青色記憶帯

 

「あんたのは灰色記憶帯ばかりだな」ユーゴは自動的にスクロールしていくディスプレイ を、リード・ペンの先で叩いた。「これじゃ、値段のつけようがない」
 ジョウスはこめかみに残った電解液を拭き取りながら吐き出すように言った。
「最初からそう言ったはずだ。俺には他人に売れるような記憶はない」
「まあ、そう怒るな。誰でもそう言うんだよ。記憶の価値なんて自分では分からないもの だ。……おっと、ちょっと待った。ここの青色記憶帯は悪くないかもしれん」
 ユーゴはリード・ペンをディスプレイの青く表示された部分に押し当てた。ジョウスの 記憶が、ヘッドギアを経由しユーゴの脳へ流れ込んでいく。
 再生には時間が掛かる。その間、ジョウスはユーゴが持ってきた記憶カタログを物色し た。カルロスの赤色記憶帯コレクションVOL1、キムの金色記憶帯革命編。どれも魅力 的だ。
 やがて、ユーゴがヘッドギアを外した。
「この記憶をもらうよ。五千出そう」
 ジョウスはディスプレイを見た。灰色の中にぽつんと浮かんだ青色の部分があるだけ で、それが何の記憶なのか、分かるはずもなかった。
「双子の男の子か」
 ユーゴが言った。ジョウスはその記憶が何だったのかに思い当たり、口の中が苦く なった。
「あれは西地区なんだろうな」
「ヴィポロス海岸だ」
「ヴィポロス。俺も行ったことがある。いい街だ」
『だった』だ。ジョイスは胸の内で訂正する。
「案外、こういう平凡な情景というのは需要があるんだ。みんな家族の記憶を求めている からな。おまけにとても鮮明な記憶だ。ほとんど修正せずに……」
「もう、帰ってくれないか」
「ああ、分かったよ。みんな記憶を売った後は機嫌が悪くなるんだ。また、用が出来たら 連絡してくれ」
 ユーゴが部屋を出ていった。ジョウスは椅子を離れ、窓の前に立った。外には巨大なコ ロニーが広がっている。ここの住人は、貪るように記憶を交換し合う。突然失われてし まった星の記憶を。今となっては灰色記憶帯を増やしていくしかない彼らに許された、そ れが唯一の娯楽だった。
 ジョウスは椅子に戻り目を閉じると、ヴィポロスでの青い色の記憶をゆっくりと再生し 始めた。だが、その記憶は鮮やかであればあるほど、ジョウスの気持ちを重く沈めていく だけだった。

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