「余韻 7」 02.10.25 by F澤


 泉野町は基本的に変わってなかった。怪獣のような灰色のマンションが3つ。静かに清らかに流れる雀蜂川、何度もお祭りに足を運んだ記憶しかない桜木神社、僕の住んでたマンションの1階にあるスーパーバザールもこれから始まる一日の喧騒が嘘みたいに暗く静かだ。ただひとつ変わったところといえば、僕の住んでいたマンションの前の空き地が大きな紫色した冠婚葬祭場になっていたところだ。たしか小学2年生のよく晴れた春の日に下校途中に見つけた小鳥の死骸をみんなでシロツメグサや花と一緒に埋めたことが思い出される。あの小鳥もまさか自分のお墓の上でいろんな人たちが永遠の契りを交わしたり、永遠の別れを悲しんだりしているとは思わなかっただろう。そんなアイロニーと時の流れが僕を郷愁に誘う。タケル、ここはお前の第二のふるさとなんだと自分に言い聞かせて。ふと思い出したが、母が山口君が住んでたJRのアパートも取り壊されて、図書館になったらしい。そこへも行ってみたいがまずは自分の原点と思い、マンションの中に入った。
あの頃と変わらない、キケン!注意!とエレベーターのドアに挟まらないよう注意を促した蟹の絵がついたシールが僕を迎えてくれる。なぜかゲロくさいエスカレーターのなかも今は懐かしい気持ちの方が優先する。2階のボタンを押す。2階はスーパーの屋上を利用した公園になっていて、そしてあの円香ちゃんが住んでいた階だ。はやる気持ちを抑えゆっくりとエントランスを歩く。そこにはあれから本当にそのまま時を重ねたであろう光景が待っていた。誰もいない早春の公園は華やかさもなく、まるで廃墟のようにすら感じた。唯一違うところは遊具のあいだに大きな何に使われてるのかさえ分からない装置が設置されてるだけで、それがますますここを廃墟のように感じさせる。さび付いたブランコに座り、さっき自動販売機で買ったあったかいウーロン茶をコートのポケットから出しのタブを開ける。やけどしそうなほど熱い。それを飲みながら、5月咲き誇る椿の蜜を一緒に吸ったこと、8月水道の蛇口を上向きにして水がどこまで飛ぶかびしょぬれになって遊んだこと、1月雪だるまを作り吹雪のなか滑り台の下を家にみたてて遊んだこと。四季折々の円香ちゃんとの思い出が溢れ出してくる。今朝届いた謎のメール。僕はあのあとあわてて返事をだした。
あなたは誰?
返事は返ってこなかった。思えばこの金沢への旅行も一通の変なメールが始まりだった。自分の計画性のなさと突拍子さでバカみたいだと思う。ブランコはさびていてちょっと動いただけでもギィギィいう。僕の歯のように動こうとしない。無理に動かしたらたぶん壊れてしまうだろう。
「懐かしいなぁ。」
大声で叫ぶ。だれもいない曇天の空に吸い込まれていく。それを生ごみ目当てのからすが聞く。まだ始まったばっかりだ。そう思い、つぎは6階に行った。
僕の家族は601号室に住んでいた。6階からの眺望は素晴らしく遠く日本海まで見えた。もちろん曇天とはいえ今日も遥か日本海が見えたし、アピタになった旧サンテラスも見えた。廊下のてすりにつかまって壁の上の部分に足を乗せ、景色を見るのが好きだったが、まねしようとして危うく落ちそうになった。ここは6階運良く2階の椿の花壇がクッションにならない限り落ちたら死ぬ。ほこりを払って今は誰が住んでいるか知らない601号室前を後にする。このマンションにも円香ちゃんのほかにも何人か仲がよかった人は住んでいたが、どこの家も家と一緒で転勤族でもういないだろう。この見晴らしのよさを確認できればもう用はない。エレベーターで下に下りた。