巣くう

 

 ずり落ちた眼鏡越しに、男がエロ本を立ち読みしている。
 俺の視線に気付き、振り向く。俺は目を逸らさない。男は、舌打ちすると乱暴に雑誌を 戻し、店を出ていった。
 午前二時。
 客は誰もいなくなった。
 パイプ椅子に座って、レジの横に足を上げ、写真誌を捲る。
 ドアが開き、冷たい風と一緒に入ってきたのは店長。そのまま、レジを開けて万札を抜 く。俺には目もくれない。店長は、ふらつきながらまた外へ出ていった。
 俺は雑誌に目を戻す。胸にシリコンを詰め込んだ女。自分の中身をかき回している女。
 反動をつけて立ち上がる。レジの奥を抜け店長の部屋へ。
 点けっぱなしのテレビ。エデンの東。
 薄汚れた絨毯の上、足をヒーターに向けたまま、女はまどろんでいた。
「奥さん、また、店長、金持って出てっちまいましたよ」
 肩に手を掛けて揺さぶると、女は唇の端から垂れた涎を拭いた。とろんとした目で俺を 見上げる。
 俺はジッパーを降ろし、硬直したものを取りだして、くわえさせた。女はすぐにたっぷ りの唾液をからませ始める。髪を鷲掴みにし、喉の奥まで突っ込む。ブラウン管から、哀 しい目をした男が俺を見つめていた。
「ねえ、他のバイトの子、全部辞めてもらったんだけど、ほんとにあなたひとりで大丈夫 なの」
 女が俺の精液で唇を濡らしたまま言う。俺は頷く。ジッパーを上げ、店に戻った。
 店の冷蔵庫からコーラを取りだし一気に飲む。
 ドアが開いた。さっきまで立ち読みしていた男だった。男は再び雑誌を読み始めた。俺 は男の後ろに立った。脂の浮いた後ろ髪を掴み、強く引く。男の顎が上がった。横目で俺 を見る。おびえていた。
「俺、自分の店で立ち読みされるの嫌なんです」
 手を緩めると、男は財布から千円札を取り出して俺に渡した。そのまま、釣りも受け取 らず、消えた。
 俺の店。もう一度そう呟いてみる。胃の下の辺りが暖かくなる。家でも学校でも居所が なかった俺。ようやく見つけた居場所。誰にも邪魔させはしない。
 ドアが開く。
「いらっしゃいませ」
 俺は笑顔を浮かべる。
 ようこそ、俺の店へ。

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