天の与えしモノ -第弐話ふたりのこども-

小説サークルAQUA会報4号掲載

  斎迦を見つめる小さな瞳の主は十かそこらの少年と少女だった。
  「あれ・・・時雨かなぁ」
  「そんなわけない。時雨は髪だって長いし、色眼鏡だって」
  「でも・・・時雨ににてる・・・」
  そうして少年はくちごもった。
  時雨・・・異端の地からきた父親。しかしそれは少年たちの眼から見た場合であって時雨や斎迦にとっては、少年たちの住む地こそ伝説の地であった。
  「ねぇ、緋炎・・・」
  少女が口を開き、言った。
  「会ってみればわかる」
  そして少女は人垣の中の斎迦に向かい走り出した。
  そして緋炎と呼ばれた少年もあとをおった。

  その声はいきなりきこえてきた。
  「時雨ぇっっっっっっっ!」
  懐かしい名前に斎迦は時雨が帰ってきたものだと思い、振り返ると十くらいの歳の少女が抱きつきてきた。
  そして、あとから追ってきたらしい少年にむかい斎迦には予想外の言葉を吐いた。
  「ほら、やっぱり時雨だったじゃない!」
  斎迦は驚き、そののち双子の兄、ただいま行方知れずの時雨と間違えられたことに気がついた。
  それを伝えようと口を開きかけたときに後ろからの声に振り返った。そこには、ほんものの時雨がたっていた。
  「ありゃ?おまえらどうしてここにいるんだ?緋炎、氷澪(ひょうれい)、かあさんはどうした?」
  時雨はいなくなったときと同じ色眼鏡に短い髪。
  その時雨に二人が「とうさんっ!」って駆け寄った。
  唖然とした斎迦に時雨は困ったようにほほえんだ。

  「ほら、緋炎、氷澪。とうさんの弟に挨拶はしたのか?」
  ふたりはふるふると首をふると時雨の影からぺこっと軽く頭を下げた。
  「にいさんが父親かぁ」
  「おまえだってそうだろ。瑠夏ちゃんおおきくなったねぇ」
  ちょうどやってきた瑠夏に時雨は言った。
  「だって、おじさまが旅に出たのって瑠夏が産まれる前の話でしょ?」
  そうして、昔話をはじめたときだった。

  楽維がふらふらとこっちに向かってきているのだ。
  遠くてよくわからないが手には、なにか光るものをもっているようにみえる。
  時雨は楽維をみつけて手を上げた。
  「おっ。楽維じゃないか。久しぶりだな。まったく天災とはいえひどいめにあったよなぁ」
  時雨は気づいていないのか笑いながら遠くの楽維に話し掛け、こっちにくるように手招きした。
  斎迦は、時雨の声で楽維に気がつき、そっちをみた。
  同時に血があふれた。

  「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 
誰かの平凡すぎる叫びが聞こえる。
  瑠夏は、手に乗せていたグラスをおとした。
  緋炎と氷澪はくすくすとわらっている。
  時雨は楽維を見つめている。
  そして楽維は・・・動かずに震えていた。

  さきほど斎迦が楽維のほうを見た瞬間、楽維はなにかにはじかれるかのように、斎迦めがけて突進してきた。
  そして、斎迦を刺した。
  「楽・・・維・・・なぜ?」
  「あ・・・わからな・・・からだ・・・かってに・・・」
  楽維の言葉は文になってはおらず意味のわかりにくいものであったが、時雨はなにを感じたのか時雨と氷澪をつれていった。
  斎迦の意識はそこでとだえた。

  ー一方、時雨はというとー
  「緋炎、氷澪」
  二人の肩がびくっとうごいた。
  「おまえたちだろ。楽維を操って斎迦をさしたのは」
  「だって・・・」
  氷澪はそういうと緋炎とうなづきあって互いの額をぶつけてなにかをいった。
  それは、どこかの古代の呪文みたいなもののようにもおもわれた。
  氷澪がそれを唱え終わると二人は一瞬ひかりにとらわれた。そして、ひとりの少年があらわれる。
  『だって、あいつはかぁさんをころしたんだ。あいつだけじゃない。この大陸のすべての人間が・・・』
  時雨は少年の頭をぐしゃぐしゃっとなでた。
  「でも、とうさんと約束してただろ?ひとつ。あの大陸からでない。ひとつ。もう二度と『焔』にはならないって」
  焔は声を出して泣きつづけた。

  ー焔
   ある大陸のあるムラである条件のそろったときに産まれた双子は、ある呪文をとなえると一人の人間になる。
   その一人名を焔という