魔法使いになるには・・・

クリス・・・・・・・魔法学校の一年生。
ルージス・・・・魔法学校の先生。
メイ・・・・・・・・クリスの親友。

「先生なんかだいっきらい!」
夕暮れの、人気のない図書館でクリスは思いっきり叫びました。
ここにはルージス先生とクリスしかいません。
今日はクリスの誕生日、なのに先生ときたらずっと授業か、他の生徒達の質問攻めにあっているかでした。
これでは、ルージス先生大好きのクリスは面白くありません。
確かにルージス先生は優しくて綺麗でみんなの人気者です。
でも、今日一日は先生を独占できると思っていたクリスは怒り爆発です。
やっと二人で会えたのに、先生の姿を見たクリスは思わず叫んで逃げ出しました。
女の子らしく、本当は先生が追いかけてくれる事をちょっぴり期待していました。
そして、薄暗い森の中へと入っていきました。

サンタ・ミニスタの森には噂がありました。
魔物が棲んでいるのです。
手足が8本、目は3つの大きな化け物だと言われています。
そして、訪れた人間を大きな口で食べてしまうのです。
しかし、今のクリスにはそんな魔物も怖くはありませんでした。
クリスを追いかけてきてくれなかったルージス先生に対して怒っていたからです。
「先生なんかだいっきらい・・・」
何故かぽろぽろと涙がこぼれてきました。
一度泣き出すと止まりません。
クリスはこぼれる涙を拭いながら、あてもなく森の奥へ奥へと進んでいきました。

一方、ルージス先生は何故クリスに「だいっきらい」と叫ばれたのかわからず、落ち込んでいました。
ルージス先生の周りだけが暗い霧で覆われているようです。
一体クリスに何があったのでしょうか?
自分は何か、クリスに悪い事をしたのでしょうか?
ルージス先生は考え込んでしまいました。
と、そんなルージス先生を不審に思ったメイが声をかけました。
メイは、緑の髪をした優しい子でした。
クリスの親友でもあります。
「あ、ああ、メイ。
 あなたにならわかるでしょうか?
 クリスに何かあったんですか?」
不安そうな顔でルージスはメイに尋ねました。
「クリスと何かありました?」
ルージスの様子に首を傾げてメイは聞き返しました。
「だいっきらいと言われてしまったんです・・・」
自分で言いながらルージス先生は落ち込んでいきました。
「先生、今日がなんの日かご存知ですか?」
「クリスの誕生日だと思ったんですが・・・」
「正解です。でも、先生、クリスに何かしてあげました?」
「これからしようと思ったんですけど・・・その前に・・・」
先ほどの光景を思い出して、ルージス先生は更に落ち込んでいきました。
「それで先生、クリスは?」
「どこかへ走っていってしまって・・・」
「本人に確かめたほうが良いのではないでしょうか・・・」
「そうか・・そうですね。そうします。
 ありがとう、メイ!」
ルージス先生は言い捨てて走り去りました。
その姿にメイはくすくす笑って見送りました。

クリスは泣くことにも歩くことにも疲れてしまいました。
もう、辺りは真っ暗です。
しかし、ここが何処だかわかりません。
あんまり奥深くに入り込んでしまったようです。
へたへたと木の下に座り込んでしまいました。
と、後ろの方でごそごそと物音がします。
クリスは背筋にゾクリとするものを感じ、直感的に飛び退りました。
ドシャ!
一瞬前まで自分のいた場所が吹き飛ばされました。
そして、足が8本もある魔物がゆっくりと現れました。
3つある目玉がギョロリとクリスを見ました。
噂の魔物です。
魔物はクリスを軽く一飲みにできる大きな口をあけて、クリスに近づいてきました。
クリスは咄嗟に呪文を唱えました。
大きな魔法を使うにはそれなりのツールとマテリアルが必要ですが、簡単な魔法ならば、呪文だけで発動する事ができます。
小さな炎が魔物の腕の1本を焼きました。
魔物は僅かに動きをとめましたが、ほぼ無傷でクリスに近づきます。
クリスは回れ右をして逃げ出しました。

ルージス先生は青ざめた顔でサンタ・ミニスタの森を目指していました。
少し前、メイのアドバイスに従って、クリスを探して、姿見の魔法を行っていました。
そして、サンタ・ミニスタの森の奥深くでクリスの姿を見つけたルージス先生は慌ててその場を離れました。
単なる噂ではなく、サンタ・ミニスタの森には魔物が棲んでいることをルージス先生は知っていたのです。
そして、その魔物は・・・
とにかく、クリスを連れ戻さなくては・・・とルージス先生は急ぎました。

クリスは必死で逃げていました。
逃げても逃げても魔物は追いかけてきます。
途中、何度か魔法で追い払おうとしましたが、やはり簡単な呪文の魔法ではまったく効き目はないようです。
しかし、今のクリスはマジックツールもマテリアルも持っていません。
と、急に目の前に大きな湖が広がりました。
暗くて近づくまで、クリスは気づきませんでした。
絶体絶命、大ピンチです。
後ろには魔物がいます。
しかし、目の前には広くて、深そうな湖が広がっています。
と、小さな植物が目に映りました。
暗闇の中、白い小さな4枚の花弁をもつ可憐な花が僅かに輝いていました。
それは、「天使の羽」と呼ばれるマテリアルでした。
クリスは、「天使の羽」が浄化の魔法に使われる事を知っていました。
あとは水さえあれば、浄化の魔法を使う事ができます。
水は目の前にたくさんあります。
この魔物に浄化の魔法が効くのかどうか、クリスにはわかりませんでした。
しかし、魔物はもう目の前に迫っています。
一か八か、クリスは浄化の魔法を使う事にしました。
他に方法はありません。
クリスは「天使の羽」を手折ると湖の中に足を踏み入れました。
追いかけてきた魔物も湖の中へ入ってきました。
魔物が湖に入ったことを確認し、「天使の羽」を水に落とすと、クリスは呪文を唱え、魔力を注ぎました。
魔物を白い光が包みました。
浄化の魔法です。
光が徐々に消えていきます。
クリスは緊張して身構えました。
そして、光は完全に消えました。
魔物の姿はありません。
クリスはホッとして岸へと歩き出しました。
「クリス!」
遠くからルージス先生の声が聞こえます。
ルージス先生が走ってこちらに来るのが見えました。
「先生!」
クリスも走り出しました。

クリスの姿を見つけた瞬間、ルージス先生は力が抜けました。
どうやらクリスは無事だったようです。
もし、魔物に見つかっていたら、あるいはもっと酷いことになっていたら・・・と先生の頭を途中何度も最悪の状態がよぎっていました。
だから、大急ぎでクリスに近づきます。
そして、クリスがずぶ濡れなことに気がつきました。
どうやら背後の湖に入ったようです。
「先生、ごめんなさい。」
クリスが開口一番謝りました。
「無事でよかった・・・」
へたへたとその場に座り込みたい気分でした。
「・・ごめんなさい・・」
もう一度クリスは謝りました。
今にも泣き出しそうです。
「何があったんですか?」
ルージス先生はそっとクリスの頭に手を置きました。
「魔物が・・・」
と、その時突然、高らかな声が響きました。
「気に入った・・・その娘貰い受けるぞルージス!」
宙にういている、黒いマントに黒い髪の冷たい目の男がルージスに宣言しました。
「・・・妖精王・・・最悪です・・・」
ルージス先生は何が起こったのかを悟り、クリスを庇おうとしましたが、それより早く、クリスの体は宙に浮き、男のもとへ連れ去られました。
男はクリスをマントの中に包むと消えていきました。



次回予告
クリスを連れ去った妖精王とは何者なのか?!
妖精王の真の目的とは・・・?
と、いうわけで次へどうぞ。
言い訳その他はあとがきで思う存分いたしますので。
どうか、今は何も言わないでやってください