先輩
「やばっ、こりゃ5分以上は遅れそうだよ。先輩まってるだろうなぁ。」
今夜、去年大学を卒業した先輩と俺の卒業祝いで2人で飲むことになっていた。
「はぁ、はぁ、すみません、先輩。待ちました?。」
「こらっ、遅いぞ浩志。10分は待ったんだぞ。」
「えっ、でも待ち合わせ時間からは、5分しか遅れてないですよ。」
「こらこら、女性を待たせるのは失礼だとは思わないのかな?まぁいいや。さっいこいこ。」
この人が俺の先輩のめぐみさん。さっきも言ったように去年俺と同じ大学を卒業、一年間、フリーターをしてたが今年の春から職が決まったらしい。今夜はその祝いも重なってるらしい。
「どこに連れてってくれるのかな?浩志くん?」
「え?先輩が連れてってくれるんじゃないんですか?」
「はっ?私はてっきり浩志くんがもう決めてるもんだとばかり思ってたのに。」
「ええっ!大体誘ったのは先輩じゃないですか。」
といっつもこんな感じなのだ。困ってしまう。
「そーいやーそーね。じゃいいわ。ついてきなさい。いいとこに連れてってあげる。」
「とかなんとか言っていつもの居酒屋じゃないでしょうね。まぁ別に俺はかまわないですけど。」
「オトナを見くびるもんじゃないわよ。伊達に一年間ぷーやってたわけじゃないのよ。まぁまぁ、とにかく黙ってついてきなさい。」
オトナってなぁ。とは思ったがたった歳がひとつ上でも先輩は妙に大人びてたのは事実だ。おそらくはこの一年間が先輩にとってはとても大きなものだったのだろう。ここ一年で見違えるようになったのもたしかだ。
「着いたっと。どう?なかなかなもんでしょ。」
少しは名の知れたホテルのエレベーターを登り降りたそこはいわゆるバーってやつだった。もっぱら、男仲間と居酒屋通いの俺にとってはその雰囲気は少し気圧されるものがあった。
「さっさっ、こっちこっち。こらこら、あんまりきょろきょろしない。はは〜ん、初めてね。」
「そ、そんなことないですよ。ただ、ちょっとなれないだけですよ。」
先輩に連れられカウンターにもちろん先輩の隣に座る。
「じゃ、オレンジムーンください。」
「俺は、ブルースターってのを。」
バーテンダーが手際よく、カクテルを作って俺たちの前に出す。
「ごゆっくりどうぞ。」
「じゃ、えーと、浩志くんの卒業と私の就職に、乾杯。」
先輩が掲げたグラスに俺もグラスを掲げる。
「乾杯。」
ぐっと一気にあおる。お互い次の一杯をオーダーする。
「で、どうなの最近?」
「は?なんですか突然。その質問はものすごく答えに悩みますよ。」
「ごめんごめん。じゃ、なにから聞こうかしら。そーねぇ、この間一緒に飲んだのはいつだっけ?」
「えーっと、たしか新年会って言ってみんなで集まった時ですよ。大変だったんですよ。先輩は覚えてないだろうけど、先輩ぐでんぐでんに酔っちゃって、俺が家に送ってたんですからね。今夜は、勘弁してくださいよ。」
「んー、あっそうそう、たしかに覚えてないや。ははっ。気が付いたら朝で頭痛かったのよね。」
先輩は大体いつも飲み会をひらくとぐでんぐでんになるまで飲む人だった。そのたびに誰かしら家まで送って行ってたっけ。なんて考えてるとすでに先輩は3杯めに入ってるではないか。
「そういう先輩はこの一年間何してたんですか?」
結構ちょくちょく会ってる割にはこんな話をしたことがなかった。
「そうねぇ。まぁ、バイト中心に就職活動かな。いろいろあったわよ。」
そこから先輩の長い一年の話が始まった。バイト先の店長の話。毎日のように酒浴びてた日々の話。親とけんかした話。就職の面接の話。付き合ってた男との話と別れた話。
先輩の話を聞いてるうちに先輩が一年間でこんなに変わった理由が良くわかった。
「でさぁ、あたし今、高崎先輩のことがぁ好きなのぉ。ぐすっ。ってか、前から好きだったのよ。結婚する前からっ!」
高崎さんは俺が1年のときの4年生でたしか一浪してるから年は5歳くらい離れてるはず。で高崎さんは大学卒業と同時に大学時代から付き合ってた彼女と結婚した。
しかし、こんな話を聞くとは思わなかった。たしかにもうかなり酔ってはいるがどんなにぐでんぐでんに酔っても先輩はこういった話はする人じゃなかった。俺しかいないからだろうか。
「でも、高崎さんはもう結婚してるじゃないですか。」
「そうよっ。だから辛いんじゃない。もう飲まなきゃやってられないわよ。同じのもう一杯ね。」
「わかりますよ。でも、飲みすぎはいけないですよ。」
「なによ。何もわかってないくせに。んー、で浩志くんはどうなの?彼女とは仲良くやってるのかなぁ?」
「な、彼女なんていないですよ。そんなにもてるたちじゃないですから。」
「ふーん、そうなの。なかなかいい男なのになぁ。もったいない。」
「誉めたって何にもでないですよ。」
「そーなのぉ。あたしはまんざらでもないんだけどなぁ。」
「えっ」
ドキッとした。正直なところ、俺は先輩のことをこうやって一緒に飲むようになってからずっと想っていた。
「またまた、酔った勢いでいいかげんなこと言わないでくださいよ。もう帰りましょ。」
もうかなり酔っているとみた俺は、先輩を送って帰ることにした。
「まだぁ、飲むのぉ。」
タクシーに乗っても先輩はそんなことを言っていた。
「はい、着きましたよ。それじゃ俺は帰りますよ。」
部屋まで先輩を連れて行き、ベットに寝かせ俺は帰ろうとした。
「うーん。みずぅ。」
「仕方ないなぁ。」
キッチンに水を取りに行き戻ると突然先輩が抱きついてくる。
「ちょ、ちょ、ちょっと先輩!!大丈夫ですか。」
「う〜ん、たかさきさぁーん。」
酔った勢いなのか。それとも抱きつかれて気持ちが高ぶったからなのか、ついつい自分の気持ちを言ってしまった。
「はぁ。先輩っ!俺、先輩のこと好きです。本当はこの場で押し倒したいくらい。でも先輩の気持ちは俺に向いてないから。そんなことできるわけないじゃないですか。」
もう半分わけがわからなくなって自分で何を言ってるのかもあやふやになってた。
「そ、それじゃ、俺、帰りますから。」
寝ぼけた感じでぼーっとしてる先輩をおいて、部屋を出ようとしたときだった。
「ちょっと、まって!!」
呼び止められ振り向くと先輩の唇があった。
「んっ」
不意をつかれてあぜんとしてしまった。
「浩志くんの気持ち、すごく嬉しい。ありがと。まだ、気持ちの整理がつかないから、すぐには答えられない。けど、必ず答えるから、少しほんの少し待ってて。じゃ、もう遅いから。」
「あっ、はい。それじゃ、お休みなさい。」
「うん。お休み。」
そして俺は家路に着いた。本当にこれでよかったのかと少し後悔しながら。
その数日後、俺はあのバーに先輩に呼び出されることになる。
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あとがき
今回は風呂場で思いつきました(笑)。
どこにでもありそうなそんな世界を作ってみました。
えっ?終わりなの?といまいち決まりが悪いとお思いでしょうが結末はお任せします。
なんだか最後まで書くのも野暮ったい気がしたのでやめました。
大丈夫です。皆さんが想う結末にきちんとなってますから。