サファイア王国城下町のとある宝石店でのことである。
ここには先ほど高額で仕入れられた宝石があった。
どこかしら神秘的な輝きを放つ紫の宝石。
アメジストなどとは少し違うようである。
店の主人は見たこともないこの宝石を高く評価し、旅の女性と小人のペアから買い取ったのだ。
(この宝石はもっと高く売れるぞ・・・)
主人がそんなことを考えていると呼び鈴が鳴った。
チリン、チリン・・・
客のようだ。
「いらっしゃいませ、本日はどのような代物をおもとめでしょう?」
形式として声をかけたが、客の姿を見て主人は溜め息を吐いた。
「・・・なんだ、たぬきか。」
たぬき。王国間を渡り歩く行商人の、あのたぬきである。
狂暴化したピカ子からうまく逃げおおせたたぬきは、
メロン国で収入が得られなかったので、ここサファイア王国へと新しい商売のネタを探しに来たのだ。
「一応客だから買ってくれるなら売るが・・・値下げはしないからな。」
主人がたぬきを見て溜め息を吐いたのは、
彼がなんでも値切りまくるからである。
それもどんなに「値下げはしないぞ」と誓って臨んでも、
彼と交渉をするうちにいくらか値下げをしてしまうのだ。
一説には催眠術か、もしくは魔術をつかっているのではないか、とも言われている。
まぁたとえそうだとしてもタダで持っていったりしないのは商売人の誇りの成せるわざなのだろうか。
「そんなに構えないでよ〜、損をさせるようなことはしないからぁ。」
そういってたぬきは何かいい商品がないか物色し始める。
しばらくもせずしてたぬきの目がある一点で止まった。
あの紫の宝石である。
「珍しいものを仕入れたね〜、いくらかかったんですかぁ?」
数瞬のあと、主人が答える。
「30万だ。」
しかしたぬきは眼鏡を上げる仕種をして切り返す。
眼鏡なんてかけていないのだが。
「ごしゅじ〜ん?ぼくに嘘をついても無駄だよ〜、本当の仕入れ値を教えてくれる?」
主人は悔しそうに答える。
「くっ・・・20万だ。」
「今度はホントみたいだね。ぼく、この宝石を買うよ。」
主人は焦った。
(たぬきにこの宝石を・・・せっかくの儲けの種を渡すだと・・・?冗談じゃない!)
「それはもう先約があるから無理だ。」
とっさにそういうが・・・
「だぁかぁら〜、ぼくに嘘は通じないって言ってるでしょ?」
「うぅ・・・なら、35万でどうだ・・・。」
一応ふっかけてみる。
「う〜ん、仕入れ値がホントに30万だったらそれくらいでも、と思ったかもしれないけどね。」
たぬきは全然余裕で却下する。
「30万だ。」
「それもボリすぎでしょぉ〜。」
たぬきは笑っている。
「28万だ!」
「じょ〜だん。」
「に、25万!」
「まだまだぁ。」
「24万・・・」
「21万にしようよ〜。」
「馬鹿な?!いくらなんでも23万が限界だ!」
「そうかな〜?21万だよぉ。」
「22万だ!これ以上は・・・」
「よぉし、買ったぁ。」
そういうとあらかじめ用意していたのか、
金の入った袋と交換に紫の宝石を持って、たぬきは店を出ていってしまった。
「・・・はっ?ま、またやってしまった・・・。」
後悔してももう遅い主人であった。
「あはは、いいものてにいれちゃったぁ。」
喜ぶたぬき。
「たぬきの声には魔力があるっていうのは便利だよね。」
そう独りごちると、宝石をしげしげと眺める。
「これって封印の魔石だよねぇ・・・色からすると妖魔が封印されてるのかな?」
妖魔といえば不老で知られる種族である。
それが封印された魔石などめったにお目にかかれないもの。
「そうだ。この魔石をゆぴ姫に見せびらかしてあげよっと♪」
メロン国で稼げなかった腹いせか・・・。
「もし魔石を取られそうになったら封印をといて僕を守らせればいいしね。
ゆぴ姫はどこに行ったのかな〜?」
ゆぴ姫を探してたぬきは歩き出した。にこにこと笑いながら。
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