水の中は泡だらけで、どちらが上かも分からなかった。ショックで空気は吐いてしまった。その上、なんてことだろう、森くんの手まで離してしまったらしい。泡で何も見えず、私はひたすらもがいて、彼の手を探した。
突然、何か固いものにぶつかった。でも水が冷たくて、痛みは感じない。あばれているうちにあちこち何度もぶつかって、いくらもがいても、なぜか逃げられない。
そして、水を飲んだせいでつんと突くような頭痛がしてきた。どちらが上か、もっと分からなくなってくる。
私は森くんを探そうとして、何かから逃げようとして、悲鳴を上げかけて・・・。
じゃら、と何かを蹴る感触。それに両足がつくと、平衡感覚もすぐに戻った。
種明かしは、あまりに間抜け。
ぶつかったのは、ただの川底。
立ち上がってみれば、水は胸まであるかどうか。
極々、浅い川・・・。
見上げれば、目の前に、ずぶぬれになった森くんが、呆然として立っていた。髪も服もすっかり貼りついてしまって。髪の先から水滴を落としながら、心底意外そうな顔で、私を見ていた。
私も、ちっとも予想しなかった事態に、ただせき込んでいるだけで精一杯だった。
「・・・ずぶぬれだよ。」
せきが収まって、彼を見つめて、私は漸く呟いた。
彼は、しげしげと自分の有様を眺めて、ふと気づいて、
「君もね・・・」
彼も呟くように言った。
喉で言葉が詰まってしまって、お互い眺めあったまま言葉が出ない。
先に、ふっと笑ったのはどちらだったか。初めはくすくすと控えめだった笑い声が、間もなくあたりに響き渡る。
あんまり笑って苦しくて、またせき込みながら、それでもお腹が痛くなるほど笑った。
盛大な水音と笑い声に、橋を通る人が怪しんだらしい。気がつくと、おばさんが一人、橋の上から怪訝そうに二人を見ていた。それが尚更おかしくてたまらない。
「何やってるの。」
しびれを切らしたおばさんが、怒るような口調で言っても、笑いっ放しでとても答えられない。
それでも去ろうとしないおばさんに、かろうじて彼が、
「大丈夫ですよ。」
と言った。
私も肩をふるわせて笑いながら、何度も頷いた。