ルージス先生はある場所へと急いでいました。
何時になく怖い顔をしながら。
ルージス先生は魔物がおとりであることを知っていたのです。
そう、妖精王の花嫁を選ぶための・・・

気が付いたとき、クリスは大きな天蓋つきのベットで寝かされていました。
クリスは慌てて起き上がろうとしました。
しかし、傍に立っていた男がそれを制しました。
仕方なく、クリスは半分だけ起き上がり、クッションに背を持たせかけました。
「我が名はサフィスト・ルイ・メージア」
冷たい目で無表情に言葉が告げられました。
「サフィスト・・・」
クリスは俯いたまま呟きました。
クリスが連れて来られたのは豪華なお城でした。
クリスはこんなところに城があることも知りませんでしたが、何故自分が連れて来られたのかもわかりませんでした。
「そなたは我が妻となる。名を申せ。」
「クリス・・」
クリスは逆らえず、そう答えました。
「クリスか・・・」
呟くと、サフィストは何やらクローゼットから取り出してきて言った。
「皆に紹介する。着替えなさい。」
サフィストはクリスによく似合いそうな水色のドレスをベットにばさりと放り投げました。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
我に返ったクリスが叫びました。
「何言っているの?!」
「そなたを妻にすると言ったのだ。聞こえなかったのか?」
「わけわからないこと言ってないで、先生のところに帰して!」
「先生?ルージスのことか・・・」
サフィストは僅かに眉を潜めました。
「ルージス先生を知ってるの?」
不安げな顔でクリスは尋ねました。
「よく知っている・・・しかし今はあやつのことなど忘れよ。
 そなたは妖精王の妻となるのだ。」
「妖精王・・・って何?」
ガタン・・・何かを取り落とした音がしました。
「そなたが無知なのか?それとも、暫く見ぬうちに世界は変わってしまったのか?」
「失礼な!」
「良いか・・・妖精王というのは妖精の王だ。
 まさかそなた、妖精を知らぬのか?」
「知ってるよ。見たことないけど。」
「そなたの目の前におるではないか・・・」
サフィストは大きな溜息をつきました。
花嫁がこんなでは先が思いやられます。
「え?妖精なの?」
「そうだが。・・・妖精は嫌いなのか?」
過去に妖精は人間に嫌われていた事がありました。
不安そうにサフィストは聞きました。
「そ、そんなことないよ」
「そうか。」
ぎこちなく微笑みました。
そうすると、最初の冷たい印象が消え、不器用ながらも優しげな顔になりました。
「ならば異存はあるまい。早く来るのだぞ。」
サフィストはすぐに表情を戻し、立ち去ろうとした。
クリスは異存が大ありでしたが、サフィストのあんな顔を見てしまっては、断る事ができません。
何とかしようと、立ち去ろうとした背中に、クリスは問い掛けました。
「何で、あたしなの?」
「そなたは我が呪いを解いた。我が妻にふさわしい。」
サフィストは振り返らずに答えました。
「呪い?」
「先程、そなたを追いかけていた魔物は我だ。
 すまなかった。」
「どうして、呪いなんて・・・」
クリスの問いにサフィストは振り返り、再びクリスの近くへと寄りました。
「我はずっと我が伴侶となりうるものを探していた。
 そして、ある時一人の魔法使いが我に言ったのだ。
 自分は我が妻となりうるものを探す術を知っていると。
 我はその言を信じ、あの者の術を受けたのだ。
 しかし、それは呪いだった。  誰にも解くことのできなかった呪いをそなたは解いたのだよ。」
サフィストは静かにクリスを見つめました。
「でも・・でも、駄目。あたし、先生のところに帰りたい。」
クリスは居た堪れなくなって俯きました。
「そうか・・・ならば、仕方あるまい・・・」
サフィストは俯いているクリスの顎を掴んで、無理やり顔を上げさせました。
「あ・・・」
クリスは一瞬何かが光ったような気がしましたが、次の瞬間には意識をなくしていました。

広間には豪勢な食事が調えられ、妖精たちが優雅にダンスを踊っていました。
皆が、妖精王の結婚を祝福しています。
そして、妖精王が花嫁を連れて入場しました。
花嫁は可愛らしい、金髪の少女でした。
水色のよく似合うドレスを身につけ、妖精王の傍らで幸せそうに微笑んでいます。
「皆、よくぞ集ってくれた。まず、礼を言う。
 そして、紹介しよう。我が妻となるクリスだ。」
クリスは軽く礼をしました。
「では、クリス。皆の前でこれを。」
サフィストは手に杯を持ち、自ら一口のみ、クリスへと手渡した。
クリスがゆっくりと杯を傾けました。
パリン!
その時、杯が割れました。
「待ちなさい!」
ルージス先生が開かれた扉の前に立っていました。
「ルージス、貴様か・・・」
「妖精王、卑怯ですよ。術で彼女の意思を無視するなど。」
ルージス先生はゆっくりとサフィストに近づきながら、言いました。
静かな口調でしたが、とても怒っているようでした。
「ふん。クリスは最早我のものだ。
 人間の一人や二人、貴様にはどうでもよいことであろう。」
「何を。クリスを返してください!」
「ならば、クリスに聞けばよいことであろう?
 さあ、クリス、選ぶが良い。我とあの男とを。」
「サフィスト、愛してるわ。」
クリスは微笑んで答えました。
しかし、瞳には彼女がいつも持っていた光がありません。
「クリス、私です。」
ルージス先生はクリスに近づくと彼女の目を見て言いました。
「あなた誰?」
クリスはやはり微笑んだままで言いました。
「クリス・・お誕生日おめでとう。」
ルージス先生はそう言うと、そっとクリスの耳に顔を近づけ、何かを囁きました。
その瞬間、クリスの様子が変わりました。
「せんせい?」
「帰りましょう、クリス。」
ルージス先生が微笑みました。
「はい。」
クリスはいつもの元気いっぱいの声で言いました。
「な・・何を、何をしたのだ、ルージス!」
「貴方にはわかりませんよ。妖精王。」
ルージス先生はサフィストの方に向き直りました。
「クリスは返していただきます。」
一言だけ告げると、クリスの手を取り、たくさんの妖精たちの見守る中を悠然と歩いていきました。
「クリス!」
サフィストが叫びました。
「ごめんね。いい人がきっといるよ。」
クリスは振り向いてサフィストに告げると、ルージスと扉の外へと消えていきました。

「クリス・・本当に私のことが嫌いになったんですか?」
暗い森の中で二人は魔法学校へと歩いていました。
「違います!違うんです・・・」
クリスは困った顔をしました。
「では、どうして?」
「・・・あの、その・・・先生、大好きです。」
言い捨てて、クリスは慌てて走り出しました。
「クリス、待ってください。走ると転びます!」
そして、ルージス先生の言葉どおり、クリスは転んでいました。

END

やっと、終わりました。
何だか、題名と内容がまったくかみ合っていませんが、
いいたいことは全てあとがきにてです。
最後までお付き合いくださってありがとうございました。