かなり動揺しているデュサリオットに対して一言断ってから、ルカは大きく跳躍し、一瞬のうちにデュサリオットに接近する。
しかし、そこは腕を自慢するだけはあり、デュサリオットもあっさりとかわす。適度に間合いをとり、互いに牽制をしつつ一瞬の隙を狙い打つ。
そのまま幾度となく接近しては、互いにうまく交し合っていた。
そしてやっと、デュサリオットの拳がルカを捕らえた瞬間、僅かに軌道がそれ、逆にデュサリオットが弾き飛ばされた。
乾いた風が吹いた。
「あんた今、迷っただろう。」
静寂の中でルカが言った。
デュサリオットはルカを攻撃する事を躊躇ったのだ。
ルカはその隙を見逃したりはしなかった。
ゆっくりとデュサリオットが起き上がった。
「自分が守りたいものを守るために何が必要かわかるか?」
美しい唇が、まるで過去の記憶をなぞるように言葉を放つ。
「力じゃないのか?」
クスリとルカが笑った。
そして、それが前触れだったかのように笑い崩れた。
狂ったように笑いつづけるルカにゆっくりとフィオナが近づいた。
「ルカ・・・?」
「あ、ああフィオナはは、ははは・・・・」
バサリ、とフィオナはルカに黒いローブを投げつけた。
ローブを被ったままルカは笑いつづけた。
「正気に戻ってよ。まったくもう・・・何がそんなに楽しいんだか・・・」
尚も、ルカの笑いは止まらない。
「大丈夫・・・なのか・・・?」
黙って見ていたデュサリオットがフィオナに聞いた。
「大丈夫でしょ。よっぽどあんたが気に入ったのよ。ルカ、仕事するんでしょ?」
「あ?ああ。構わないだろ?」
仕事の一言にルカは笑いをとめて現実へと帰ってきた。
「全然。」
ルカは答えに頷くと、また呪文を唱えた。
部屋の壁が急速に形を持って浮き上がり、実像を結んだ。
「おい、受けてくれるのか?」
「ああ。」
「ホントか?約束とは違うが?」
不安と期待に満ちてもう一度デュサリオットがルカに問い掛けた。
「誰の差し金かよくわかった。」
質問の答えは得られず、ルカはもう一度クスリと笑った。
「知っていたのか?」
ハッとしたように、デュサリオットがルカを見た。
「いや。だが、話の流れは大体つかんだ。・・・カインだろう?」
笑いの残像を殺して、ルカはデュサリオットに問うた。
「そう、あいつに手頃な魔術師はいないかって聞いたんだが、お前をご指名だった。
丁度今、ユ−ジアにいるだろうってさ。」
「ははは・・・らしいな。しかし、あいつとはどういう関係だ?」
「魔術師様は何でもお見通しかと思ったが?」
からかう調子でデュサリオットが問い返した。
「ふん。万能なわけじゃないさ。」
「お取り込み中、申し訳ありませんが、私にもわかるように説明願えますか?」
完全に蚊帳の外に置かれていたアデレードが多少むっとしたように割り込んだ。
「んあ?ああ、カインってのはこいつらみたいな流れの魔術師なんだが、まあ、いろいろあってな。世話になったというか、世話をしてやったというか。そういう奴だ。
で、今は南のアゼ−ドにいるらしいが、今回、魔術師が欲しかったんで、ちょっと聞いてみたんだ・・・
ってそう言えば、カインから何か預かってるぞ。」
ふと思い出したように、デュサリオットは言うと、つかつかと机に向かい、何やら手の平にのるほどの小さな箱を取り出した。
「俺には魔術はよくわからないが、こいつを渡せって言ってた。」
「ん?音小箱か?違う・・・立像小箱みたいだ。」
ルカは渡された小箱を手にぶつぶつと言っていたが、決心したようにパカリと蓋を開けた。
途端にもくもくと煙が立ち昇り、続いて人の半身像が形作られ、やがて、ルカと同じ黒髪のしかし、瞳は紫水晶のような紫の男が映し出された。男が自動的に話し出す。
「やあ、ルカ。愛してるよ〜」
その言葉に思わずルカが蓋を閉じようとする。
「うわ、待ってごめん。閉じないで。悪いと思ってるよ。面倒な事頼んじゃってさ。うん。でもさ、僕今、アゼ−ドにいてそっち行けないんだ。
で、君しかいないしさ、頼むね、デュークのこと。よろしく。じゃ。」
言いたい事だけを勝手に流すと、像は自然に消えていった。
ルカは蓋を閉じると、静かにデュサリオットを見た。
「お、俺は無実だ。何も知らない。」
それに怯えた様子でデュサリオットは後退った。
「連絡した時の魔術珠があるだろう?貸せ。」
「は、はい。」
デュサリオットはおとなしく従い、やはり机から小さな珠を取り出した。
「我と彼の者を繋ぐ糸 遥かの隔てを・・・」
ルカの呪文に反応し、魔術珠は淡く輝いた。
「聞こえているか?カイン。」
「うん・・・その声はルカだね。久しぶり。大好き、愛し・・・」
「今度会ったら覚えておけ。」
皆まで言わせず、ルカが恐ろしい声で言った。
「知ってる?ルカ。覚えておけっていうのは負け犬の言う事なんだってさ〜」
「ほう?お前、私にそういうことを言っていいのか?」
「そう、かっかしないでさ。一応、デュークには君のことは優秀な魔術師ってだけしか言ってないし。
その代わり、僕の事も言わないでね。」
「まだやるとは言ってないだろう?」
「ふ・ふ・ふ・・そんなこと言ってもルカはこの仕事やるよ。
君の目も髪もあの頃と変わってないんだろうからね。」
「くだらないことを言ってるなら切るぞ。」
「うん。じゃね。」
通信は切れた。ルカはデュサリオットに魔術珠を投げてよこした。
「お前らこそどういう関係だよ・・・これじゃ、恋人の会話だ・・・」
「その冗談、今度言ったら殴るぞ。」
「わ、わかりました。」
デュサリオットの危難にそれまで二人のやり取りを楽しそうに見ていたフィオナが口を開いた。
「それで、仕事の話は?」
「ああ、そうだ。善は急げ、お前らの気が変わらないうちに説明するぞ。」
あからさまにホッとした顔でデュサリオットは早口に言った。
 
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