「余韻 6」 02.10.24 by F澤
朝9時30分少し過ぎ。僕、小笠原タケルは4歳から10歳まで過ごした金沢市泉野町の地に立っていた。ホテルから泉野町までは亀田君が送ってくれた。電話をしたら事情は母が今朝早くしてくれたらしく、スムーズにことが進み、駅前のローソンの前のホテルといったらすぐ分かってくれた。しかし正直亀田君と会うのは不安というかお世話かけすぎという気がして少し恐縮してしまった。なにしろ10年以上会ってないし、親同士の仲はいいが僕と亀田君が遊んだ記憶は数回だ。顔もお互い様だろうが今ひとつ思い出せない。赤いビッツで行くからといわれたものの車に興味がない僕としてはビッツがどんな車か知るわけもなく赤い車が通るたびに戦々恐々としてなければいけなかった。約束の9時に少し遅れて赤い車が僕の前に止まった。「おはよう。久しぶり」窓をあけ亀田君が言う。「おはよう。ごめんね、突然迷惑かけて」
「いいよ。今日土曜で会社休みだし、ま、乗って乗って」
お願いします。といい助手席に乗る。誰の趣味かわからないがかわいいぬいぐるみが並んであって、ラヂオからはFMが流れていた。
何も話すことないんじゃないかとおもっていたが、それは杞憂だった。亀田君が飼っていたポメラニアンのことを口火に大学の話や一部変わってしまった金沢の町は僕を寡黙にさせなかったし、FMからは金沢にいた頃を思い出させる懐かしいナンバーがかかっていたからだ。
「ポメラニアン、まだ生きてる?」僕は最初にそう聞いた。
「ああ、アルね。まだ生きてるよ。よぼよぼしてるけど。」
「あっ、このダイエー。引っ越してきてからすぐの頃、僕この前でなぜだか知らないけど吐いちゃったんだよね。」
「へぇ、そんな昔のことよく覚えてるね、君まだ4歳くらいだったんでしょ?」
「うん、そうだけど親父から金沢にまだいたころしつこく文句みたいに何回もきかされたんだ。」ラヂオから新田恵利の冬のオペラグラスが流れる。
「うわ、懐かしい。新田恵利の曲聴いたのなんて何年ぶりだろう。昨日はレベッカのフレンズ流れてたし。」
「今80年代ブームだからね。なんか局でも特集やってるみたいだよ。」
へぇ。と僕が煙草に火をつけようとする。
「あ、この車禁煙だから。」あ、ごめんといい煙草をかばんにしまう。
そこら辺に集めた雪が残っていて、金沢だなぁと思わされる。金沢の町は変わったり、変わってなかったりだ。サンテラスはアピタになってたが、犀川のほとりは僕の記憶とほとんど寸分違わずだったりと。
読売新聞の前を通るとジャイアンツのポスターがでかでかとはってあったのにはさすがにびっくりした。
唖然としてる僕を見て亀田君が一言
「松井の影響でね巨人ファン増えたんだ。テレビでも特集やるくらいだよ。」
ふぅん、と僕はつぶやく。僕がいたころは小松の影響で中日ファンばっかだったなぁと思いながら。ラヂオからは今度は中森明菜のDESIREが流れる。見覚えがある町並みになり、ここでいい?と亀田君が聞く。僕が住んでいたマンションの前だ。うん、ありがとう。そういって降りようとする僕を亀田君が慌ててひきとめ、何かあったらと携帯の番号を教えてくれた。本当にありがとう。そう言って車から降りる。北風が寒く僕を包む。窓から手を振りながら、亀田君はなんかはげましてくれてるようにさえ感じた。

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