小説サークルAQUA会報3号掲載
| 彼の地より来たりしもの 光と影を産みし物 ーそのもの、大地に混沌と災いをもたらさん・・・ |
その前の月は日照りが続いた。
この月はというと・・・先月とはうってかわった大雨が毎日降っていた。
「今月にはいってからというもの洪水はおこるわ、川は氾濫するわ、しまいにはせっかくたてた俺の家までながされてしまった・・・!」
「まぁそうおこるなよ。家が流されたのはおまえだけじゃないし、家族が無事だっただけでもよしとしようぜ」
さきに文句をこぼした斎迦(さいか)は、自分をたしなめた楽維(らい)がこの天災によって妻子を失っていることをおもいだした。
「・・・すまない」
「まぁいいさ。すんだことだしな。それより、いつになったらおさまるんだろうな、この嵐は」
酒をちびりと飲んで楽維は窓のほうをみた。
「はやく綺羅(きら)たちを弔ってやりたいのに・・・いまは、ここから動くこともできない・・・」
そういってまたちびりと飲んだ。綺羅とは楽維の奥方のことだった、
斎迦たちは天災で家をうしなった人々を収容する場にいる。
(本当にこの異常なまでの気象の異変は何なのだろう。今までは一度たりともこのようなことはなかったのに・・・)
斎迦はぎりっと奥歯をかみ締めた。楽維の表情はうつろだった。
まわりで子供たちが走り回っているこえに混ざって、ある噂が聞こえてきた。
「おい、聞いたか?」
「なにをだよ」
声の主は若い男のものだった。
「この2・3ヶ月の異常気象はあいつのせいらしいぜ」
「あいつってあの?」
「あぁ。あの伝説の地からきたってほざいて牢獄に入れられたやつだよ」
「そういえば、そうだよな。あいつが脱獄してからだもんな、こんなになったの。でも、十かそこらのガキだったんだろ?」
「まぁな」
そこまで聞いて斎迦は盗み聞きするのをやめた。
娘の瑠夏に呼ばれた為に・・・。
瑠夏が斎迦を呼んだのは伝説の歌を聞きたいからだった。
斎迦は頼まれて、断れずに歌い始めた。
| 彼の地より来たりし者 光と闇を産みし者 彼の者 天地を自在に操りしこと神の使いとおもわれし 荒れ野を緑の豊かにすることも 富し地を荒れ野にすることもまたたやすい 片手に富と幸福をもたらすもの 片手に罪と地獄をもたらすもの ーそのもの大地に混沌と災いをもたらさん |
歌い終わったときにはあたりに人だかりができていた。
それもそのはずだろう。斎迦はこのくに一の歌い手であるから・・・。
その人だかりの中に斎迦を睨む小さな瞳があることに斎迦はまだ・・・気づくよしもなかった