積水化学グループCM撮影報告
JSC
倉田修二
MBS(TBS)系列 道浪漫 1999
(野鳥)
私が積水化学グループCMを担当させていただいて、今回が3度目になるのですが、今回の
作品は、私にデビュー作に匹敵するほどの緊張感を与えたくれました。今までにも自然を題材
にした作品は、幾度となく撮ってきましたが、今回のテーマは「野鳥」なのです。皆様の殆ど
は、野鳥とお聞きになっても別に驚かれないで しょうが、無知な私は、鳥で知っているのは、
スズメ、カラス、ハト、・・ペット屋で売られている有名な鳥、頭の中に浮かぶのは二本の手
の指でたりる位なのです。F A X からコンテが流れてきました。テーマ「生態系のサイクルの
中で営まれる野鳥の生態を描いて、自然との共生をめざす積水化学グループの企業姿勢」。
野鳥をただ撮るのではなく、生態系との共生を表現しなければ・・・手に取ったコンテを見
て、頭の中で色々な映像が駆けめぐりました。でも本当に撮影が出来るのか?緊張なのか、不
安なのか、期待なのか、とにかく武者震いのようなものを感じました。
丹頂鶴
(打ち合わせ)
電通の田中文夫氏、プロデューサーの細川茂樹氏、監督の小出肇氏、前作と同じメンバーで
あり、遠慮なしに意見の交換が行われ、野鳥は出来うる限り撮影する。C Mの中で、生態系の
サイクルを表現するためには、自然美と野鳥、共生の表現としては、他の生物との同時撮影、
CMの流れの中で、人をどの様に登場させるのか?人物の表現とはなにを表すのか、など深夜
まで会議は続き、ロケ地の選定に移り、資料を検討し、釧路、根室、両湿原を候補にロケハン
する事に決定。制作部の意向で、ロケハンに於いても撮影出来るスタイルで出発。
(ロケハン)
高田氏と私
スケジュールの都合上、私は一日遅れで空路東京から千歳へ、寝台急行に乗りつぎ、翌早朝
に根室で合流。前日同様、どしゃ降りだ。昨日釧路では、霧まで出て殆ど野鳥は見れなかった
そうだ。PMの篠田君のロケハン用DVCカメラ(VX1000)には、ショウドウツバメだ
け写されていた。
ロケハンには、これの他に釧路でレンタルをした、ベーカム一体型を用意した。
北海道野鳥の会のご紹介で、根室で民宿『風露荘』を営んでおられる高田勝氏に、コーディ
ネイトをお願いした。氏は、「ニムオロ原野の片隅から」(福音館書店)、「雪の日記帳」
岩崎書店、第五回吉村証子記念科学読物賞受賞等、数多くの著書がある。
私たちは、鳥に接する際の注意点を高田氏から教わる。「驚かさない!」「雛がいる場合、
あまり近づかない!」「撮影で荒らす人がいた」等々、私たちには、耳の痛い話もされた。
簡単な打ち合わせ後、走古丹(別海町、風蓮湖)に出発。途中、丹頂鶴の親子と出遭う。鶴
の警戒心は強く、人の気配を察すると直ぐに逃げる。幸い、どしゃ降りと霧のために私たちの
気配が無かったみたいで間近(50M)で撮影が出来た。しかしモノクロファインダーの中でも
力のない画だ。トイレタイム(中標津町公衆トイレ)時に、思わぬ画が撮れた。篠田君が用足
しをしている時、鳥が飛んでいるのを発見、高田氏に告げる。赤ゲラだと判る。「近くに巣が
在るはずだ」高田氏がそっと見に行くと、なんとトイレ裏の桜の木に、それも一メートル位の
高さに巣を構えている。高田氏が、ブラインド(商品名ワンタッチ迷彩ブラインド)を広げ、
十メートル位の所に張る。その中は、半畳広さで、一メートル位の高さ、窓があり、レンズが
出せる。外は迷彩柄である。ベーカムを持ち込み、待つこと三十分、「30分位経っても
親鳥が帰ってこなければ、雛のため撤収してください」高田氏の言葉が頭をかすめる。やはり
駄目かと思った時、親鳥が餌をくわえて戻ってきたのである。ONにするが立ち上がりに苛立
つ。その後、約二時間粘っていたらしい。しかし、その中で鳥が戻ってくる時のタイミ
ングが少しつかめた気がした。
その夜、風露荘で打ち合わせ、赤ゲラは、距離も近くOKだが、丹頂鶴は無理かもしれない
と告げる。高田氏が本番でもVTRなのかと尋ねられ、「CMだと、普通アリなんかで回すん
じゃないですか」高田氏は、以前大手プロダクションの制作部にいたらしい。俗世界の私との
距離が少し縮まった、そんな気がしたのは、私だけだったのだろうか。
(機材選定、最終打ち合わせ)
撮影風景(走古丹)
大阪に戻り、再度の打ち合わせ、FILMなのかVTRなのか、私の主張は16ミリでの撮
影だった。機動性と長尺のメリットを優先させた。赤ゲラ撮影時の経験も、そう決断させた。
VTRの機動性や長回しの意見も出たが、ハイスピードやレンズの選択幅などのメリットを説
明し、35ミリとの解像度でもテレシネ及びデジタル編集などで VTR以上でオンエアにおい
ての問題は殆ど無いと説明。
(撮影)
7月下旬に交尾を向かえる野鳥が多いのと雛を持っている鳥がいるので一回目をその時期
に、8月中旬に人と鳥との共生シーンを撮影。
7月20日、晴天、中標津空港に到着、スタッフは少人数だ。大阪から私を含め、助手さん
一名、制作一名の計三人だけ、16でも大変である。現地のスタッフが札幌から、麻生リース
の田上早机子嬢、リバーアップの多川昇氏、そして高田氏だ。以上六名の少数精鋭?スタッフ.
敏感な鳥たちの反応を少しでも和らげるために車両を一台に限定。助手さんは、京都の撮影
所時代の後輩、岡田賢三君にお願いした。計測とFILMローダーの両方で大変だが、快く引
き受けてくれた。カメラは16SR=HS、レンズは、NEWツアイス(10〜100)、シネバ
ロ(25〜250)、キャノン300ミリ(T2.8)それとテレモア(X2)を用意した。ヘッドを
ハトラースタジオ7に、ロンフォードの三脚にした。FILMは、EK7245,7246,
個人的には、FUJIを好むのだが、原色の再現性と、空気層の忠実な表現でEKを選択。
シマセンニュウnbsp;
昼食時にスタンバイをし、走古丹へ車を進行させる。車窓にオジロワシ、シネバロで狙いを
つける。今回の最初のシュートだ!思っていたよりも早く回せたことに内心ほっとする。
高田氏が耳元で「シマセンニュウ」と囁く、指さす方向に小さな鳥、300に換えファイン
ダーを覗く、『チチィチョイチョイ』可愛らしい声である。体長15cm位、屏風絵のような
気持ちのいいサイズである、がCMだとどうしても弱くなる、せいぜい5秒位でロールテロッ
プも流れる。もっとアップが欲しい、そこでブラインドが役立つ、今回は大阪からも持ってき
た。約十メートル迄近づく、可愛く鳴いている鳥だが、無知な私には、スズメに見えてしまう
のだ。そっと退散する。次の現場に行こうと車に乗りかけたとき、岡田君が手招きする。
「ノゴマです」、300にテレモアを付け車の横でカメラを向ける。喉元に赤い特徴のある鳥
で、私でも見分けられる。出発前、図鑑を見ていて特徴の有る鳥だけが頭にのっこていた。
『チュイーチュイー』と鳴く鳥である。
今日の調子は大変いい。ファインダーにすんなりと鳥たちが入ってくる。調子に乗りブライ
ンドも被らず近づく、『クッ、クッ』鳴き声が変わりどこかへ、人の気配をばらまいたみたい
だ。とにかく、又ブラインドの世話になる。先程迄、ノゴマがいた場所に近づきレンズを向け
暫く待つことにする、と鳥が動いた気配を感じて回す。ファインダーに目を置くと、そこに黒
っぽい鳥がフレームイン、ピントもきている。「ラッキー」私の心の声である。横にいた岡田
君がクールに「ノビタキですよ」と囁く、「なんで直ぐに鳥の名がでてくんねん?こいつ」、
彼は、若いときに野鳥に興味があったそうだ。少しばかり心強く思う。
違うポイントを探してきた高田氏が戻ってこられたので〈ノゴマ、ノビタキ〉の事を伝える
と、「よかったですね、このポイントで3種類も撮れたのですか」少し驚かれていたようだ。
ポイントを移し、コヨシキリ、を撮影する。ここからは、殆ど300x2での撮影だ。
この日、走古丹で結局、9種類もの撮影に成功〈シマセンニュウ、ノゴマ、ノビタキ、コヨシ
キリ、カワラヒワ、アオジ、〉の小鳥たちと、〈アオサギ、スズガモ、オジロワシ〉等、
その夜、高田さんを囲み、おいしい酒を少しだけ(たっぷりといきたいのだが、翌朝5時で
スタッフ全員ひかえていた。)飲み干し、床につく。
21日もピーカンだ、朝食は、「風露荘」特製の野草の実(ハマナス、スモモ、ヤマブドウ
、フウロソウ、等々季節により少し異なる15〜20種類も食卓に並ぶ)で作ったジャム、
それをおいしいパンにつけいただく。オオセグロカモメの飛翔シーンがこの日の最初だ。
ゴマフアザラシが走古丹の先端で見れるとの事、一時間ぐらい粘るが、結局現れず。風蓮
湖の浅瀬でアオサギと丹頂鶴の”共生”を撮るが、水蒸気が多く、陽炎がひどく撮影を中止す
る。風蓮川の河口でハクセキレイを撮影する。
赤ゲラ
枯れ木に照準をあわせ、ブラインドに入る。高田氏曰く、「この木には、いつもいろんな鳥
たちが止まるので」、高田氏や他のスタッフは、気配を消す為に足古丹の方へロケハンに行く
、私と岡田君は、約2時間その中に入る。この日根室は、記録的な暑さで32℃まで上がる。
熱い上に蚊が多い、虫よけスプレー等まったくダメでも動けない。気の短い私は、1羽もこな
い事もあり、ついにブラインドを投げ捨てる。岡田君が笑いながら、「昔とひとつも変わって
いませんね」撮影所時代、計測をしていた時、よく照明技師さんと喧嘩をしていた事などをい
っているようだ。その時、枯れ木と正反対で、「ピキュキュキュキュルル」と鳴き声がする。
慌ててレンズを向ける。茂った木の中なのでなかなかフレームに入らない、後ろから岡田君に
指示をもらう。トランシーバーから制作の声、「監督と連絡が取れ、なるべく番鳥か親子を撮
影してくれとのことです」、1羽撮るのも大変なのに、と思いつつ必死で鳥を撮っていると、
なんともう1羽がフレームインしてくるではないか、餌をくちばしでくわえ、もう1羽に与え
るシーンが撮れる。ラッキーである。監督の指示どおりの画が撮影できる。この鳥は、コムク
鳥の番いであった。この現場ではハクセキレイ、コムクドリ、ニュウナイスズメが撮影できた.
移動中、丹頂鶴を発見、高田氏の話しでは、報告されていない場所で、別海小学校から1KM
位の牧草地である。道路沿いにいるので行き過ぎてからカメラを組み、隠れながら近づくが、
逃げられてしまう。
夕方になり宿への帰り道、多川さんが丹頂鶴と鹿を発見する。
私たちには見えない、双眼鏡で確認すると、入り江の丹頂鶴の前を二頭の鹿が泳いでいるではな
いか、夕日を浴びて大変綺麗なシーンである。が、カメラを回す余裕が無くその後、二回目のロ
ケを併せて七回その現場に通うが結局撮れなかった。
今でも、脳裏にその美しいシーンが残っているのである。多川さんの素晴らしい眼力(3.0)
はその後、幾度と無く助けてもらった。又、多川さんは雑誌等で活躍されているプロのカメラマ
ンで、北海道でも屈指のカヌーリストで、二回目のロケで、親子のカヌーシーンでの
指導及びカメラ船の製作も担当してもらった。
最終日、8月12日、摩周湖近く西別川源流に於けるカワセミの撮影で全日程を終了する。
その撮影では、6時間ほど同じ所で粘るのだが、鳥たちが私を育ててくれたのか、少しも苛つ
くことなく撮影に成功した。CMでは使わなかったオジロワシの狩りシーン等、(面白いのだ
が秒数がかかりすぎる)映画でしか見れなかったシーンを自分のファインダーの中で観れた事
に感激しています。
作品に協力して頂いた高田勝氏と奥様、出演していただいた、品田家のご家族様、そして現
場まで来ていただいた(株)セキスイマーケティングセンター、相原様、スタッフの皆様に感
謝いたしております。
代理店(株)電通 小森純夫氏、田中文夫氏
監督 小出 肇氏
プロデューサー 細川茂樹氏
CAMERA ARIRI 16SR=HS
FILM EK7245,7246,
撮影助手 岡田賢三君 大淵博道
制作 リバーラン株式会社
日本映画撮影撮影監督協会 機関誌 『映画撮影』から抜粋
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