通り雨

 

 強い日差しはそのままに、雨が激しく降っている。水飛沫が跳ね、縁側に座る俺の服 を濡らした。
 淑子が買い物袋を下げ、小走りに帰ってきた。髪は濡れ、白いブラウスから下着が透 けて見えていた。
「もう、最悪」
 サンダルを脱ぎ捨て、部屋へ駈け上がる。やがて、風呂場から湯を使う音が聞こえて きた。
 庭に目をやったまま耳を澄ます。子供の頃、海水浴場でシャワーを一緒に浴びたこと があった。まだ丸みのない身体。陽に焼けた肌。不思議なほど鮮明に思い出す。
 ふと気付くと雨は上がっていた。
 淑子がタオルで髪を拭きながら戻って来た。タンクトップの柔らかい生地を乳首が押 し上げている。
「喪服、出しとかないと皺になるわよ」
「気が利くんだな」
「これでもこの前まで主婦をやってたんだから」
 淑子は俺の鞄の中から喪服を取り出した。こうして顔をあわせるのも親戚が死んだと きぐらいね、そう言いながら鴨居にハンガーを吊す。身体を伸ばしたとき、大きく開い た袖口から白い乳房がのぞいた。
「ネクタイ、忘れたんだ。叔父さんのを貸してくれないか」
「相変わらずね」淑子は俺の方に向き直り、大きく伸びをした。「ああ、田舎は退屈。 そろそろ出ていきたいな」
「また、男に騙されるだけだぜ」
「何よ、偉そうに」淑子は手を後ろに組み、胸を突きだす。「そういえば、ずっと前、 中学生にキスを教えてあげたことがあったっけ」
 彼女は高校生だった。柔らかい感覚が蘇る。
「うぶだったわよねえ。どう、少しは女扱いがうまくなった?」
 俺は近づいてきた淑子の手をつかみ抱き寄せた。タオルが畳の上に落ちる。淑子は怯 えたように目を閉じた。その表情の意外なもろさが、俺の頭の芯を熱くした。唇を合わ せ、舌を差し込む。彼女の唾液は甘く、苦かった。淑子は首を激しく振り、俺の唇から 逃れた。
「表から丸見えじゃない」
 かすれた声。
「見えないところならいいのか」
 淑子は目を伏せた。俺は彼女を抱き上げ、隣の部屋へ放り出すようにして降ろした。
「脱げよ」
 淑子は横座りになったまま動かない。傾いた日差しが障子越しに淑子の背中を照らし ていた。柱時計が時を刻む音がやけに大きく部屋に響く。淑子の俯いた顔の下、黄ばみ ささくれた畳に、ひとつ、ふたつとしみがひろがっていった。
「馬鹿、冗談だ」
 淑子を残して縁側に戻り、茜色の空を見上げる。
 火照りを冷ます雨。もう一度やってこい。


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