サー悶ミステリー:3、密告者

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   ヤスオとタカシの2人は金に困って、かねてから何かボロい荒稼ぎの口はないものかと 考えていた。 だが東京は警察の取り締まりの目が厳しくて、なかなか悪事を働くチャンスがない。 そこでヤスオの発案により冬の間はシーズンオフの高原の温泉場に行って一仕事することにした。 別荘住まいの金持ちを物色して、強盗に入ろうというのだ。幸いヤスオはオンボロだが車を持っていた。

   アノラックやサングラスでスキー客に化けた2人はその車を運転して東京からさして遠くない東北 の温泉場に向かった。ところが目的地近くの田舎道で登山服姿の学生アベックに車を停められてしまった。 女のほうが靴擦れを起こしてしまい歩けないのだという。ヤスオは渋い顔をしたが、お人好しのタカシが あまりに気の毒がるので仕方なく乗せてやることにした。
   「猟をなさっているのですか?」
   男の学生が物珍しげに言った。後部のシートに毛布でくるんでおいてあった猟銃を見つけられてしまったのだ。
   2人は温泉場の入り口でアベックと別れ、別荘地帯のとある土産物店の前で車を停めた。
   「あの山の中腹に見える大きな別荘には誰が住んでるのでしょう?」
   ヤスオは土産物を買うふりをしてさりげなく聞いてみた。店の主人は人相の悪い2人組の 顔を見て胡散臭そうな顔をしたが、それでも教えてくれた。その別荘にはとある金融業者の老人が若い 後妻と2人きりで隠居暮らしをしているとのことであった。

   その夜の午後11時、2人は先の別荘の夫婦が寝静まった頃合を見計らって別荘に侵入した。 車は近くの森の中に停め、予め電話線も切断しておいた。
   黒覆面の2人は猟銃を構えて奥の寝室へ踏み込むと、目を覚ました後妻に麻酔をしみこませたガーゼを かがせて眠らせた。その気配を感じてか夫の老人も目を覚ましてしまったが、すかさず猟銃で殴りつけて 昏倒させた。
   こじ開けた金庫の中には現金800万円が入っていた。ヤスオは用意してきたアタッシュケースに その札束を詰め込むと、老人を昏倒させる際にテーブルから落としてしまった置時計を見て不適な笑みを浮かべた。
   「おいタカシ!その後妻にかがせた麻酔がきれるまでまだまだ1時間はかかるだろう。 そのときのために、時計の針を午後10時に合わせて止めておくんだ。そうすりゃ犯行時刻を10時だと勘違いし、 オレたちゃその時間は宿でいっぱい引っ掛けてたんだからアリバイが成立するって寸法よ。」
   そのうえヤスオは念には念を入れて逃げる前に別荘のまわりを確かめた。 万一目撃者がいてはこの計画も台無しだからだ。しかし、降り積もる雪の上を歩いたような跡はまったくなかった。

   2人は林の中で別の服に着替えると、すぐに山を下りた。そこまでは万事うまくいっていたのだが、 麓に来たとき車がエンコしてしまった。エンジンが故障してしまったようだ。
   「ちっ、ついてねぇや。」
   ヤスオは車から出て修理を試みたものの、ちょっとやそっとでは 直りそうもなかった。
   「それじゃ、オレがひとっ走りガソリンスタンドでも見つけてくるよ。」
   そう言ってタカシは駆け出していき、近くのガソリンスタンドを探してあてて戻ってきた。
   2人はひとまず車をそこの宿直員に預け、3kmほど先の駅まで徒歩で行くことにした。

   1時間近くかかってやっとのことで2人は駅に着いたが、そこには思いがけない事態が待ち受けていた。 待合室で終電車を待つ乗客に、駅の助役が強盗事件のことを説明しているのだ。
   「・・・ということでな。たった今警察から連絡があったばかりなんだよ。」
   「へぇぇ!そんだらあの因業親父の別荘から800万円の金が盗まれたっつうだか!」
   乗客の1人がすっとんきょうな声をあげて驚いている。
   「そうだ。警察の話によると、ホシの見当はもうついているらしい。その犯人っつうんは 東京ナンバーのオンボロの車に乗った34,5才くらいの男でな。スキー帽にサングラスをかけ、アノラックを着てアタッシュケースを 下げているっちゅうことだよ。犯行時間が11時くらいっつってたっけかな。強盗のヤツ、なんでも 奥さんのほうに麻酔をかがせ、旦那のほうは殴って気絶させたとかいう話じゃよ。」
   その会話が聞こえたヤスオはギョッとした。何しろその犯人像はまさしく自分 そのものであったからだ。思わずアタッシュケースを落としそうになってしまったくらいだった。
   警察では犯人を2人組だと思っていないようだが、それ以外の点については すべてばれてしまっている。あれからまだ2時間とたっていない。それなのにことごとく犯行が明らかにされてしまっている。 こんな薄気味の悪い話があるだろうか・・・
   「ちくしょう!誰かサツに密告しやがったな!」
   ヤスオは歯軋りした。密告者がいるとすれば2人がこれまでに出会ったうちの誰かということになる。
   「いったいどこのどいつだ・・・。くそう、まさかあのアベックか・・・」
   タカシは自分が助けてやったアベックを疑った。しかし、そんなことを邪推するより、 今はなんとかこの状況からうまく逃れなければならない。ヤスオは考え込んだ。そして、ふと何気なくポケットに 手を入れると、ハッとした。ヤスオは蒼くなった。
   <手帳・・・手帳がない。>
   その手帳には今回の強盗計画が記録されている。そればかりか、 さらに奪った金を1人占めするために相棒のタカシを殺す計画まであったことをしっかりと記録しているのだ。
   <しまった、手帳は車の中に脱ぎ捨てたアノラックのポケットに入れたままだったんだ・・・>
   もはや彼らに逃げ切る術はなかった。2人が緊急警戒の非常線にひっかかって逮捕されたのは それからまもなくのことであった。

   さて、ヤスオの予想通り警察は密告者からの情報によって今回の強盗事件に関する情報をキャッチしたのだった。 では、果たしてその密告者とは誰だったのであろうか?


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