「お前たちには俺の兄上、第一王子アーネストの護衛をしてもらいたい。因みに俺は第二王子になる。
当然、第一王位継承者は兄上だ。」
「もしかして、問題って王位継承権争奪お家騒動大会とか・・・?」
フィオナが嫌そうな顔をして尋ねた。
「う″・・面目ないが・・・そうだ・・・」
情けない顔で沈黙したデュサリオットに代わり、アデレードが説明を引き継いだ。
「それで、現在王位継承権を持つ人間は全部で4人。アーネスト殿下にデュサリオット殿下、
妹姫のオリヴィア様、そして、叔父君であり大僧正であらせられる、オーガスタス猊下。国王陛下は高齢で一月後には儀式を執り行い、アーネスト殿下に王位を譲ろうとお考えです。しかし、それでは面白く思わない者もいる・・・」
「どっちなの?」
「オリヴィア様はまだお小さく、可愛らしい方です。」
フィオナとアデレードが言葉の足りない会話をする。それでも、お互いに意味は十分に通じていた。
「じゃあ、その叔父様を殺しちゃおっか?」
にっこりと、フィオナが笑っていった。
ルカを除く、その場の二人が凍りついた。言葉ではなく、その笑顔に。
子供のように無邪気で、残酷な笑顔だった。
「・・・それは、最悪の場合はその様に。しかし、今のところはやめて頂きたい。」
「何故?」
ルカが口をはさんだ。
「ご存知の通り、我が国は交易で成り立つ国。小国であってもこの様に繁栄を保っていられるのは、産出する鉱山資源とその交易ゆえです。もし、政情が乱れ他国の付け入る隙ができれば、我が国は非常に不味い状態に陥るでしょう。だから、オーガスタス猊下が式を執り行うまでは死んで貰っては困るのです。何と言っても、国民と諸外国に政情が安定している事を印象付けねば・・・」
「ふーん」
納得のいかない顔でフィオナは頷いた。
「叔父上には国教会と軍の一部がついている。はっきり言ってあの人は危険だ。
 俺も兄上は今までに外遊先で2度襲われている。さすがにこの城内では未だ何もしてはいないが、だからと言って安全なわけではない。
そこで、お前達には兄上の身の安全を第一に護衛してもらいたい。」
「確かに依頼内容は護衛なの?」
「ああ。」
「あんたのじゃなくて兄さんの?」
「そうだ。」
「ふーん。」
「なるほど・・それで、か・・」
思案顔のフィオナの隣でルカが一人納得していた。
「何がなるほどなの?」
「ああ、地下牢の事だ」
「あ!」
何気ないルカの言葉にフィオナは忘れていた恨みを思い出したようだった。
「フィオナ、できればその恨みは忘れろ。できないならば後で晴らせ。」
「うん。わかった。」
フィオナ顔が後の楽しみのために喜々としだした。
受けた恨みは必ず晴らす、とでも言うような微笑にデュサリオットは我が身の危機を覚えた。
「あ、あれは仕方なかったんだ。」
「ふーん?」
一応の言い訳は試みるが、フィオナは相変わらず微笑むばかりだった。
「わかっている。」
助け舟は意外なところからやってきた。
「叔父上に知られず密かに私達を雇い、護衛に当たらせるためには大っぴらに城のうちへ招くわけにはいかなかったんだろう?」
「ああ・・・」
「それで、ここまで手の混んだことをしているんだ、何か策があるんだろう?」
「それについては私から。」
アデレードが自信ありげに言った。

「初めまして、アーネスト殿下。クリスティアーナ・スラン・カーライルです。
どうぞ、よろしくご指導の程お願いいたします。」
愛くるしい緑の瞳で見つめながら、クリスティアーナは膝をつき、優雅に礼をとった。
「こちらこそ、どうぞよろしく。アーネスト・ライナ・クライス・フィン・ユージアです。」
アーネストは床に膝をついたクリスティアーナの手を取り、立ち上がらせた。
金色の髪と碧玉の瞳。
優しげな微笑を浮かべ、じっとクリスティアーナを見つめた。
「殿下、何か?」
じっと自分を見つめるアーネストに、クリスティアーナは不思議そうに問い掛けた。
「いいえ。目が、同じだったのでつい・・・」
「同じ・・?ああ、同じ緑色ですのね。」
「ええ。でも・・・あなたの目はとても綺麗ですよ。」
「お戯れを・・・」
クリスティアーナは一瞬、なんと答えてよいのか躊躇い、頬を染めて言った。

「カーライル公爵家は現在最も力を持つ一族です。例え、オーガスタス猊下であろうと迂闊に手出しは出来ないでしょう。
 そのカーライルの一人娘、クリスティアーナ嬢がアーネスト殿下の妃に選ばれました。ご成婚の儀も王位継承式と同時に執り行われるます。」
「それで?」
「我が国の風習として、花嫁は結婚式の前には夫となる者と片時も離れず、日夜共に過ごすことになっています。」
「・・・まさか・・・」
「そのまさかです。クリスティアーナ嬢にはしばらく、遠くへ行っていただくことにしました。」
「・・・つまり、私達のどちらかがその貴族の娘に成りすませ、ということか・・・
私には無理だな・・・」
「じゃあ、私がやるよ?ルカ。」
「そうだな・・・」
「ちょ、ちょっと待て。一応、それなりの立ち居振舞いが出来る方がいいのだが・・・」
デュサリオットはフィオナの顔をチラッと見ながら言った。
「それは、私には出来ないって意味?」
「いや、まあ・・・」
「心配しないで、出来るわよ。」