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盗作作品 原作(一部抜粋)

 目標へ至る道は簡単に分かった。 キメラが歩いた後は、その巨体によって植物が踏み荒らされており、即席の獣道と化しているのだ。 二人はその「足跡」を走って追いかけながら、相手が人里に向かわなかったことに胸を撫で下ろした。

「これはもう、今月の給料五割増くらい色をつけてもらわないと割に合わないな」

「あ、それじゃあ無事に帰ったら奢って・・」

「ダメだ。オレの給料が驚くほど安いのを知っているだろう?」

「けち………」

 たわいない会話で緊張感を誤魔化しながら先へ急ぐ。

 目標へ至る道は簡単に分かった。
 ビヒモスが歩いた後は、その巨体によって植物が踏み荒らされており、即席の獣道と化しているのだ。
 二人はその「足跡」を走って追いかけながら、相手が人里に向かわなかったことに胸を撫で下ろした。
「これはもう、今月の給料五割増くらい色をつけてもらわないと割に合いませんよ」
「あ、じゃあ無事に帰ったら奢って」
「嫌です。私の給料が驚くほど安いのを知っているでしょう?」
「けちー」
 たわいない会話で緊張感を誤魔化しながら先へ急ぐ。

 意外にも十数分走った程度で、それは見つかった。 そのまま突っ込む事はせず、梢に身を潜め、様子を伺う。 視界の先で暴れる巨体に二人は圧倒され、息をのんだ。 うっそりとこちらを向いた、その存在感の巨大さ、強烈さ。大きい、ということはそれだけで人の恐怖を根源から揺さぶる。そして乾いた血や泥で染められた全身の醜悪さもひどいものだった。 ぎろり、とした目は、獲物を求めるように飢えて血走っていてその目に睨まれればそれだけで普通の人間は震え上がりそうな気持ちになるに違いない。 そう、キメラは召喚し、制御さえできれば召喚主にとって大変な戦力になるがひとたび人の制御を離れるとその凶暴さをあたり構わず振りかざす、恐ろしい魔獣なのだ。 パーシヴァルはその恐ろしさを熟知している。隣で圧倒されて呆然としているレティシアに鋭く囁いた。

 意外にも十数分走った程度で、それは見つかった。
 そのまま突っ込む事はせず、梢に身を潜め、様子を伺う。
 視界の先で暴れる巨体に二人は圧倒され、息をのんだ。
 うっそりとこちらを向いた、その存在感の巨大さ、強烈さ。大きい、ということはそれだけで人の恐怖を根源から揺さぶる。そして乾いた血や泥で染められた全身の醜悪さもひどいものだった。
 ぎろり、とした目は、獲物を求めるように飢えて血走っていて、その目に睨まれればそれだけで普通の人間は震え上がりそうな気持ちになるに違いない。
 そう、ビヒモスは召還し、制御さえできれば召還主にとって大変な戦力になるが、ひとたび人の制御を離れるとその凶暴さをあたり構わず振りかざす、恐ろしい魔獣なのだ。
 レガートはその恐ろしさを熟知している。隣で圧倒されて呆然としているシャスタに鋭く囁いた。

「レティシア、オレが最初に左から打ちかかる。君は隙を見て右から頼む」

「でも、それで大丈夫なのですか?応援を呼んだ方が……」

「それでは間に合わない。大丈夫だ、いざとなったら山ごと崩す」

 こいつが麓に下りて人里に向かうことを考えれば、山一つ消える方がまだマシだ。だが、それだけの威力ある魔法を放ったら、自分達もただではすまない。爆発のダメージは受けなくても、生き埋めになる危険性がある。

「シャスタ、私が最初に左から打ちかかります。あなたは隙を見て右からお願いします」
「それで大丈夫なの? ちょっと、これは応援を呼んだ方が……」
「間に合いません。大丈夫です、いざとなったら山ごと崩します」
 こいつが麓に下りて人里に向かうことを考えれば、山一つ消える方がまだマシだ。だが、それだけの威力ある魔法を放ったら、自分達もただではすまない。爆発のダメージは受けなくても、生き埋めになる危険性がある。

「レティシア…いいか? 危なくなったら君は即刻逃げるんだ。正直、君をかばって闘う余裕など無いだろう。そして、…ここが肝要なんだが……余計な気は、起こさないように」

 パーシヴァルは神妙な口調でそう言った。 彼は、なるべくならレティシアを巻き込みたくなかった。 そしてレティシアは、パーシヴァルの言葉の意味を知っていた。 ――彼が、自分に紋章術を使わせたくない、ということを。 彼女は、極力紋章術を使わずに剣術で身を守ることをクリスから強要されているのだ。

「シャスタ、いいですか? 危なくなったら、あなたは即刻逃げるのです。正直、あなたをかばって闘う余裕など無いでしょう。そして、いいですか、ここが肝要なのですが……余計な気は、起こさないように」
 レガートは神妙な口調でそう言った。
 彼は、なるべくならシャスタを巻き込みたくなかった。
 そしてシャスタは、レガートの言葉の意味を知っていた。
 ――彼が、自分に魔法を使わせたくない、ということを。
 彼女は、極力魔法を使わずに棒術で身を守ることをレガートから強要されているのだ。

「……でも、だって」

「いいか?君は術を使わなくても身を守れるようになるために剣術を習ったはず。オレの手伝いをする気があるのだったら、その剣術を最大限に生かすことを考えろ。はっきり言わせてもらえば、君の紋章術は邪魔だ」

 パーシヴァルが切り捨てるように言い放った言葉に、レティシアは激昂した。

「ちょっと、何なんですかそれ!!今度こそちゃんと制御してみせます!!!」

 思わず、声を荒げたその瞬間。

「……でも、だって」
「いいですね、あなたは魔法を使わなくても身を守れるようになるために棒術を習ったはずです。私の手伝いをする気があるのでしたら、その棒術を最大限に生かすことを考えなさい。はっきり言わせてもらえば、あなたの魔法は邪魔です」
 レガートが切り捨てるように言い放った言葉に、シャスタは激昂した。
「ちょっと、何よそれ、今度こそちゃんと制御してみせるってば!!」
 思わず、声を荒げたその瞬間。

「気づかれたっ!」

「え?」

 びゅんっ!  空気が、唸った。 キメラは、その血走った目を爛々と輝かせて……  しなる幹のように太い腕は、信じられない速度でレティシアの顔面を襲い……  眼前に迫るその死の腕を、レティシアはスローモーションでただただ、眺めるしか出来ず……

 がすっ。  鈍い、音。

「やっ……」 襲ってきた激しい衝撃に身を竦ませ、しかしそれが予想よりも遥かに小さいことにレティシアははっとした。

「気づかれたっ!」
「え?」
 びゅんっ!
 空気が、唸った。
 ビヒモスは、その血走った目を爛々と輝かせて……
 しなる幹のように太い腕は、信じられない速度でシャスタの顔面を遅い……
 眼前に迫るその死の腕を、シャスタはスローモーションでただただ、眺めるしか出来ず……
 がすっ。
 鈍い、音。
「やっ……」
 襲ってきた激しい衝撃に身を竦ませ、しかしそれが予想よりも遥かに小さいことにシャスタははっとした。

「何ぼうっとしてるんだ!!」

 鋭い一喝に、レティシアの金縛りがとける。彼女はいつのまにか、パーシヴァルの腕の中にいた。 そのまま地を転がり、追撃を避ける。

「パーシヴァル様っ!!」

 急いで立ち上がったレティシアは、その背中を見て愕然とした。 背中に走る、三本の鋭い傷。そこからだくだくと赤いものが流れている。傷は、誰がどこから見ても深かった。致命傷かもしれない、レティシアは青ざめる。

「何をぼうっとしているんですか!!」
 鋭い一喝に、シャスタの金縛りがとける。彼女はいつのまにか、レガートの腕の中にいた。
 そのまま地を転がり、追撃を避ける。
「レガートっ!!」
 急いで立ち上がったシャスタは、その背中を見て愕然とした。
 背中に走る、三本の鋭い傷。そこからだくだくと赤いものが流れている。傷は、誰がどこから見ても深かった。致命傷かもしれない、シャスタは青ざめる。

「案山子のようにぼうっとすることしか出来ないのだったら大人しく待っていろと先に言っておいたはずだが…」

「パーシヴァル様、私を庇って…」

「庇う? オレはそんなに出来た人間じゃあ無い。あいつに攻撃を仕掛けようとして君が邪魔だった、だから吹っ飛ばした。それだけだ」

 しっかりとした口調でそう言ったパーシヴァルの息は、荒い。 吹っ飛ばされたときに、とっさに腹筋に力を込めたが、背中を引っかかれると同時にどうやら衝撃であばらも一、二本持っていかれたらしい。 しかし、痛みに不適に挑戦するかのように、立ち上がる。刃物のような瞳がよりその鋭さを増した。 装備を怠ったのは、やはり失敗だったな、などと想う。―――視界が狭い。

「案山子(かかし)のようにぼうっとすることしか出来ないのでしたら大人しく待っていなさいと先に言っておいたはずです」
「レガート、私を庇って」
「庇う? ふざけないでください。私はそんな甘い人間ではありません。あいつに攻撃を仕掛けようとしてあなたが邪魔だった、だから吹っ飛ばした。それだけです」
 しっかりとした口調でそう言ったレガートの息は、荒い。
 吹っ飛ばされたときに、とっさに腹筋に力を込めたが、背中を引っかかれると同時にどうやら衝撃であばらも一、二本持っていかれたらしい。
 しかし、痛みに不適に挑戦するかのように、割れた眼鏡を投げ捨てて立ち上がる。刃物のような瞳がよりその鋭さを増した。
 今度の眼鏡は強化ガラスで作ろう、そんなことを考える。彼は近視だった。やはり視界が狭い。

「パーシヴァル様!私っ」

 レティシアが何かを言おうとするのを手で制し、パーシヴァルは剣を構えた。

「うるさいぞ、戦う気がないのなら一刻もはやくここを去ることだ」

「レガート、あたしっ」
 シャスタが何かを言おうとするのを手で制し、レガートは杖を構えた。
「うるさいですね、戦う気がないのでしたら早く去りなさい!」

レティシアの瞳には、まだ迷いがある。

「…レティシア。」

彼女の瞳が潤んでいるように見えるのは、気のせいなんだろうか。

「無事にブラス城に帰れたら……オレの手料理を、馳走しよう」

レティシアの顔に光が射す。

「は、はい!!あの、その時は…私もお手伝いを…」

「それは楽しみだ。…では、早い所こいつを片付けてしまおうか」

(該当する部分なし)

レティシアは唇を強く噛み締めた。 真っ直ぐな瞳が細められる。決意と敵意の眼差しが、キメラを睨みつけた。 寒気がするほどの美しさがそこにあった。こういう目をしているときの彼女は、いつもの儚げな美しさとちがって、芯の通った凛然たる美々しさを表す。 いつもの彼女が美の女神なら、こういう時のレティシアは怒りの女神。 剣を構える。パーシヴァルは横からそれをちらと見ると不適な笑みを零した。

 シャスタは一瞬考え、強く唇を噛み締めた。
 真っ直ぐなサファイアの瞳が細められる。決意と敵意の眼差しが、ビヒモスを睨みつけた。
 寒気がするほどの美しさがそこにあった。こういう目をしているときの彼女は、いつもの儚げな美しさとちがって、芯の通った凛然たる美々しさを表す。
 いつもの彼女が美の女神なら、こういうときのシャスタは怒りの女神。
 杖を構える。レガートは横からそれをちらと見ると不適な笑みを零した。

「行くぞ」

レティシアは気合と共に一気に間合いを詰めた。迫る巨体の脛に、思いっきり振りかぶった一撃を食らわせる。多少は効いたようで、キメラが苦悶の声を漏らした。 そのまま手を緩めず、今度は下から打ち上げる。踏み込みと体重を乗せた鋭い攻撃は吸い込まれるようにビヒモスの腹に命中し、

「レティシア、下がれ!」

 神秘の言葉、魔法の力。パーシヴァルによって紡がれた言葉が、一瞬の内に形となった。

「≪凍れる闇よ、死の息吹よ!≫」

 パーシヴァルの瞳が一瞬闇色を映す。次の瞬間、突如、濃密な闇色の霧が現れた。

「行きますよ」
「うん。あたしが先に打ちかかる。レガートは後ろから援護して」
「あなたの攻撃がおとりです。私の攻撃は援護ではなく、とどめです」
「いちいちうるさいわねっ……はっ!」
 シャスタは気合と共に一気に間合いを詰めた。迫る巨体の脛に、思いっきり振りかぶった一撃を食らわせる。多少は効いたようで、ビヒモスが苦悶の声を漏らした。
 そのまま手を緩めず、今度は下から打ち上げる。踏み込みと体重を乗せた鋭い攻撃は吸い込まれるようにビヒモスの腹に命中し、
「シャスタ、下がりなさい!」
 その瞬間、レガートが杖を掲げた。
 神秘の言葉、魔法の力。紡がれた言葉が、形となった。
「≪凍れる闇よ、死の息吹よ!≫」
 レガートの瞳が一瞬闇色を映す。次の瞬間、突如、濃密な闇色の霧が現れた。

 パーシヴァルの術により生み出された、死の霧。冷たい闇。

 それはどんどんキメラにまとわりついていく。 それ自体が強烈な毒を孕んだ冷たい闇は、あっという間にキメラを侵食していった。 キメラは自分を蝕む猛毒から逃れようとあちこちへ逃げたが、遅かったらしい。どう、と激しい音を立ててばったりと倒れた。

「ふぅ……」

 その様を見て、額に浮かぶ玉のような汗を拭うこともせずにレティシアは力無く座り込む。 安堵と疲労に息をつく。

 レガートの魔法により生み出された、死の霧。冷たい闇。
 それはどんどんビヒモスにまとわりついていく。
 それ自体が強烈な毒を孕んだ冷たい闇は、あっという間にビヒモスを侵食していった。
 ビヒモスは自分を蝕む猛毒から逃れようとあちこちへ逃げたが、遅かったらしい。どう、と激しい音を立ててばったりと倒れた。
「ふぅ……」
 その様を見て、額に浮かぶ玉のような汗を拭うこともせずにレガートは力無く座り込む。
 安堵と疲労に息をつく。

「何とか終ったな……」

「はぁ、できれば最初から使って欲しかったですね、あの術」

「うるさいぞ……最初から使おうと思って作戦を立てていた最中、君が大声を出したからこんなことになったんだろう?」

 強い紋章術は詠唱に時間がかかる。時間稼ぎが必要なのだ。その算段をしていた最中にレティシアが襲われ、あえなく怪我を負う羽目になってしまった。 背中の傷が痛々しい。

「何とか終わりましたね……」
「はぁ、もう。最初から使ってよ、あの術」
「うるさいですね……最初から使おうと思って作戦を立てていた最中にあなたが大声を出したからこんなことになったんでしょうが」
 強い魔法は詠唱に時間がかかる。時間稼ぎが必要なのだ。その算段をしていた最中にシャスタが襲われ、あえなく怪我を負う羽目になってしまった。
 背中の傷が痛々しい。

「……申し訳ありませんでした、パーシヴァル様。」

 憎まれ口をたたいていてもパージヴァルが自分を庇ってくれたことをきちんと分かっていたので珍しく素直に謝ってレティシアがパーシヴァルに駆け寄ろうとした瞬間。

「レティシア!」

「!!」

 巨体が、動いた。 眼前に迫る、キメラの巨体。キメラはその強靭な体力で死を免れていたのだ。 怨嗟の眼差しをたたえ、狂ったように息を荒げながら立ち上がる。 そして、近くにいたレティシアに向かってがむしゃらにその腕を振りかざした。

「……ごめんなさい、レガート」
 憎まれ口をたたいていてもレガートが自分を庇ってくれたことをきちんと分かっていたので珍しく素直に謝って、シャスタがレガートに駆け寄ろうとした瞬間。
「シャスタ!」
「え!」
 巨体が、動いた。
 眼前に迫る、ビヒモスの巨体。ビヒモスはその強靭な体力で死を免れていたのだ。
 怨嗟の眼差しをたたえ、狂ったように息を荒げながら立ち上がる。
 そして、近くにいたシャスタに向かってがむしゃらにその腕を振りかざした。

(相手はキメラなのに気を抜きすぎた! 六騎士のオレともありながら!)

 詰めが甘かったと後悔する前に、パーシヴァルは反射的に立ち上がり、レティシアに駆け寄る。傷や痛みなどものともせず、脅威に目を見開くレティシアを救おうと。 足がよろめく。視界が揺らぎ、思ったとおりに動けない。

「やっ……」

(間に合わない!)

 硬直するレティシアを突き飛ばそうと差し伸ばした手が、虚しく空を切る。 レティシアはその光景を見……

(死ぬの、かな・・・・・?)

(相手はビヒモスなのに気を抜きすぎたっ! 神剣の私ともありながら!)
 詰めが甘かったと後悔する前に、レガートは反射的に立ち上がり、シャスタに駆け寄る。傷や痛みなどものともせず、脅威に目を見開くシャスタを救おうと。
 足がよろめく。視界が揺らぎ、思ったとおりに動けない。
「やっ……」
(間に合わない!)
 硬直するシャスタを突き飛ばそうと差し伸ばした手が、虚しく空を切る。
 シャスタはその光景を見……
(ああ、私は、死ぬの?)

 迫る豪腕。 血塗れで自分を庇おうとするパーシヴァル。

「パーシヴァル様、駄目!近づかないで・・!!」

 変なところで冷静な判断をし、そう囁く。

 そうなのだ。口ではいつも自分をからかうくせに、行動が伴わない。 肝心な時にはいつもいつも、何だかんだ言いながら優しいパーシヴァル様。今もこうして自分を守ろうとしている。 そこで、気が付いた。

(私が死んだら、こいつはパーシヴァル様に襲い掛かる――!)

 途端、頭の中がかっとなった。  灼熱。 次の瞬間、言葉は滑らかに溢れ出していた。

 迫る豪腕。
 血塗れで自分を庇おうとするレガート。
「レガート、駄目、近づいちゃ」
 変なところで冷静な判断をし、そう囁く。
 いつもいつもそうなのだ。口でひどいことを言うくせに、行動が伴わない。
 肝心な時にはいつもいつも、何だかんだ言いながら――
 優しいレガート。今もこうして自分を守ろうとしている。
 そこで、気が付いた。
(私が、死んだら、こいつはレガートに襲い掛かる――!)
 途端、頭の中がかっとなった。
 灼熱。
 次の瞬間、言葉は滑らかに溢れ出していた。

「≪光の刃よ、形成せ≫」

(パーシヴァル様を襲わせはしない!)

「≪切り刻め!!!≫」

 その瞬間、光り輝く刃が縦横無尽に舞った。 触れたものを分子レベルで分解してしまう、神々しい程の光の刃。音も無く舞い飛び、それはキメラの羽を、足をを切断した。 バラバラになったキメラの残骸がどうと落ちる。 呆気なく……瞬きするほどの時間でそれは呆気なく手負いのキメラを屠り……  止まらず、周囲の木々を滅多切りにし続けた。

「≪闇の刃よ、形成せ≫」
(レガートを襲わせやしない!)

「≪切り刻め≫」

 その瞬間、黒き刃が、縦横無尽に舞った。
 触れたものを分子レベルで分解してしまう、闇の刃。音も無く舞い飛び、それはビヒモスの四肢を切断した。
 バラバラになったビヒモスの残骸がどうと落ちる。
 呆気なく……瞬きするほどの時間でそれは呆気なく手負いのビヒモスを屠り……
 止まらず、周囲の木々を滅多切りにし続けた。

「やはりこうなってしまったか……」

 パーシヴァルが肩を竦めた。彼の予想通り、レティシアの意識は弾けとんでいた。バタンと派手な音をたて、地面へと崩れ落ちるレティシア。

(全く……こうなるから術を使うな、と言われていたんだがな。まあ、仕方ないか)

 やれやれとため息をつきふらつく足を叱咤して、彼はレティシアに近寄った。

「やはりこうなりましたか……」
 レガートが肩を竦めた。彼の予想通り、シャスタの意識は弾けとんでいた。

-中略-

(全く……こうなるから魔法を使うな、と言っておいたのですがね。ま、仕方ありませんか)

-中略-

 ふらつく足を叱咤して、痛みに顔をしかめて、彼は魔女に近寄った。

「いつもいつもそうなんですよね、貴女は」

 穏やかな笑みを彼女に向ける。

「全く、こんなに手のかかる女性は、貴女くらいですよ」

「苦しい葛藤を強いる私を、貴女はさぞ憎んでいることでしょうね。ですが、私は、それ以上に貴女を」

 皮肉ばかり出てくる口から出てきているとは思えない、優しい声色だった。 パーシヴァルは相手の顔を真っ直ぐに覗き込んだ。術にかけるのではない、ただ、確かめるだけ。 これは儀式。毎度毎度繰り返される、儀式。もしくはくだらない戯事かも知れない。 彼女を落ち着かせ、安心させる為の――

「――愛しています。」

(このあたりは削除されている部分が多いので、該当する文章のみ引用しています)
  • 「いつもいつも、そうなんですよね、あなたは」
  • 彼は、穏やかな笑みを魔女に向けた。
  • 「暴れるだけ暴れて、結局私を殺せない。全く、手がかかる女です」
  • 「苦しい葛藤をあなたに強いる私を、あなたはさぞ憎んでいることでしょう。ですが、あなたは、それ以上に私を」
     皮肉ばかり出てくる口から出てきているとは思えない、優しい声色が魔女をびくんと竦ませた。
     相手の瞳を真っ直ぐに覗き込んだ。催眠術にかけるのではない、ただ、確かめるだけ。
     それは儀式。毎度毎度繰り返される、儀式。もしくはくだらない戯事かも知れない。
     彼女を落ち着かせ、安心させる為の――
    「――好きなのでしょう?」

 そう言って、彼はレティシアに軽く口付けた。 それこそがもう一つの鍵。甘い眠りと目覚めを与える鍵。 口付けても目を閉じず、パーシヴァルはレティシアの美しい顔をそのまま見ていた。レティシアの意識がその瞬間に強くなり、身じろぎをする。 そのまま再び力が抜けたように倒れこんできたレティシアを、パーシヴァルは受け止めきれず二人して地面に倒れこんだ。

 悪戯っぽくそう言って、彼は魔女に軽く口付けた。
 それこそがもう一つの鍵。眠りと目覚めを与える鍵。
 口付けても目を閉じず、レガートはシャスタの瞳をそのまま見ていた。
 唐突に、瞳の色が青く澄んでいく。魔女はレガートの口付けにより眠りに落ちるのだ。シャスタの意識がその瞬間に強くなり、魔女の意識を打ち破るから。
 そのまま力が抜けたように倒れこんできたシャスタを、レガートは受け止めきれず二人して地面に倒れこんだ。

「……ごめんなさい……パーシヴァル様」

 小さく呟いてそう言った彼女は蜂蜜色の髪の毛をなびかせた、いつものレティシア。 先程唱えた紋章術の影響で力尽き、レティシアはそのまま深い眠りについた。 パーシヴァルはやれやれと長い息をつく。

「……全く。」

 私の唇は安くないんですがね、と更に皮肉っぽく呟いて、彼は全身の痛みに、今の状況での自力の帰還を諦めた。 これからの始末書を考え嫌になって、取り合えず疲労回復のため眠っておくことにした。 何もかも忘れて、今だけは。疲れて疲れて、思考するのも億劫だ。 しかし、眠る前に囁く。

「……どうしてそう、貴女と言う人は素直じゃありませんかね」

 限りない優しさと慈愛が込められた一言は、眠るレティシアに聞こえない。

「……ごめんなさい……レガート」
 小さく呟いてそう言った彼女は既に蜂蜜色の髪の毛をなびかせた、いつものシャスタ。
 変貌の影響で力尽き、シャスタはそのまま気を失った。
 レガートはやれやれと長い息をつく。
「だから魔法は使うな、と言ったでしょうに、全く」
 私の唇は安くないんですがね、と更に皮肉っぽく呟いて、彼は全身の痛みに自力での帰還を諦め、魔法の救難信号を出した。
 これからの始末書を考え嫌になって、取り合えず疲労回復のため眠っておくことにした。
 何もかも忘れて、今だけは。疲れて疲れて、思考するのも億劫だ。
 しかし、眠る前に囁く。
「……どうしてそう、あなたと言う人は素直じゃありませんかね」
 限りない優しさと慈愛が込められた一言は、眠るシャスタに聞こえない。

 ブラス城の一角にある特別救護室のベッドに、包帯まみれのパーシヴァルが横たわっている。 その側では騎士団の団長、銀の乙女ことクリス・ライトフェローが、今回の事件の始末書を覗き込んでいた。

「それで…今度の事件はキメラが全てやった、と」

「その通りです、クリス様」

「あの山の貴重な森林が見るも無残に伐採されていたのも、キメラのせいだと」

「…勿論です」

 クリスは呆れ顔で呟いた。いつもの事だった。

 魔導師ギルドの一角にある、特別救護室のベッドに、包帯まみれのレガートが横たわっている。 その側では神剣のリーダー、赤い短髪と眼が印象深いルーシェンが、今回の事件の始末書を覗き込んでいた。
「で、今度の事件はビヒモスが全てやった、と」
「そうです、ルーシェン」
「あの山の貴重な森林が見るも無残に伐採されていたのも、ビヒモスのせいだと」
「もちろんです」
 ルーシェンは呆れ顔で呟いた。いつもの事だった。

「それは仕方のないことだな。お前達に落ち度はない」

 パーシヴァルはそれはもう、明確に嘘をつきまくっている。そしてそれがばれていることを知っていながら、飄々とした態度を崩さない。 そう、それはもはや彼らにとっていつものことで、クリスも慣れたものだった。

「そう言って頂けると救われます」 少しだけ安堵する様子を見せたパーシヴァルに、クリスはしかし呟く。

「ただし、これから「ゼクセン自然保護団体」幹部様がこちらを訪れるそうだ。ここに通すから、お前自ら釈明するようにな」

 パーシヴァルは顔を引きつらせた。

「それは、仕方ないことだな。お前達に落ち度はない」
 レガートはそれはもう、明確に嘘をつきまくっている。そしてそれがばれていることを知っていながら、飄々とした態度を崩さない。
 そう、それはもはや彼らにとっていつものことで、ルーシェンも慣れたものだった。
「そう言っていただけると救われます」
 少しだけ安堵する様子を見せたレガートに、ルーシェンはしかし呟く。
「ただし、これから「森の光と命の水」幹部様がこちらを訪れるそうだ。ここに通すから、お前自ら釈明するようにな」
 レガートは顔を引きつらせた。

「……あなたと言う人は意地が悪いですね。怪我人に鞭打ちますか」

「これぐらいで済ましてやるんだ、感謝しろ」

罰も何も与えないほど、彼女は甘くはない。パーシヴァルはその事を良く知っていた。

「ところで、レティシアは?」

 後から来る嫌なことを忘れるように訊ねたパーシヴァルに、クリスは答えた。

「レティシアならいつもどおり特別養護室で保護隔離中だ。後で会いに行ってやるといいだろう」

「……あなたと言う人は意地が悪いですね。怪我人に鞭打ちますか」
「これぐらいで済ましてやるんだ、感謝しろ」
 追求をする気はないが、そのまんま罰も何も与えないほど、彼は甘くはない。レガートはその事を良く知っていた。
「ところで、シャスタは?」
 後から来る嫌なことを忘れるように訊ねたレガートに、ルーシェンは答えた。
「あの女ならいつもどおり特別養護室で保護隔離中。後で会いに行ってやれ」

 特別養護室。それは単にクリスが皮肉って使った言葉であり、本来は騎士団のサロンとして使用されている部屋のことだ。大方レティシアは、ボルス卿達に今回の件について質問攻めにあっていることだろう。 パーシヴァルは僅かに眉をしかめ、しかし首を振って不快感を追い払った。

「……言われなくても」

 冷静に呟いたパーシヴァルに、クリスは気の毒そうに言った。

「お前も大変だな」

「それはお互い様です」

 皮肉げに呟いたパーシヴァルは、その日一日中雑事による頭痛に苛まれることになる。 しかしそれはいつもと変わらない日常だ。

 今回の任務は後残すところ僅か。 自然保護団体のお説教を延々食らうという、難物を片付けるのみ……  もっとも、これが一番大変だということを、彼は嫌と言うほど知っていたから、密かに嘆息を零した。

 特別養護室。それはシャスタ専用の牢獄。
 レガートは僅かに眉をしかめ、しかし首を振って不快感を追い払った。
「……言われなくても」
 冷静に呟いたレガートに、ルーシェンは気の毒そうに言った。
「お前も物好きな奴だな」
「それはどうも」
 皮肉げに呟いたレガートは、その日一日中雑事による頭痛に苛まれることになる。
 しかしそれはいつもと変わらない日常だ。
 神剣であり――シャスタの監視役であるレガートの……。
 今回の任務は後残すところ僅か。
 自然保護団体のお説教を延々食らうという、難物を片付けるのみ……
 もっとも、これが一番大変だということを、彼は嫌と言うほど知っていたから、密かに嘆息を零した。

原作者・深海めい様

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 このページはことえりか、および各著作者様方の著作権を侵害するものではありません。
 報道、批評、研究目的の引用については著作権法第32条において保護されています。
 ただし、盗作された側の原作者の方から「作品の展示を取りやめるてほしい」という要望があった場合は、即座に公開を停止します。