世界でいちばん君が
P.M9:30
『塾がのびちゃった。ヤマト、待ってるかな』
城戸丈は、デイパック片手に待ち合わせ場所に走る。きっと彼の待ち人
は、自分が来るのをきっといつもの優しい笑顔で待っている。
丈はあまり運動神経がいいわけではない。
しかし、待たせているのがわかるので丈は大きく息を吸うと走るスピード
を少し上げる。
『丈、走ってきたのか』
彼のハスキーボイスが心地いい。彼−石田ヤマトは丈が走って来たの
を見て優しく笑う。
息が整うまでヤマトは待っていてくれるが、彼は手に持っていた缶コーヒー
を丈に手渡す。
『だぁって、ヤマト待っていたでしょ』
『別に走らなくてもいいよ』
丈の言葉にヤマトが苦笑している。はっきり言って丈より1つ年下だが
ヤマトの方がしっかりしている。
ヤマトは、手に持っていた楽譜をデイパックに直すと、ようやく息の整った丈
を見て微笑む。
『3日ぶりだな』
ヤマトが口を開く。
自分たちはもう3日も会っていない。ヤマトが、現在の選ばれし子供たちの
アリバイ工作にキャンプに行ってたし、丈自信も夏期講習でバタバタして
いたからだ。
『終わったの?』
『らしいぜ。あいつらも頑張ったよ』
ヤマトは、にこやかに言ったので、丈は少し安心してしまった。
『大輔や伊織。それに京ちゃん…頑張ったんだ』
『そうだな』
彼らは、自分たちと違い人間だった相手と戦った。
丈のパートナーデジモンのゴマモンも言っていたが、真っ直ぐな子供たちだから
後々まで悩むよと…そう思うと手放しでは喜べない。
『でも久しぶりに会ったんだ。もう少し、喜んでほしい』
ヤマ戸は、丈がドキッとする顔で丈の顔を覗きこんでくる。
『喜んでるよ』
丈が言う前にヤマトに唇をうばわれてしまった。
何度目のキスだろう。
ぼんやりとしている丈にヤマトは耳元で小さくささやく。
『好きだよ』
『僕も』
それを言われるとかなり弱い。何度も言われるたびにドキドキしてしまう。
それをこの年下の男は気が付いているのだろうか。
自分がどれだけこの男に身も心も囚われているのかを知っている
のだろうか。
丈は、自分からヤマトの手をにぎる。
『丈』
ヤマトの驚いたような顔。
丈はしてやったりと心でガッポーズをとると、ヤマトに極上の天使の笑顔
を見せる。そしてイタズラっぽくささやく。
『知ってた?僕は世界中で君が好きってことに』
『それは光栄だね』
ヤマトの腕の中にすっぽり入ると丈は初めてヤマトにキスをする。
会えて嬉しい。君が好きだという想いを伝えるために。
『だから…ずっと一緒にいようね』
この告白に流石のヤマトも嬉しそうに破顔すると、丈を思いっきり
抱きしめる。
ボトッ。すごい音がしてしまう。
『ヤマトさん…丈さん』
『お兄ちゃん』
2つの声に振り向くとコンビニの袋片手に立っている高石タケルと本宮
大輔の呆れ顔と唖然とした顔があった。
(あーあ、お邪魔虫。丈がキレル…はず)
案の定、耳まで真っ赤にしたヤマトのお姫様が立っていた。
『ゴッ ゴメンナサイ』
『大輔くん、お邪魔虫は悪いよ。行こう』
タケルが大輔の手を取るとにこやかに去って行く。この時、ヤマトは少な
からず大輔に同情していた。
『ばっちり見られたよ』
丈はため息をついて口を開くと、ヤマトは『大丈夫』と呟く。
『あいつら付き合っているから』
『えっ』
『オレの感だけどな』
大体、小学生がこんな時間にデート以外に外出はしない。
それにしても弟想いの人は、親友の弟分なのは…どうしたものだろう。
『丈、今が幸せならそれでいいだろう』
『……そうだね』
きっと何度もケンカしてもすぐに仲直りするはずだ。
今日もあの2人に見られてもまぁいいかと思うのも半分あるし、ヤマトの
優しさも方が嬉しかった。
この夜、王子様はお姫様をしっかりエスコートしたとさ。
これはある夏の夜のおはなし。
この後はどうなったかは2人だけの秘密である。