睫

テーマは大正。
そしてまつげの長い女性。
髪の毛も腰につくくらい長くて
ブラウスとスカートを清楚に着ていて
いつもあの橋で
駅を見つめている。
あの人は許婚を待っているんだという。
いつもいつも待っていて
黒髪にべっ甲の髪飾りがはえていた。
髪をかきあげる細くて白い珊瑚のような指。
雨の日も雪の日も日照りが続く日も
通り過ぎるだけで。
7月に東京まで出掛けなくてはいけない時
話しかけようとした。
そうしたらあの人はいつもの場所にいなかったんだ、
冬に戻ってきた時、
もうあの人はいなかった。
あの人はうまれつき体が弱かったんだと聞く。
橋の下のかはらに積もる雪が
あの人のしろむくみたいでとても綺麗だった。
昔の事を思い出しながら
列車に揺られて冬に戻って来た事を後悔せずに
鞄から出した
煙草に火をつけてべっ甲色の車に乗って
あの橋を通り過ぎる。