自らが放ったそれと同じ青白い発光が映った。
 おびえるモロスたちの目に、先ほどまで応酬されていた青白い光の連続ではない紅蓮の炎が映った。
「何が起こった?」
わけがわからないという顔をしているモロスの後ろに、CICから上ってきたニコルスが立った。
「ああいうことだよ。」
ニコルスが自信ありげに言った。
顔の左半分を抑えたゴジラが、悲鳴を上げた。指と指の間から、炎が噴出す。ファイヤーミラーから放たれた熱戦が直撃した眼からだ。血走り、まなこの無い白濁眼はその面影を失っていた。
「ざまあみろってんだ!」
大野がこぶしを振り上げた。その声が聞こえたかのように、ゴジラがスーパーX2を睨み付ける。島津と吉田が、憎憎しげな表情を浮かべた顔を映し出すモニターを見守る。しかし、その漆黒の魔獣の眼に、もはや力が篭っていないことを、二人はすぐに見抜いた。
 ゴジラの体がゆっくり傾いた。左手で傷ついた顔面を覆いながら、ゆっくりと海面に沈んでいく。しかしその視線は、最後までスーパーX2をにらんだままであった。
「撤退するぞ。...今回は、引き分けだ。」
ゴジラが海面に沈んでいく様と、アメリカ軍艦隊がひいていくのを確認した島津が、ため息のように言った。
「はい...」
大野と吉田が力なく返事をする。若い二人も、さすがに疲れたか。島津が苦笑いを浮かべた。



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