7月20日
夏休み



「起きてよ!!ねぇ、起きてよ!!…えぇっと下の名前は…けぇぃたぁぁ!!」
可愛らしい女の子の声がする。眠い。日の光が目に痛い。柔らかな布団の上で俺は全く働いていない頭を使って考えた。

起きるか…
眠いから寝てよう


…しかしどちらを選ぶか、なんて考えてる意味は無い。
昨日の終業式を終えた俺は、小学校来の友『宮城 剣一』と共にこのテニス部強化合宿に参加したのだ。
昨日はこの合宿の概要と説明だけで、部活は終わり、その後俺は剣一と打ちあっていた。…それしかやっていないのに…。こうまで朝起きるのが辛いとは…、もう帰りたい… しかし、起きるしか無いだろう。なんせ俺はまだ一年生の身だ、起床命令を無視する事はおろか、ぐうたらと快眠してる事などできないだろう。 俺はねむけまなこをこすり、重い体を起こした。しかしそこには心臓麻痺で夢の世界にとんぼ返りするほどの光景が、俺の目の前にあった。俺に優しく声をかけてくれていた女の子の声、その声の正体が…俺の目の前にいた。 「…もぅ、おはよぉ如月君。もうみんな起きちゃったよぉ。」 …あぁ、これは夢だ、夢だ、夢だ。俺の前に『新倉 里穂』ちゃんがいた!!里穂ちゃんは同じ一年生のテニス部で、マネージャーを努めているが、同時にテニス選手としてすごい技術を持っている。おまけに美少女で、学年おろか学園でトップのとっても可愛い子だ。先輩達の間でもすごい評判で、入学してからこの7月までの3ヵ月、毎日のように告白を受けていたらしい。 そんな子が俺の目の前で、俺を起こしている。あぁー、うれしいんだか、悲しいんだか…。俺は複雑??…微妙な面持ちでその場を過ごそうとした。「…お、おはよお、新倉。…どうしてここに??」…と聞いたが、それと同時に一つ俺の頭に流れ込んできた情報があった。(俺は今、里穂ちゃんとふたりっきりだ…)体が熱くなる、心臓がバックンバックンいって止まらない。「如月君が朝の集会にいなかったから、部屋に見にきたら…」…集会??……!!!!!寝坊じゃないか!!俺は興奮しまくった体から、血の気がひいて行くのが感じられた。まずい、俺は…先輩にしごかれる…。気が付けば、隣で寝ていた野郎どもの布団が、キレイにたたまれていた。

朝の興奮とは違った、起床後の公開処刑が終わり、…死にそう…。 あの夢のような一時はやはり夢だろう。俺は起きて早々山米先生に怒られ、先輩達にしごかれ、部活の特訓よりも厳しい朝を終え、朝食をみんなと一緒にとる。「しっかしやるなぁ〜お前、合宿初日から寝坊なんてすげぇよ、」笑いながら剣一が言う。「ホントだぜ、おめぇはすげぇ一年だよ如月慶太。」同じ一年の『空砂修吾』が言う。「…起こしてくれよ、お前ら」といおうとしたが、あの夢の様な一時を思えば、…「起こさなくてありがとう、みんな!!」と言ってしまった。「なんだお前、狙ってたのか??ホント」…とりあえず俺は飯にありつく為に、ポットのお湯を、カップラーメンに注いだ。日精カップラーメン。カップラーメン界の大手で、毎年黒字で事業は拡大していっていてこの世の成功会社の一つだ。"安価で、手軽に食べれる"がキャッチコピーで、そのキャッチコピーの通り、安い値段と本格ラーメン顔負けの味は、世間で圧倒的なシェアを誇る理由だ。剣一は中華丼の食券を買っていた。そもそも驚いたが、ここは一般世間の合宿所の顔の他に、民宿の顔も持っているのだ。本名(??)は『民宿・良好』。稼ぎは少なそうだが、設備は(敷地は)とても大きく、一流シェフが腕を振るって作る料理が近所でも有名みたいだ。…まぁ、この辺はほぼ知らない土地に近い(ってゆうかそう)ため、あんまよくわからないが…。楼桜(ろうおう)学園は、私立高校。施設は最高に凄く、学食では生徒全員を収容できる800席を(無駄に)完備、全校生徒は約700人ぐらいで、一学年およそ230人ぐらいだ。校舎は5階建てのキレイな作りで、設計も一流設計士が手掛け、図書室はそこいらの図書館に大きく差をつける1000万冊を所有、エレベーターはもちろんエスカレーターもあり、一流ホテルやデパートに負けず劣らずな造りだ。資金力もあり、とりあえず無敵の楼桜と呼ばれている。「あれぇ??如月君カップラーメン??朝からすごいねぇ。」背中越しに声がした。俺はゆっくり、声の元へ振り向く。同じく一年の『田中 祐』だった。「…イチオウ深夜族だったんで…。」…変な答え方だ。俺は田中とは5月の遠足で、初めて出会った(イチオウ同じクラス)。田中は誰にでも気安く声をかけ優しいとみなに評判で、密かに人気がある。顔も並上で、まぁ悪くない。満杯に注がれたカップラーメンを持って、俺はその場を離れようとした。…が、「ねぇ、一緒に食べない??」と再び背中越しに声がした。その時何故か知らないが、まるで俺は告白を受けたような感覚に陥り、少し震えながら後ろを振り向く。そこには、多少顔を背けている田中の顔があったが、それを見て我に帰る。「悪いな、俺は剣一達と食べるんだ。お前も一緒に食うか??」俺は落ち着いて言い放った。「…そっか、じゃあいいや。ばいばぁぃ。」そういって、田中は去った。後には俺とカップラーメンが残った。天上につけられた扇風機が、カップラーメンからたつ湯気をはらっていった。

「ふぁーごちそうさまっと。やるねぇ、けっこううめぇよ。この俺の舌を唸らせるなんてなかなかだぜ。」っと剣一が椅子に反りながら言う。「一般以下の舌がよくいうぜ」と修吾。確かに。剣一は味オンチの気がある。以前何かの食べ物選手権で、プロの作った料理を剣一は「素人が作った最低の料理」と全国ネットの生放送で言い放った、輝かしい功績を残している。あと、今は無いが以前コイツはひどいマヨラーで、全ての食べ物にマヨネーズをかけて食べ、見るも無残な料理に仕立てた男である。…思い出すだけで、もよおすものがある…。「…ってまだくってんのかよ雅治??」俺は4人掛けテーブルの向かいに座って、サンドウィッチを食べていた『塔矢 雅治』に声をかけた。「…君達と違って僕の食道は細くて、胃の許容量が少ないんだ。」…とまぁ、難しそうな御託を並べる。「ったってたかがパン2枚だろうが!!」剣一も参加する。『民宿・良好特製フルーツサンド』は、この食道の人気メニューで、連日の争奪戦があのパン(ごとき)に起こっているらしい。まぁ、今は貸し切りだからそんな事は無いが…。雅治いわく、「フルーツにはビタミンCが含まれているから、肌にもいいし美容にもいい。また、赤血球細胞内のヘモグロビンから一酸化炭素を引き剥がす保護的な効果もあるし、壊血病の予防にもなる。他にも…」…だとか。雅治はおとなしく、ふざけあいにも参加しない極めて真面目な生徒だ。眼鏡こそかけていないが、俺達からすれば究極の優等生だ。なんせ、成績も学年で1位を争い、通信簿はオール10の馬鹿だ(とりすぎってことで。)テニスもまぁまぁうまく、後衛を任せていても安心できる男だ。ちなみに俺は前衛だが、未だにうまくない。剣一は後衛で、俺とのペアだ。アイツ曰く"ゴールデンペア"とほざいている(先輩達にボロボロに負かされたが…。)一年男子は俺達4人と、後3人。『福島 守』と『森岡 忠史』、『木村 翔』、3人ともテニスがとてもうまく、先輩達に気に入られていて、俺達の敵である。木村はとても優しく、さりげない仕草がとてもかっこいい男だが、問題は福島と森岡だ。奴等は、うまい・かっこいい、そこまではいいが実力主義で、弱いやつは要らない…という考え方なのだ。だから俺達のグループは部に必要ないというこんたんで、ほぼ毎日衝突している。しかし、今回の部活強化合宿には参加して無いので、俺達にとっては良い環境なのだ。うちの部は一年男子は少なく、他の部に男子を取られていてその分女子が多い。一年女子は15人いて、実をゆうと俺はまだ全員覚えていない。人覚えの悪い俺が、たかだか数ヶ月で覚えられるはずが無い。なんせクラスの半分も覚えていないのだ。今覚えている限りゆうと、『田中 祐』『新倉 里穂』『浅海 奈央』…だめだ、可愛い子しか覚えていない、やめとこう。里穂ちゃんか…。朝の夢のような記憶が再び甦る。彼女の吐息がかかるかかからないか、そんなそばまでいたのかいなかったのか。とにかくあのキレイで吸い込まれそうな瞳が、僕のそばにあった事を考えると再び興奮してくる。…そして練習が始まった。
ラケットがボールを打ちぬく爽快な音が、この6面コートに響いていた。この民宿は山に囲まれた立地の為か、何度も言うが敷地は馬鹿に広い。おまけに都会のように、車の音や、人のざわめき等といった、公害音が何一つ無い。清廉とした土地に響くテニスの音が、なにより気持ち良い。なんせ自分がこの音を出して、いや、作っているのだ。相手側のコートから、先輩が軽くストロークして球出しをしていて、その球を俺ら前衛は、レシーブ、ローボレー、ボレー、スマッシュの順で返していく。レシーブとは、ただボールを相手コートに 返すだけ。ボレーとは、ボールを空中で処理する事で、ローボレーとは地面すれすれのボールをネットギリギリに打ち返すことだ。それだけの練習、…っとは思っても、やはり上手く返せない。しょっちゅうネットに引っかかってしまい、その都度先輩達から罵声を浴びる。俺と修吾は(剣一も)テニス初めてまだ3ヵ月、…って言い訳にもならない。なんせ雅治も始めて3ヶ月なのだ。…何故俺は下手くそなのか。すると剣一が「おぃおぃ慶太、向こうで新倉ちゃんが今うってるぞ。」里穂ちゃん。また朝の光景が甦る。俺達のいる『男子コート』のフェンスの向こう側の『女子コート』で今、里穂ちゃんがスマッシュを打っていた。肩までかかる柔らかな髪を風になびかせながら、スマッシュを決まる里穂ちゃんの姿はまさに天使以上、俺の心は集中砲火を浴び、もうボロボロ。脈拍はバクンバクン、苦しくてしょうがない。白い体操着から膨らむ胸に目が行ってしまった時点で、俺は失態に気づく。「…ゃばっ!!」里穂ちゃんと目が合った!!胸に目がいっているのを見られた??…まずい。俺は思わず目を反らし、再び練習に向かった。「どうした如月!!身が入って無いぞ!!」球出しの『佐藤 拓也』先輩に怒られ、我にかえる。…駄目だ。気が散って、集中できない。今日は軽く流すことにして、俺はひとまず落ち着こうと努力した。

ランニングが始まった。長さ約7kmの『龍線川』に沿って、往復14km。走るのが嫌いな俺にとっちゃ、この練習は地獄だ。やってられない。「ハァ、ハァ、、」走り初めてしばらくしないうちに、息が乱れた。我ながら情けない話だ。長年の運動不足が、ここにきて大きなカウンターを放ってきた。しかし、「ハァハァハァ、、、」…雅治はもっと乱れていた。コイツは高校入る前から毎日ランニングしていると言っていたし、体も鍛えていると言っていた。…どんだけの体力の無さだよ…、とつくづく思う。そばを走っていた剣一に語りかける「剣一、お前疲れないのか??」「ばかだなぁ、そうやって無駄に話しかけるから疲れるんだよ。」…確かに、一里ある。「にしても、部長はすごいよなぁ。」と修吾。「…ぇ…??」「だってよぉ、、あんだけのペースで呼吸乱れて…無いんだぜ??」俺は先頭を突っ走る『霧島 玲佑(れいすけ)』先輩を見た。確かに呼吸一つ乱れて無いし、そのクールな面持ちはあいかわらずの美形である。霧島先輩と言えば、あのイケメン雑誌『ジェノン』に1ヶ月近く載った有名人でもある。テレビなどでよく見るアイドルなんかじゃ勝てないくらい、霧島先輩はかっこよく、毎年行われる「イケメン決定No.1」にここ数年一位に選ばれている。(…やっぱり里穂ちゃんには、霧島先輩がお似合いかなぁ…。)…やはり俺なんかじゃ、足元に及ばない。などと思いながら、重たい足を必死に動かしてランニングを続ける。俺の心からはもう、やる気は無くなっていた。

朝の練習だけで、へばりそうだった。ただいま湖のほとりで休憩中、龍線川の源泉だ、と思う。今の俺には考える力が無いな、余計な、いや、ゆとりが無い。とりあえず無駄な労力の消費は避け、ただ休む事に専念した。澄んだ美しいエメラルドグリーン、いやブルーか。そのキレイな彩色に揺れる水面に映える太陽が、不思議と美術作品のように見える。しかし、この景観をブチ壊す言葉が俺の耳に流れ込んできた。「…こんな時こそ女を犯してぇよな!?」…先輩達だ。よくもこの疲れを解すこの時間に、無駄に下ネタトークを繰り広げられる…。思春期の男ならばしょうがないかもしれない。不思議と興味を持ち、知識を得て、それを友達同士でブチまける。そんな頃もあった。いわゆる発情といったやつだが、その熱はもう冷めた。今俺達は、好きな歌手やアイドルの話、昨日見たテレビの話などそれなりに普通の話をしている。…しかし今そんな会話をする気力も無いが…。そんな時、「みなさぁ〜ん、注目です」ともなく声がしてきた。里穂ちゃんの声…。「水分補給です、飲んでください。」…声のする方を見れば里穂ちゃんがいるではないか。白い体操着に少し汗ばんだカンジ、多少乱れた呼吸、その全ての要素だけで、この場の男達の気力を高め、この場の温度を10度近くあげた(気がする)

スポーツドリンク、アクアリアス。周りでゴクゴク音が聴こえる。乾いた体に瞬速浸透、と書かれた青いラベルがのどを鳴らし、欲を高める。細かいとこまで計算された商品だと思える。俺も周りの流れに乗じて、飲む、飲む、俺の食道を通る感触・・・。気分がいい。それと同時に(俺は変体か??)と疑問が湧いた。(続き執筆中、)








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