なさけなくささやかなあとがき

ひとつ、是非伝えておきたいちょっとすてきなニュースがあって、実は、この日私が本屋で落とした財布、そっくりそのまま戻ってきたんだ。あの日の四日後だったか、新宿区の警察からはがきで通知が来て、びっくりしながらいそいそと取りに行ったら、ほんとにそのままお金もコンサートのチケットもちゃんと入っていて、それなのにその拾ってくれた人はお礼のお金は要りません、って言っていたのだから。私はほんとに嬉しくてどきどきしながらその人に電話してお礼を言った。それに、あとからよく考えてみると、財布の中の献血手帳に書いてあった住所から私に連絡が来たようで(他に身元を書いたものは入ってなかったから)、こんな形で自分に巡ってくるとはね、と思って不思議なような、現金だけど少し嬉しいような気分がした。
白状してしまえば、実はあの日起こった出来事のほとんどは全然解決してないんだ、まだ。あの変なメールを送ってしまった彼とはまたちょっとあって絶交状態になっていて(もう何度目だろう?)私は今度こそダメだと思っているし、紀伊国屋で買った「ニーチェ入門」は半分くらい読んだあたりでずっと机の上に置きっぱなしになってるし(これはもう読む気がなくなってるって証拠なのだけど)、ひょっとして近所にスズメバチが巣を作ってるんじゃないかと心配だし(冬になると毎年山茶花に来ていたから)、もうほんとに自分でもなさけなくてしょうがないような事態なんだ。
でも、いやだからこそ、あんな新宿の真ん中で落ちてた財布を拾って届けてくれた人がいたんだ、と思うと嬉しくなってしまって。あの明かりの下には誰かの仕合わせがあるに違いない、とか言ってもいいと思えたんだ。そう思わない?

そして、今度はいくら謝っても謝りきれないようなことがあって。もう隠しても分かる人には分かるだろうから仕方ないのだけど、私はあの日の出来事を書くにあたって、実はある私の大好きな小説にすごく影響を受けてというかほとんど真似して書いたんだ。それも、ちょっとすてきなレプリカが出来たのだったらまだいいかもしれないけど、見ての通りすっごくダメダメなんだ、これが。(しかもその小説の主人公君を「なにやってるの!」なんて叱ってしまってるんだから手に負えない。)もうこれはひとえに私がいけなくて、その小説を書いた人とそれのファンの人にはとても頭が上がらない。本当に、本当にごめんなさい。
もしも、阿呆な奴が無謀にも暴走してズッコケたぞ、と笑って貰えるのなら、それほど有り難いことはないから。
そして、どうやらそいつはかなり派手にズッコケたっていうのにまだ少し嬉しいことが残ってるらしい、ってことが少しでも伝われば、もうほんとに感謝感激雨あられ、って訳なんだ。


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