天の与えしモノ -第参話 焔-

小説サークルAQUA会報六号に掲載

  医者がやってきて斎迦手当てをはじめた。
  ここは家を失ったものたちを収容する場なので悲鳴を聞きつけてやってきた野次馬の中に医者がいてもおかしくはない。
  「お父さんっ!お父さんってばぁ・・・ねぇ」
  瑠夏は泣きながら父・斎迦にどんな小さな声でも、行動でもかまわないから生きているということを確認できるものをもとめていた。
  斎迦の周りの人物たちはほかの野次馬から見ればいような光景に見えた。
  涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら父になにかを求める少女。
  隣で小刻みに震えながら自分を抱きしめている青年。
  なにもいわず、ただ黙っている医者。
  そして、消えてしまった、人が刺されたというのにわらっていた双子。
  なにかがとても奇妙な空間をつくっていた。
  まるで、そこだけきりとってしまったような。
  その場所は言葉では言い表せない空気に満ちていた。

  時雨は焔が泣き止み落ち着くのをまって切り出した。
  「さぁ、焔。とうさんに話してくれるよな。なぜ、楽維をあやつって斎迦をさしたのか。
   それにどうせ、この異常気象もおまえのせいなんだろ?」
  時雨は疑問ではなく確認の為に聞いた。焔が人間や気象を操れるということを時雨はしっていたのだった。
  焔は少しためらったあとで小さな声できりだした。
  「とうさんが大陸から旅立った日、覚えてる?」
  「あぁ、1ヶ月くらい出稼ぎにいくっていって出ていったときだろ?」
  「うん・・・その次の日だったんだ。いきなりここの軍隊がやってきたんだ。なんでも、ここの国の偉い人が伝説とかをよく信じるひとらしくって、その人が伝説の歌の存在を知ったんだって。
  そのひとは、この国を滅ぼされたくなくって歌われてる人物と共通のある人全部を抹消しにきたんだってみんないってた。
  その伝説の人物っていうのは焔のことだから・・・双子を殺しにきたんだよ。そうすると緋炎と氷澪はころされる・・・。
  僕が消えてしまう・・・。だからかぁさんは緋炎と氷澪にいったんだ。
  『焔になってここからにげなさい。ひとりならきっとばれないから。とうさんは自分のくにで働いてるからそこに行きなさい。
   そこまで行けばいっと、とうさんがなんとかしてくれるから。場所わかるわね。かあさんもあとから行くから、ね。』
  そうして、かぁさんは俺たちをにがしてくれた。
  でも、いくらまってもかぁさんはこない。だから、政府の人にいったんだ。俺が焔だって。そうすればなにか動きがあるだろうとおもって。
  でも、うそつきよばわりされただけで終ったから、どうしようっておもってたら牢屋番の人が教えてくれた。
  かぁさんも、友達もいんなころされたんだって。焔に該当する人がいないからみんな殺しちゃえってその偉い人が言ったんだって。
  だから、その偉い人にも悲しんでほしかった。だから、異常気象をおこしたの。斎迦さんを刺したのはあの歌を歌っていたのを
  聞いてつい、カッとなっちゃって・・・。あの歌がなかったらみんな殺されることはなかったんだなって思ったら・・・。
  楽維さんをつかったのは、あの人呆然としてて操りやすかったからってだけで・・・・」
  焔はつたない言葉を一生懸命につないでいた。白い頬を透明なしずくが伝う。
  時雨はそんな焔をぎゅっと抱きしめた。
  「ごめんな。そんなことになってるとは思わなかった。つらかっただろう?もう思いっきり泣いていいんだよ」
  焔はしゃくりあげながら呪文を呟き二人に戻ると時雨にだきついて声の枯れるまで泣きつづけていた。

  ー1週間後
   斎迦はぎりぎりで急所を免れていてなんとか助かりそうだった。
   楽維は罪の意識にさいなやんでいるが、斎迦の動けぬ間は瑠夏の面倒をみることで、すこしでも斎迦にむくいることができたらと
  思っている。
   時雨は、子供かわいさにあの悪夢(もどき?)を闇に葬ろうと決心し、子供たちは瑠夏について、斎迦の見の回りのことを
  てつだっていた。
   悪夢のはじまりだったあの気象も正常なものとなり、すこしづつだが、確実に平和が浸透していた。

   時雨は一通りの雑務が終ると、海の見える丘に妻・零緋の墓をつくった。
  墓の中は空っぽだが、時雨をはじめとする人たちにとっては、零緋はここにねむっているのとおなじなのだ。
   ある午後、時雨は零緋にむかい言った。
  「僕と、子供たちはこの国に移り住むことにするよ。思いでのある場所には戻りたいが、あの大陸にいるとまた、あの子達が
  ねらわれる可能性があるからね。せっかく君が命をかけてまもったのに。ここなら見つかる心配もすくないしね。
  あの子達は今度は僕が命をかけてまもるよ。僕と君に天から与えられた宝物だからね。じゃあ、またくるね」
   そうして背を向けた時雨が零緋に会いに来ることは二度となかった。
   焔のことがどこかから政府にもれたせいで政府に抹殺されたのだった。緋炎・氷澪とともに・・・。

天の与えしモノはすべてニンゲンに抹消された
天はそれを許さず最後の恐怖を与えた。

-fin-