わいのアパートからちーとばかし離れた大きめの本屋に行ったんや。遠くではおまへんやけど、そやけどアンタねきとは言えへん距離や。その本屋に行くには大きな通りを渡らなならしまへんやった。
大通りの横断歩道を渡っとるときに、左翼折したろとおもた車とぶつかりそうになってしもたんや。信号は青やったし横断歩道の上を歩いとるんやから、車は歩行者が渡るまで待たなならしまへん。わいは悪うへんはずや。そやけど、その運転手はクラクションを鳴らしてさっさと行けちう手振りをしましたわ。わいは毎日毎晩壱年中のようになあんも言えんとその場を立ち去ったんや。あとからもんごっつ頭にきたんやけど、もう過ぎてしもたことや。もうどうにもならへんし、あのときわいに何ぞできたとも思えしまへん。そやけど、頭の中で乱暴な運転をした奴をしばいたり蹴ったりするっちうことを何度も考えただけやった。
そないな嫌なことがあったんやけど、どないかして本屋に着きましたのや。睡眠薬やらなんやらに関する本を探してみたんやけど、これといった本はめっかりまへんやった。
やけど、医学関係の書籍をいくつか見とったら、おもろい本を見つけたんや。題名は忘れてしもたけど、人体の細胞に関する本や。細胞の中には外部から刺激を受けたわけでもなく老化したわけでもないのに、自然と内側から崩壊していくもんがあるさいです。この細胞の自殺のことをアポトーシスと言おりますわ。生物が存在できるんはアポトーシスがあるからで、自殺した細胞の間に神経やらなんやらがつくられはるちうことや。
わいは、アポトーシスちうんはどなたはんかを助けるために行われとるみたいだなと思てたんや。わいはあと69日で死ぬつもりやけど、そやけどアンタ、わいが死ぬことによってどなたはんかを助けるようなことはなあんもないんや。
あと69日。
昼過ぎに起きたとき、喉の奥に何ぞが詰まったような感じがして咳が止まらしまへんやった。タブン...たぶんやで、わいもよー知らんがタブン昨大日本帝国屋に行ったときに風邪をうつされたのや思うで。ちーとばかし頭がフラフラして熱っぽいや。
もしかしたらこのまんま死ねるかもしれんと一瞬おもたけど、風邪くらいで死ねるわけがおまへん。それにあと68日間は生きていなければならへんような気がしてきましたのや。死ぬ準備をするためやのに・・・。不思議な気分です。
あと68日。
昨日の風邪がひどくなりよったんか、体中がだるうて力が入らしまへん。体温計があらへんので分からしまへんが、タブン...たぶんやで、わいもよー知らんがタブン熱も出てきた思うで。
普通の人やったらこないなときどエライ嫌な気分になる思うんやが、わいは逆にどエライ安心しまっせ。病気やったらば無条件で家の中に居られはるからや。外に出なくてええんはどエライ楽や。やから、雨ちゃんの日も同じように好きや。
そやけど、いつか病気は治ってまうし雨ちゃんも上がってしまいまんねん。外に出ればまた辛い現実と向き合わのうてはならしまへん。
あと67日。
昨日よりは熱が下がってきたようや。そやけど、まだ全身の気だるさは抜けまへん。咳も相変わらず出とりまんねん。あと2、3日もしたらようなる思うんやが。
メールで、様々な薬物の致死量が載っとる本を教えてもうたのや。薬学の専門書のようや。値段はちーとばかし高いんやけど、買う価値はある思うで。『完全自殺マニュアル』よりも役に立つ本らしいや。売っとる書店も教えてもろておるさかい、風邪がようなりよったらさっそく買いに行こう思うで。
あと66日。
おもたとおり、だいぶ気だるさが抜けてきましたのや。咳もあんまり出なくなってきましたのや。明日か明後日には本を買いに行ける思うで。風邪は治ってきましたのやが、また外に出なければならへん思うと陰鬱な気分や。
あと65日。
まだちーとばかし頭がぼうっとしとったけど、本を買いに行ったんや。今度は新宿まで行かへんし、その手前の駅ねきにある書店や。
毎日毎晩壱年中のように混雑する時間を避けて電車で行ったんや。本日この時まで3回しか攻めて来よったことのあらへん場所やったけど、その書店はすぐに分かったんや。また、メールで教えてもうたとおりの売り場にあったんで、目的の書籍もすぐにめっかりたんや。
専門書だけあって『完全自殺マニュアル』よりもようけの睡眠薬と致死量が載っとりまんねん。睡眠薬以外にも農薬や洗剤、消毒剤、植物、きのこやらなんやらも掲載されとったんや。まだぜええんぶひとつのこらず読んでいまへんが、ごっつうの知識がつきそうや。
今度は『完全自殺マニュアル』のときとちごて、なんでやろかわいもよーしらんがどエライ冷静や。オノレの歩くべき道をただ淡々と行くような感じや。
帰りの電車の中で、長髪の男性と奇麗な女性のカップルが、もし宝くじが当たったら何を買うか話しとったんや。男性は「とりあえず家と車かいな」と言い、女性は「2人でアチラ旅行に行こうわ」とぬかしておりましたわ。どエライ楽しそうや。わいには遠い世界のことのようやった。
あと64日。
昨日買った本を時間をかけてちびっとずつ読んでおりますわ。その本によると、睡眠薬の中ではバルビツール系のもんが効果が強いらしいや。バルビツール系の推定致死量は1〜2gと少量や。ブロムワレリル尿素の致死量が30〜50gなのを考えれば、いかに少量で死に至るんかが分かるんや。
ドクター・キリコ事件で使われた青酸カリも調べてんだんや。シアン化水素の致死量は50mgとバルビツール系の睡眠薬よりもずっとちびっとのけど、死ぬまでごっつう苦しまのうてはならへんようや。症状を比較してみると、やっぱり睡眠薬の方がええ思うで。
これでだいたいの目星はつきましたのや。幸いなことに商品名も載っとりまんねん。病院で薬を出されたら、それが何なんか医者に聞かんと済みそうや。本日この時まで知識がなかったさかい、薬を飲むんは助かってしまいそうやからでけへんかったけど、今は集めた錠剤を飲んどるオノレの姿がぼんやりとやけど、そやけどアンタイメージできまんねん。
あと63日。
悪夢にうなされて体中汗びっしょりで起きましたのや。悪夢を見るんはようあるけど、今日の夢はホンマに気持ち悪かったや。起きた後もごっつうの間、不快感がようけでなあんも考えられしまへんやった。
わいが少女を犯す夢やった。少女の口にはパンティが丸めて入れられてて、タオルで目隠しをされとりまんねん。服はビリビリに破けてて、腕にわずかに布んはしきれのように絡み付いとったんや。
工場の跡地のようなトコロです。ぐらつく窓の外には、カラスが2羽、錆付いた車の屋根に止まっとりまんねん。わいたち以外にはどなたはんもいまへん。
わいは少女の腕を押さえてペニスをソーニュー(うひひひ...おっとカンニンや)しまっせ。出し入れするたびに少女は悲痛なうめき声を出しまっせ。快感はまるっきし感じておらへんようや。ほんでもわいはかまわんと動かし続けまんねん。
と、突然パトカーのサイレンが聞こえてきましたのや。きっとこの少女の両親が捜索願いを出して、警察が少女の足取りを追ちう、わいを突き止めたのやと思てたんや。わいはもう逃げられへんと思て裸のまんまで立ち上がり、薬が入った瓶を手に取ったんや。この瓶の中には青酸カリが入っとりまんねん。飲めばもがき苦しみながら死にまんねん。そやけど、もう時間がおまへん。すぐそこまで、ドアのすぐ外に警官の靴音が聞こえとりまんねん。もう死ぬしかおまへん。震える手で瓶を傾け、口の中に液体を流し込みまんねん。警官がドアを開けたといっぺんに、胸を掻き毟るような苦痛が襲ってきましたのや。
ほんで目が覚めたんや。もんごっつ息遣いが荒く、ベットのシーツがごっつう乱れとったんや。起きた瞬間、恐怖感は不快感にかわったんや。自己嫌悪や。いつもの妄想とは違い少女を無理矢理犯して、しかも青酸カリで死ぬ。もしかして少女を強姦するんがわいの願望なんかもしれしまへん。苦しみながら死ぬのも、無意識にホンマのわいが望んどることなんかもしれしまへん。そう思たら、どエライ気持ち悪うなってしもたんや。
はよバルビツール系の薬を集めよう思うで。
あと62日。
昨夜、眠るのがどエライ恐うて、外が明るなるまで寝付けまへんやった。夢の中ではわいの醜い欲望が際限無く溢れ出てくるような気がしまっせ。醜い欲望は押さえ込んでおかなならしまへん。そうせな、ホンマにどなたはんかを傷つけてしまいそうや。
あと61日。
今日もあんまり寝てへんねん。
電話帳で精神科の病院を調べてんだんや。意外にようけの病院が載っとりまんねん。精神科・神経科と内科のある病院が多いや。内科があるトコは、それだけ患者の体内まで精通してんような気がしまっせ。今は薬だけだしたかてらうたらほんでええや。精神科と神経科(タブン...たぶんやで、わいもよー知らんがタブンこの2つは同じや思うで)だけがある病院かクリニックを選んで行こう思うで。
あと60日。
毎日毎晩壱年中のように昼過ぎに起きて部屋の中を見まわすと、天井の隅が歪んどるように見えたんや。今日もあんまりよう眠られへんかったさかい、そのせいかもしれしまへん。ちーとの間ベットの中でぼうっと天井を眺めとったら、ちゃんと見えるようになったんやが。
精神科と神経科だけがあるクリニックをいくつか選んだんや。病院は大掛かりの施設がありそうやから除外しましたわ。
タブン...たぶんやで、わいもよー知らんがタブンわいは病気と診断される思うで。うつ病や思うで。そやけど、わいは子どもん頃から陰気な性格やった。暗いオノレを隠して生きていこうとしましたわ。もう十何年もうつ病なんかもしれしまへん。
あと59日。
起きとるとき、なんでやろかわいもよーしらんが毎日毎晩壱年中青酸カリで苦しみながら死ぬことを考えてしまいまんねん。睡眠薬を致死量分飲めば、苦しまんと死ねるはずやのに。こないなことやったら青酸カリについて知らなよかった思うで。そやけど、わいはもう青酸カリを飲めばどないなるか知っとりまんねん。睡眠薬で眠るように死ぬのも青酸カリで苦しみながら死ぬのも、結果だけ見れば同じ死や。
青酸カリ以外にも簡単に手に入る農薬や殺虫剤で死ぬこともできまんねん。タブン...たぶんやで、わいもよー知らんがタブンもんごっつ苦しまなならへん思うんやが。これらやったらば、わざわざクリニックに行って薬をもろてくる必要はおまへん。クリニックの医者に会わんとええや。睡眠薬を手にぶちこむより楽な方法や。わいはホンマはクリニックなんかに行きとうないや。楽な方を取りたい思っとりまんねん。そやけど、楽な方を取ると、死ぬときに苦しまのうてはならしまへん。やから恐うてたまらへんのや思うで。
クリニックに行って医者と話すんは嫌やけど、睡眠薬をもらうために行かなならしまへん。明日は、選んやクリニックに電話をかけて予約をしたろおもて思とります。
あと58日。
駅に比較的ねきて精神科と神経科だけがあるクリニックに電話をしましたわ。
もう1年以上、オノレから電話をかけてへんねん。かかってくる電話をとるとき以上に緊張しまっせ。電話の前で何回も、予約するっちうときの言葉を繰り返してぬかしてんだんや。まず予約を入れたいことを伝え、タブン...たぶんやで、わいもよー知らんがタブン症状について聞いてくるさかい眠れんと答え、ウチが希望する日時を言うたらええはずや。それを紙に書いて何度も何度も復習してんだんや。ほんでも、クリニックの電話番号を押してんときにためらってもうて、途中で受話器を置いてしもたんや。
4度目に、受話器を置く前に相手が出たんや。
「はい、○○クリニックや」
若い女性の声や。
わいは「あ、あの・・・」と、しどろもどろになってしまいました。受話器を持つ手が汗ばんでいます。それから何も言えなくなってしまって、何か言わなきゃと思っても、緊張して予約を入れたいことを言えません。
ちびっとの沈黙の後、クリニックの女性が、
「通院されとる方やろか?」
と聞いてきたさかい、わいは慌ててメモを見て、
「予約を入れたいんやけど・・・」
とぬかすことができましたのや。
その後はほぼわいが思うていたとおりに話が進んだんや。ただ症状については、「どないなお悩みでっしゃろか?」としか聞かれしまへんやった。
どないかして来週の火曜日の午後に予約をぶちこむことができましたのや。ちびっとずつやけど、そやけどアンタ目的に向かって前進してんように思とります。
あと57日。
ぼちぼち不安になってきましたのや。火曜日にクリニックに行き、医者にちゃんと不眠症やとぬかして、睡眠薬を出したかてらえるかどうかどエライ心配や。
面と向かってまともに他人と話すんは、もう何年もへんかったように思とります。本日この時まで友達は1人もいへんかったし、学校の先生とも会話はしてへんねん。先生に何ぞ聞かれたときに、「はい」とか「いいえ」と答えていただけやった。
父ともほとんど話してへんねん。独り暮らしを始めてからは特にそうや。会ってもいまへん。そのほうがお互ええいやろし。
ほんでも他人と話しをせなならへんときは、どエライ緊張してもうて、暑くもないのに体中汗をびっしょりかいてしまいまんねん。相手が話す前にウチから話してしもたり、まるっきし場違いなことをぬかしてしもたりしまっせ。会話が成り立ちまへん。相手に失笑されたこともおました。
どなたはんかと話しをするんはどエライ恐いことや思うで。
あと56日。
予約を入れたクリニックを下見に行ったんや。今日は休診日やけど、そやけどアンタ、場所を確認しておきたい思ったんで。電話帳の広告に載っとった地図を紙に書き写して、
3駅ほど離れたクリニックまで行ってんだんや。
駅からちーとばかし離れたトコにあったんやけど、分かりやすい道順やったんで迷うことなくたどり着きましたのや。クリニックの小さな玄関扉の向こうはブラインドが下ろされてて中が覗けまへんやった。建物から察するに中はあんまり広ない思うで。火曜日にはもういっぺんここに来なならしまへん。
クリニックを立ち去るとき、横の方に止めてあった自動車の窓に一瞬わいの上半身がうつったんや。猫背で生気がなく、一重の瞼と腫れぼったい唇とへこんや鼻をした醜い顔のくだらへん奴がうつっとったんや。オノレそやけど、世界中でもっとも醜い顔や思うで。
あと55日。
また「今すぐ死んでまえ」ちうメールをもろたんや。今度はよりどエライ昔のように衝動的に死にたなるようなことはあらへんかったんですわ。ただ冷淡に受け止めただけや。オノレでも不思議なくらいに心が落ち着いとりまんねん。わいは後悔するっちうことを受け入れたし、他人から蔑まれ疎まれることを受け入れたちうワケや。わいは生きるに値せん人間や。
この前切った腕の傷に肉がついてきましたのや。かさぶたを剥がしたあとの気味の悪い色をしてるんや。明日、クリニックに行くときは、この傷痕は隠さのうてはならしまへん。
あと54日。
今日は朝9時頃に目が覚めたんや。毎日毎晩壱年中は昼過ぎに起きんのに、クリニックの予約を入れとったためか無意識のうちにはよ起きてしもたようや。
午前中から身支度を整え、クリニックに向かおりましたわ。約束の時間の15分前にクリニックに着きましたのや。
クリニックの中に入った途端に体中に汗をかいてしもたんや。背中に汗が溜まって流れていくのが分かるんや。冷たい汗や。待合室は外よりも明るく、全体的に白っぽうて清潔な感じがしまっせ。
50代前半くらいの男性が1人、すでに長椅子に座っとったんや。緊張しながら、受け付けの女性に予約を入れとったことを告げまんねん。紙を渡されて名前や住所、症状やらなんやらを書くように言われはりました。紙には、眠れのうて困っとるちうようなことを書きましたのや。ほんでちーとばかしして、待っとった男性が呼ばれはりました。待っとる間、医者から聞かれたことへの返答をいろいろと考えとったんや。
30分くらいして男性が出てきて、今度はわいが呼ばれはりました。逃げ出したい気分やった。そやけど、薬をもらうまでは帰ることはでけしまへん。診察室のドアを開けたとき、初めて女性の先生やと分かったんや。
30代後半くらいの色白で目鼻立ちの整った奇麗で優しそうな女性や。わいは、本日この時までハンサムな男性や奇麗な女性はあんまり見いひんようにしとったんや。オノレでもオノレの醜さが毎日毎晩壱年中より目立ってまうと感じるさかいや。「お願いします」とぬかして、申し訳へんような気分で椅子に座るんや。先生は先ほどわいが書いた紙を見て、具体的な症状を聞きましたのや。わいは額の汗を拭きながら答えたんや。喉の奥が乾いとるのがオノレでも分かるくらいに緊張してるんや。先生は、わいの下手な説明にもいちいち頷いてくれはりました。
診察は30分くらい続きましたのや。わいは「はい」とか「いいえ」やらなんやらと答えることが多かったんやけど、そやけどアンタ、ほんでもオノレのことについて説明するっちうときがおました。この日記以外でオノレのことを話すんは初めてや。他人の視線が気になることや、大学を中退して今はなあんもしておらへんことやらなんやらを話しましたわ。そやけど、いつもの妄想のことや自殺のことは話してへんねん。そのことはぜぇぇぇったいに話してはいけへんことのように思とります。
先生はケツに、
「眠りを促すお薬と不安を軽くするお薬を出しておきまんねん」
と言うたんや。
先生にわいの本心を見透かされてまうようで恐かったんやけど、そやけどアンタ、どないかして不眠の薬をもらうことができたようや。
アパートに帰ってもうた薬を出してみると、1種類はまるっきし知らん名前やった。この前買った本にも載ってへんねん。もう1種類の方は軽い効果の薬やいうことが分かったんや。もっともっともっともっともっともっともっともっともっと強い薬を出したかてらわなならしまへん。
あと53日。
昨夜、クリニックでもろた薬を飲んで寝たんや。薬の効果はよう分からしまへんやった。毎日毎晩壱年中とほとんど変らへん気がしまっせ。こないな風な薬では多量に飲んでも死ねへんなと思てたんや。次にクリニックに行くときには、まるっきし効かへんかったと言おう思うで。
あと52日。
人は希望がな生きていけんとよう言われはります。ほんのちびっとも明るい未来をイメージできなければ、今を生きることがでけへんのや思うで。
もし、この自殺日記を読んでオノレも死にたくなりよった人がおるやったらば、もう2度と読まへんでおくんなはれ。お願いしまっせ。
夢があるんや、心がきれい、ひとを外見で判断せん、働き者、努力を惜しまへん、頑張り屋、勇気があるんや、たくましおます、明るい性格、謙虚、義務感があるんや、ずぅぇえええぇぇええんぶの言葉が嘘のように思えまんねん。明るい未来を願うことがでけへん人間は、わい1人で充分や。
あと51日。
コンビニに弁当を買いに行った帰り、猫の死骸を見つけたんや。頭が半分以上陥没してて、後頭部から血と脳髄らしいもんが出とったんや。前足が変な方向に曲がっとりまんねん。その曲がった足の先に何ぞ小さな白いもんがついとったんや。わいは足で蹴飛ばして猫の死骸をひっくり返してんだんや。猫の足の先についとったんは蛆虫やった。腹部に蛆が湧いてて、地面にわらわらと這い広がっていきましたのや。わいの靴の先にも蛆が付いてしもたんや。わいは靴をアスファルトになすり付けるようにして蛆虫を潰しましたわ。
家に帰ってから明るいトコロで靴を見ると、潰した蛆虫が黒い染みになっとったんや。靴をホッてしまおう思ったんやけど止めたんや。わいも死んやらあの猫のようになるでっしゃろから。
あと50日。
クリニックでもろた薬は飲んでいまへん。パッケージから出して銀色のケースに入れておます。
1週間分の錠剤を見とったら、昨日の猫の死骸にわいとった蛆虫を思い出しましたわ。
たしかに昨日見た猫の死骸には蛆がわいとったんや。そやけど、この寒空に蛆がわくやなんてことがあるんでっしゃろか?あらもしかしたら夢かもしれんと思おりましたわ。クリニックで薬をもろてきてから、どんどん現実感がなくなっとりまんねん。ほんで夢と現実をごっちゃにしてしもたんかもしれしまへん。
わいは昨日履いた靴を玄関に見に行ったんや。靴の先にはかすかに染みができとりまんねん。そやけど、前からあった染みのようにも思えまんねん。猫の死骸は強烈に記憶に残っとりまんねん。猫の死骸があった場所に行ってみることにしましたわ。
外はすでに暗くなってて、アパートの階段の灯りがついとったんや。猫の死骸があった場所に行ってみると、猫の死骸はのうて、地面に黒い染みのようなもんが付いとったんや。タブン...たぶんやで、わいもよー知らんがタブンどなたはんかが死骸を片づけたんやろうなと思てたんや。あら蛆虫やのうて、猫の腹の中にいた回虫かもしれしまへん。そやけど、回虫にしては短うて数がようけおりましたわ。
もう何が現実なんかようわからしまへん。
あと49日。
夕方、わいのアパートの前の道で、小さな女の子たち(タブン...たぶんやで、わいもよー知らんがタブン小学校低学年くらいや思うで)がクリスマスの歌を歌っとるのが聞こえてきましたのや。台所でじっと身を潜めて女の子たちに気づかれへんように聞いとったんや。
クリスマスが楽しかった思い出は1度もおまへん。毎日毎晩壱年中1人で過ごしとったんや。ケーキをこーたらきには、わい以外食べる人はおらんんやけど、数人でパーティーをするっちうことを装ちう、大きなサイズのもんをこーておりましたわ。それをたった1人で部屋の中でテレビを見ながら食べるんはどエライ寂しかったや。
もう今年はそないなことはしまへん。
あと48日。
明日はクリニックに行く日や。また他人と話しをしのうてはならしまへん。毎日毎晩壱年中のようにわいが話さなならへんことを何度も繰り返して考えてみまんねん。薬はまるっきし効かへんかったことと不眠はまだ続いとること、生活に何の変身もへんことを伝えまんねん。今度は初診のときよりも短い時間で終る思うで。クリニックの先生には不信感を持たれとうない思うで。
あと47日。
午後の早い時間にクリニックへ行ったんや。
待合室に入ると、待っとる人はわい以外どなたはんもいまへんやった。待合室の椅子に座って待っとったら、隣のトイレから小用の音が聞こえてきましたのや。わいは、きっと通院してん男性がトイレに入っとるんやな思ったんやけど、出てきたんは20代中頃くらいの女性やった。その女性は一瞬おったまげた様子やったが、何事もへんかったように椅子に腰掛けたんや。わいは、変なことを考えてしもた恥ずかしさとオノレは汚らわしい人間やいう思いで俯いてしもたんや。
診察では、昨日考えてきたことを先生に伝えたんや。
先生は、
「お薬によって合う人と合いまへん人がおるさかいに、今日は別のを出しておきまんな」
と言うたんや。
わいは、「もっともっともっともっともっともっともっともっともっと強い薬を出して欲しい」と言おう思ったんやけど、ケツまで言えしまへんやった。何人かの方から、「今の精神科では弱い薬しか出さへん」ちう内容のメールをもろておりますわ。強い薬をもらいたかったら、「自殺したい」くらいのことを医者に言わなならへんようや。そやけど、わいは本心を先生にぬかすのが恐いや。オノレをずぅぇえええぇぇええんぶ見透かされてまうような気がしまっせ。何の才能ものうてずるうて汚らわしうてロリコンの醜いわいを、奇麗な先生には見せとうおまへん。
診察が終わった後、トイレに行ったんや。本日この時まで気づかへんかったけど、男女共用のようで、三角形の小さなごみ箱が隅に置いておました。さっきの女性もこのごみ箱をつこうたんかもしれんと思い、ちびっと興奮してんオノレに気づきましたのや。ゴミ箱の蓋を音を立てへんようにそっと開けてみると、トイレットペーパーが巻かれたもんが入っとったんや。また蓋をゆっくり元に戻し、立ち上がってドアがロックされとることを確認しましたわ。わいはホンマにどないしょもなく汚らわしい人間や。毎日毎晩壱年中より念入りに手を洗おりましたわ。
アパートに帰り、この前と同じようにもろた薬を調べてみまんねん。今度も効力が弱い薬やった。やっぱり自殺したいことを先生に言わなならへんかもしれしまへん。
あと46日。
自殺したいことやけを言い、わいの本心は隠しておく。専門の医者を相手にしてそないなことができるんでしょうか?
タブン...たぶんやで、わいもよー知らんがタブンわいには無理や思うで。半分は嘘の不眠の話も何度も復習してやっと伝えることができましたのや。これ以上、嘘をぬかすことはでけへん思うで。もし言うたら嘘がばれてまうような気がしまっせ。わいの本心を知ってもタブン...たぶんやで、わいもよー知らんがタブン先生は診察を続ける思うで。先生は医者で、それが職業やから。そやけど、本心では軽蔑するかもしれしまへん。気持ち悪い思うでっしゃろ。それがどエライ恐いや。
あと45日。
今日はずっとクリニックの先生のことを考えとったんや。どなたはんかに似とるような気がしまっせ。そやけど、どなたはんなんか分からしまへん。もんごっつ身近な人のような気がしまんねんけど、タブン...たぶんやで、わいもよー知らんがタブンそらわいの思い違いや思うで。親しい人は1人もおらへんし、あないな綺麗で優しい人は知らしまへん。
このまんまクリニックに通っても、効果の強い睡眠薬を手にぶちこむことができるとは思えしまへん。睡眠薬で死ねんとなると、首を吊るか飛び降りか、電車に飛び込むことくらいしかおまへん。飛び降りも電車に飛び込むのも、今では何ぞちゃうような気がしまっせ。やっぱり多少苦しうても首を吊ることを選択するしかいないかもしれしまへん。
あと44日。
今日はクリスマス・イブや。そやけど、わいにはもう関係おまへん。
生きることに意味はないと言える人は、どエライ強い人や思うで。そうではおまへん人は、オノレには価値があらへんから、何ぞ別のもんに2次的に生きる意味を求めてまうのや思うで。どなたはんかのために生きるとか、どなたはんかに生かされとるちう人は、生きることの意味を持たせようとしてんのや思うで。
わいは、どなたはんかのために生きとるとも生かされとるとも思えしまへん。かというて、生きることに意味がな言えるだけの強さもおまへん。オノレには価値がな分かっとるんやけど、オノレの中に生きる意味を求めてもうていたんは、わいが弱いさかいや。
生きることは、悲しうて辛うて孤独や。
あと43日。
オノレを偽るクリスマスは、今年はあらへんかったんですわ。ただ毎日毎晩壱年中のように辛うて寂しい思っとった日やった。単なる毎日の中の1日や。
年が明けたら太目の縄をこーてこよう思うで。
あと42日。
死に場所を考えとりまんねん。どなたはんもいのうて静かいな場所で死にたい思うで。できれば死んでからすぐに発見されとうおまへん。少へんでも半年くらいはどなたはんの目にもとまりとうないや。ホンマは、わいの肉が腐り骨だけになり、その骨も風化して土になってしまいたいや。そうなったらわいの存在はまるっきしなくなるんですわ。
そないなどなたはんもおらへん場所はあんまりあらへん思うで。そやけど、1ヶ所だけ思い当たる場所がおます。ごっつう山奥やけど、そやけどアンタ、あそこやったらどなたはんもおらへんし静かいな場所や。正確な場所は分からしまへんが、行ってみるだけの価値はある思うで。
あと41日。
わいはクズや。
先生さえも汚してしもてたんや…。
あと40日。