5.神奈川の酒造りと金井酒造店

@ 神奈川の酒造りの歴史
 神奈川の造り酒屋は、源頼朝によって鎌倉幕府が開かれ、人々が集まって来るにつれて興ってきた。1252(建長4年)には2度にわたって禁酒令が出され、沽酒(売る酒または酒を売ること)を禁じ、民家の酒壺37274個のほとんどが破却されたと「吾妻鏡」にある。この頃すでに民家の自家用酒が沽酒を禁止するまでに増大していたことがわかる。その酒壺の数からすると醸造量は相当なものであったと推定される。やがて鎌倉幕府が滅びると酒屋も衰退している。
 江戸時代になって、再び各地に酒屋が台頭してくるが、伊丹、灘、池田をはじめとする関西勢の下り酒に押されて活発な動きができなかったようであるが、酒造りの根は絶やされずに続けられてきた。現在営業している酒造場は、宝暦年間から明治・大正にかけて操業されたもので、杜氏は越後杜氏と南部杜氏である。

酒造場 銘柄 よみがな 所在地 創業 杜氏 出身
豊国酒造(株) 士鑑桜 しかんざくら 相模原市 1830〜1844(天保) 小田中善禄 南部
泉橋酒造(株) 公宝泉 きみほうせん 海老名市 1858(安政4) 小原  彦人 南部
熊沢酒造(株) 曙光 しょこう 茅ヶ崎市 1872(明治5) 桶口  博 越後
清水酒造(株) 巌乃泉 いわおのいずみ 津久井町 1751〜64(宝暦) 佐藤  五伍 南部
久保田酒造(株) 相模灘 さがみなだ 津久井町 1844(弘化元) 杉田  一誠 越後
大矢孝酒造(株) 蓬莱 ほうらい 愛川町 1830(文政13) 佐藤  善治 越後
黄金井酒造(株) 盛升 さかります 厚木市 1818(文政元) 金子  茂雄 越後
吉川酒造(株) 菊勇 きくゆう 伊勢原市 1912(大正元) 若井  正利 越後
金井酒造店(株) 白笹鼓 しらざさつつみ 秦野市 1868(明治元年) 内山  正 越後
10 石井酒造(株) 曽我の誉 そがのほまれ 大井町 1870(明治3) 湯本  昇 越後
11 井上酒造(株) 箱根山 はこねやま 大井町 1789(寛政元年) 畠山  善市 南部
12 相田酒造店(資) 知恵袋 ちえぶくろ 小田原市 1890(明治22) 塩崎  利夫 越後
13 中澤酒造(株) 松美酉 まつみどり 小田原市 1825(文政8) 畠山  弥一 南部
14 川西屋酒造店(資) 丹沢山 たんざわさん 山北町 1898(明治31) 小山  文雄 越後
15 瀬戸酒造 酒田錦 さかたにしき 開成町 1865(慶応元年) 調査中
16 舞姿酒造(株) 舞姿 まいすがた 南足柄市 1871(明治3) 調査中

神奈川県酒造場一覧(1995年現在)



A 生産の現状
 1995年現在、神奈川県では16場(実際に生産活動をしているのは13場)であるが、そのほとんどが、相模川・金目川・酒匂川流域に立地し、年間生産量は約3000キロリットル、平均すると一つの蔵元で約200キロリットルの生産となる。これは、全国の生産量のわずか0.3%となり、日本酒の酒造場のない鹿児島県や焼酎が主流の沖縄県・宮崎県に次いで生産量の少ない県となっている。





















                                                           図−1神奈川県の酒造場 〈新・神奈川県の地理〉より

B 丹沢ほまれと神奈川物語 
 20数年前、この地域の蔵元は製造した酒の40%を大手メーカーにそのまま買ってもらう「桶売り」をするなど経営難に直面していた。一方、酒販業界は大型店の進出、生活協同組合の参入など、苦しい環境に置かれていた。
 このため1973年、地酒振興と酒販経営の自営を目指し、酒造組合と酒販組合が連携して共同開発を行い統一した銘柄で共同出荷したのが「丹沢ほまれ」であった。
 さらに、1994年「丹沢の水を使い新潟の米どころを上回る日本一の味」を目指した神奈川の酒を発売し、「神奈川物語」と銘名した。原料米は、足柄平野で穫れる「若水」だけを使用し、製法も県下全メーカーで統一されている。 *1998年10月1日、相模原酒販組合では日本酒の日(10月1日)を記念して、「橋本宿」を発売。また、県央小売酒販組合大和支部では、大和市市制40周年を記念して、下和田地区の農家が生産した有機米を使用して、50%精白の吟醸酒「大和・泉の森」の生産・販売を行っている。(1998年10月1日現在)


C 金井酒造店
 秦野地理巡検のメインとも言うべき金井酒造店の見学であるが、これもひとえに相模台工業高校の地理巡検に対する金井酒造店の方々や杜氏の内山さんのご理解なくしては成立し得ないものである。ただでさえ微妙なバランスの下で行われる酒造りの現場に外から120名前後の人間が3日間も入り込むのである。当然酒造りへの影響も少なくないと思われる。にもかかわらず、毎年ご協力いただいた上に、杜氏の内山さん自ら、生徒に酒造工程の説明と酒造りに関すお話しをして頂いている。感謝の念に耐えない。


    社名:(有)金井酒造店
    創業:1868年(明治元年)
  杜氏:内山 正 氏(越後杜氏)
    本社:秦野市元町5−7
  工場:秦野市堀山下182−1
  石高:約2500石
  主要銘柄:白笹鼓、笹の露、モーツァルト、大吟醸「鳳泉」など 原料米:山田錦・美山錦・曙・若水など
  *東京国税局新酒鑑評会において「白笹鼓」が4年連続優等賞受賞 

金井酒造の酒造りは、昔ながらの手作りを基本に、それを今風にアレンジしたものである。1986年に蔵が堀山下に移転し、仕込み水も四十八瀬川水系のミネラル分が豊富な硬水になった。このため、元々味の濃い芳醇な味であったが、最近流行の淡麗辛口な酒に移行している。
 1989年からは、蔵の中に「モーツァルト」の音楽を流して酒を醸しており、「音楽醸造蔵」として知られている。杜氏の内山さんによれば、この試みは、香りや味がまろやかになったばかりでなく、蔵人や社員の心も和ませる思わぬ効果を発揮しているそうだ。

D 酒造行程                      種麹
                                   ↓
玄米(酒米)→精米→白米→洗米→浸漬→蒸し→蒸米→麹    酵母菌
                                         ↓
                     粕取り焼酎             酒母←水
                        ↑                ↓
                       酒粕             もろみ仕込み
                        ↑                ↓
  火入れ←濾過←おり引き←新酒←上槽←熟成もろみ←    もろみ

     貯蔵→原酒→調合→濾過→殺菌→瓶詰→出荷
                         ↑
                        温瓶
                         ↑
                        洗瓶

(1)精米
 酒造好適米を酒にするには、まず米を磨かなくてはならない。米には、タンパク質、脂肪、デンプンが含まれており、そのうちタンパク質と脂肪は酒造りには不要の物である。酒造りには米の中心(芯白)のデンプンが重要となる。そこで米の周辺部にある不要なタンパク質や脂肪を精米することによって除去する。
 この精米の成否によって酒の善し悪しも決まってくるのである。一般の酒は米を25〜30%程削る。これを「精米歩合75〜70%の酒」という。吟醸酒と呼べる酒は、この「精米歩合」が50%以下にまで磨いたもので、特に高精白の原料米で造った酒を大吟醸と呼ぶ。つまり、この場合もとの米の50〜65%程度までもが糠となってしまう。ここまでになると精米にも高度な技術と長い時間が必要で、なかなか自家精米は難しい。以前は吟醸酒は鑑評会のためのみに特別に造られていただけで、一般消費用の酒米は酒造蔵がそれぞれ独自に精米していた。 しかし、酒質の向上とともに磨く度合いが高まって技術的にも難しくなり、現在は自分の蔵に精米場をを持っているところはほとんどなくなった。最近では、神奈川県の各蔵は酒造組合を通して、米の買い付けを行うと共に精米も千葉県の流山市の精米工場において共同で行っている。

(2)洗米
 磨いた米に付着している糠を洗いとる作業が「洗米」である。高精白した米を砕いてしまわないように気を付けなければならない。糠がきれいにとれていないと、酒に異臭が混ざるため、これは大切な作業である。蔵人は、寒い中、早朝、冷たい水によって手を切るような思いで作業をする。

(3)浸漬
 洗米が終わってから、米に水を吸わせる作業のこと。磨きのために水分を切っておいた米に再び水を含ませる。これも、精米歩合や造る酒の性質など様々な要素によって、漬けておく時間が変わる。1分、2分という短い時間が造る酒の善し悪しに響くほど微妙なもので、蔵人と杜氏の勘が頼りの世界である。

(4)蒸米
 文字通り米を蒸す作業である。製品に「手作り」をうたう場合の大きな要素である。が、現在この部分は機械化されたところが多い。それでもなお、この作業が蔵人の経験と勘の必要な作業であることに変わりはない。

(5)製麹
 蒸した米を温度管理の厳しい麹室という部屋へ移して、麹菌を米のタンパク質の内部に食い込ませて行く作業。蒸米に麹菌が食い込んで行くのを「破精る」という。蒸米を帆布の敷かれた床の上に広げる。30数度ほどに冷まして麹菌を撒き、手で満遍なく混ぜ合わせる。米を山上に盛り上げ帆布でくるんで30度を超えるように温度調整のされた麹室に一晩寝かせる。(途中、切り返しといって手早くかきまぜる作業が入る)破精込みを確認して麹蓋に移して段重ねし、破精込みが満遍なく行きわたるのを助けるため、時々麹蓋の積み替えを行う。この作業を一昼夜行う。(一般に麹蓋は縦40p、横60p、深さ4〜5p)麹菌の破精込んだものを「米麹」とか、ただ単に「麹」と呼ぶ。

(6)もと
 「酒母」ともいう。小さめのタンクに「水」と乳酸菌を入れ、さらに麹菌のよく破精込んだ「米麹」と「酵母」、それに蒸した米(これを「掛け米」という)を加えて攪拌し、発酵して行くのを待つ。(このとき、乳酸菌を加えるのは、酒母の中に雑菌が繁殖するのを防ぐのが目的である。また、乳酸菌を加えた酒母を「速醸もと」、乳酸を加えず天然の乳酸が菌による乳酸の生成を待つ方法を「生もと」という。)この間、タンクの中では、麹は米のデンプン質をブドウ糖に変える(これを糖化という)。一方、酵母は、出来たブドウ糖をアルコールに変える(発酵)。こうして、酒は醸成されて行く。このように、デンプンがブドウ糖に、ブドウ糖がアルコールにとそれぞれの変化を同時に進行させる醸造法は日本酒独特のものである。この様な方法を並行複発酵という。

(7)もろみ
 酒母を本タンクへ移す。その際、また蒸した米(掛け米)を加える。これを「初添え」という。発酵による泡が、全体に見られる頃、「中添え」・「留め添え」と繰り返し、もろみを増やして行く。これを「三段仕込み」という。このとき、もろみの温度は8℃〜10℃前後に押さえて、低温発酵させる。やがて、玉泡という発酵泡がたち始め、もろみの中のブドウ糖が酵母によってアルコールに変えられて行く。約1ヶ月程かかってもろみの熟成が進み、もろみのアルコール度数が19度程度になると、玉泡が消えて発酵は終了する。この頃のタイミングで日本酒度を測る。日本酒度は糖分が多いとマイナスの値を示しす。日本酒度がマイナスの場合は甘口、プラスの場合は辛口となる。杜氏の腕は、この糖化と発酵とのバランスをとりながら香りや味をいかに生み出すかにかかっている。

(8)上槽
 もろみの発酵具合のタイミングを見て搾りにはいる。白く濁ったもろみを透明な酒にするのが上槽である。「槽」と呼ばれる圧搾機にかけて酒を搾り出す。(近年では、一般に新式の圧搾機械を使用するが、「手作り」を表示する酒の場合は昔ながらの「槽」を使わなければならない。)この搾り器に酒袋に詰められたもろみが移される。このとき、圧力をかける前に自然流出した酒を特に「荒走り」と呼ぶ。そして、徐々に圧力を加え(中垂れ)一昼夜酒袋の位置を変えながらさらに搾る。この最後の作業を「責め」と呼ぶ。「荒走り」から「中垂れ」・「責め」までの酒質は微妙に異なり、それぞれの段階に分けて斗ビン(18リットル)に移す。また、酒袋をつるしてしたたる酒を集める方法を袋吊りといい、その純度の高さから「雫酒」と称して売っている蔵もある。しかし、空気に触れる割合が多く酸化しやすい危険な方法である。搾り終わった圧搾機に残るのが「酒粕」となる。

(9)滓引き
 搾られたばかりの酒は、まだ若干の濁りをもっている。この濁りを沈殿させて透明な上澄みだけを取り出すことを滓引きという。この状態の酒を「生酒」または「原酒」と呼ぶ。

(10)濾過
タンクに活性炭素を入れて酒の雑味や色を吸着させ、その後濾過器にかける。
(11)火入れ
 生酒のまま貯蔵すると、生き物である酒は変質したり、「火落ち菌」という酒を腐らせる菌に侵されたりするので、65度ほどの温度で低温殺菌する。これを火入れという。この後、酒は貯蔵タンクに移され出荷を待つ。(清酒には保存料や防腐剤を添加しないので火入れは大変重要な作業となる。)

(12)貯蔵熟成
 熟成期間は、酒質や用途によって異なるが、1ヶ月から1年、中には何年も経た古酒もある。出荷の前にいくつかのタンクの酒を混ぜたり、水を加えてアルコール度数を調整し、もう一度濾過・火入れを行いビン詰めされる。

E 日本酒の表示
 日本酒は、近年多様化し、多品種化してきたため、消費者が選びやすく、基準を明確にするために、一級・二級などの級別表示に変わって、1990年4月に「清酒の製法品質表示基準」で表現方法を統一するように法制化された。
 特定名称を持つ日本酒の表示には、吟醸酒・大吟醸酒・純米酒・純米吟醸酒・純米大吟醸酒・特別純米酒・本醸造酒・区別本醸造酒がある。しかし、生産量からいえば全体の2割強にすぎない。残りは特別な表示のない普通酒である。
 表示内容で義務づけられているのは、原材料名・製造時期・メーカーの名称と所在地・容器の容量・アルコール分である。(生酒のようなものは保存や使用上の注意事項あるいは賞味期限を明示する。)

(1)大吟醸酒
    吟醸酒の中でも特に高精白(精米歩合50%以下)としたもの。

(2)吟醸酒
    精米歩合が60%以下の白米を原料とし、低温発酵などの、いわゆる吟醸造りをした清酒で固有の香味と光沢が良好なもの。純米タイプと本醸造タイプの2種類ある。

(3)純米酒
    精米歩合70%以下で、白米・米麹のみを原料としたもの。

(4)本醸造酒
    精米歩合70%以下で、白米・米麹、それに一定限度以下(アルコール分95度換算で白米重量の10%を超えない範囲、つまり白米1トンに対して120リットル以内・酒にして約2
5%以下)の醸造用アルコールを原料としたもの。

(5)普通酒
    本醸造の限度以上の醸造用アルコールを添加した清酒、及びそれに糖類・有機酸等を添加して造る三倍醸造酒をブレンドした清酒。

(6)生酒
    加熱殺菌(火入れ)を一切しないで出荷されるもの。

(7)生貯蔵酒
    火入れをしないで熟成させ、出荷時のみに火入れをしたもの。

(8)生詰め
    火入れしてから貯蔵し、出荷時には火入れしないもの。「冷やおろし」とも呼ぶ。

(9)生もと
    昔ながらのもと(酒母)造りの方法。半切桶に蒸米と麹と水を混ぜ櫂ですりつぶす山卸しという作業を行い、長い日数をかけて自然の力で酵母と乳酸を育てる。

(10)山廃もと
    生もとの一種。山卸しをせず、より自然の力で酵母と乳酸を育てる。生もとも山廃もとも腐造の危険があり、その育成には苦労を要する。

F 酒造りのプロ・杜氏
杜氏は、船でいうと船長のようなもので、その下に何人かの蔵人がいる。10人またはそれ以上でチームを組んで仕事をする。秋の収穫が終わると、全国の蔵に彼らは酒造りの専門家(プロフェッショナル)として雇われて行く。杜氏の出身地をみると大半は農村地帯である。半年は農作業、残りの半年が酒造り。半年もの間拘束され、しかも、麹という生き物を相手にするため、昼夜を問わず気を配らねばならないつらい仕事である。このため、最近は、杜氏になろうという若い人も少なく、後継者不足がどの蔵でも悩みの種となっている。

G 水の効果
 日本酒の80%は水である。純然たる醸造機器やタンクなどの洗浄水は別として、日本酒の醸造では原料白米の洗米から浸漬、そしてもと(酒母)、もろみの仕込み水、醸造用アルコールが使われる日本酒では、その希釈水、製品出荷にあたっての割水に至るまで、水は、米とともに極めて重要な酒の主原料である。
 仕込み水に限っても白米1トンに対して水1.3トンが使われる。その「水の力」の発見は灘酒の中心的醸造地の西宮で、徳川11代将軍・家斉の時代の天保年間(1830〜44年)になされた。 
 室町時代の中頃から、西宮はすでに「西宮の旨酒」と呼ばれる産地として知られていた。それが、この地域に湧き出る伏流水の力によるところが大きいことが実証された。天保の頃、灘の酒造家・山邑太左衛門は魚崎と西宮に酒蔵を持っていた。原料米も醸造法も同じはずなのに、西宮の酒の法がいつも品質が優れ、日持ちがよく、夏を越すと「秋晴れ」する美酒が得られる。酒造職人をそっくり入れ替えてみても結果は同じであった。そこで、ひらめいたのが「水」であった。水の力と考えた太左衛門はその翌年、西宮の水を魚崎に運び、酒を仕込んでみたところ、西宮の蔵の酒と同じ美酒が得られた。さらに数年、試醸を繰り返して結果を確認して、天保11年(1840年)太左衛門は西宮から魚崎へ大量の水の輸送を開始した。山邑家の酒が江戸で評判をとったことは言うまでもない。こうして、「西宮の水」は酒造に適した不思議な力を持つ水として「宮水」と呼ばれるようになって、今日に至るまで連綿として灘の酒造家によって使われ続けている。この宮水は、後背の六甲連山の伏流水が太古のとり貝の堆積した地下層を経て、井戸で汲み上げられるもので、日本酒醸造に有効なミネラル分を豊富に含有した硬水である。もと造りがうまく進行し、発酵力が強いので、アルコールの良く出た健全なもろみが出来る。これを搾ると辛口のしっかりとした日本酒が出来る。水分中の鉄分がゼロなので酒に色がつかず、貯蔵中に酒質が向上する。これが「秋晴れ」である。
 この灘の硬水による酒造りに対して、京都伏見や広島では軟水による酒造りで対抗した。軟水では、ミネラル分が少ないので、発酵が穏やかに進行し、甘口酒造りに適している。
 秦野の地下水は、適度にカルシウム、マグネシウムを含み、酒造りに大敵な鉄分を全く含まない酒造に最適の水である。

*一般に、水100cc中にカルシウム塩(CaO)が1mgあるものを硬度1とし、また、マグネシウム塩(MgO)が1mgあるものを硬度1.4として、硬度20以上を硬水、硬度10以下のものを軟水とする。また、硬度10から硬度20の範囲も硬水域として分類する。

 以上のように、「水」は酒造りには欠かせないものである。しかしながら、近年の地下水汚染によって「酒造りに最適な水」は、危機に瀕している。このため、これからの酒造りには、いかに「安全で酒造りに最適な水」を確保するかが大きな問題となってくる。最近では、酒造用水浄化を目的として、精密濾過(MF)膜や限外濾過(UF)膜、逆浸透(RO)膜で水を処理する製造場が増えてきている。バクテリアなど微生物の除去にはMF膜やUF膜処理が有効であり、金属イオンなどの除去にはRO膜処理が有効である。特に、このRO膜処理により、様々な有害物質や醸造水として不適当な物質を除去できる(除去率は、鉄:94〜97%、マンガン:94〜97%、カルシウム:93〜97%、他にも細菌類や残留塩素、フッ素、シアン及び亜硝酸などの陰イオン、さらに有機物、トリハロメタン、農薬などの有害物質、等の除去率も非常に高い)。処理水は、清酒を搾った後の割水に使用されることが多く、有害微生物の除去がほぼ完全であることから、特に生酒の割水に適している。酒母やもろみの仕込み用水としては、酵母の活動に必要なマグネシウム、リン、カリウムなどの無機成分を加えて加工するか、RO膜処理以前の無機成分を含んだ原水と混和して使用するのが一般的である。


参考文献:「新・神奈川県の地理」
            (神奈川県高等学校教科研究会社会科地理部会)
      「お酒の事典」(成美堂出版)
      「神奈川の酒」(彩流社)
     「日本の銘酒事典」(講談社)
     「夏子の酒」(講談社)