1学期最後の日、昼休みに、みんながペーパー、ペーパー、と騒いでいる。よくよく聞いてみると、この間取材に来た新聞に、我々のことが載っているらしい。新聞に載るなんて生まれて初めてだよな、感激だな、といっても、地方新聞、結婚式のお知らせ、子供の誕生の報告、死亡記事から、この学校の生徒のことが、毎回取り上げられる、といったこの地方、ホイットサンデー地方のことばかりのどローカル新聞だ。
きっかけは先週の金曜日、この学校では、月曜と金曜に集会があるのだが、うまくタイミングがつかめず、紹介してもらう機会を逃してしまった。loteセンター(研修センター)の人に、正式な交換教員なんだから、しっかり校長先生にもお会いして、全校生徒の前で紹介してもらいなさい。と口を酸っぱくいわれていたのだが、なかなか言い出せず、月曜はあっという間に終わった。
それから一週間、ばたばたと過ぎていこうとしていた。なかなかこちらの教員の名前を覚えられない私は、話しかけてもらうきっかけを提供しようと、意を決して、こう切り出した。「今度のパレードで、自己紹介のスピーチを、したいんだけど」「自信あるね。全校の前で?」ちょっとこの言葉で、自信は揺らいだが、待っていては何も始まらない。やるぞ!
前日の木曜、結局、前の会話が頭に残って、マイクに確認を取ることはできなかった。ええい、ままよ。金曜日の朝、日本から持ち込んだ、浴衣、帯、高下駄(北大恵迪寮で購入)を密かにかばんに詰め込み、パレードを待った、職員室から、教員がほぼ出はからったのを確認して、着替え、カランカランと下駄を鳴らしながら、パレード(集会)が行われているアストロドーム(屋根のある屋外講堂、意味分かります?)へ、すすすっとマイクのところに歩み寄り、「用意してきたんだけど」。
やっぱりマイクは忘れていたようだ。もしかしたら忘れたことにしたのかもしれないが、あわてて教頭のところに相談、「今日はいろいろあって時間がないから、短いのだったらいいよ」。ようやく第一歩を確保した。その瞬間、緊張感が一気にあふれ出す。生徒もちらちらとこちらを伺っているようだ。視線が気になる。(あんまりこっちの人は人の格好に好奇心の視線を投げかけることはないんだけどな)それもそのはず、僕の後頭部には、日本から持ってきた必殺兵器「ぴかちゅう」のお面がついているのだ。
簡単な日本語の挨拶を交え、昨晩寝る前に考えた英語のスピーチ、たぶん1分少々だったと思うが、あっという間に終わった。これで僕の名前も覚えてもらった、趣味もあれこれ言ったから、興味のある人はきっとこのあと僕のことを誘ってくれるだろう。週末を控え、何の予定もなかった僕は、だれかに遊びに誘ってもらいたかったのだ。何とか一週間目の終わりに僕は本当の第一歩を踏み出せたのかもしれない。スピーチの終わったあと、校長のクリスが、固い握手をしてくれた。
こうして、このとき、たまたま取材に来ていた新聞記者の目に留まり、今回の記事となったわけだ。ちなみに、この地元新聞の記者は、毎回のように、学校に来ている。うらやましいことだが、オーストラリアでは、未だ、学校が情報の発信基地なのである。
というわけで、この新聞の記事では、僕が金曜日に来たことになっている。本当は月曜日からいたのだが。ちなみに、itchy forというのは、〜がほしくてたまらない、〜がしたくてむずむずするという意味、決して、疥癬症にかかったわけではなく、けんいち のいちにかけているわけだ。

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